弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

概ね定額で支給されている成果給は歩合給(出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金)にあたらない

1.歩合給の割増賃金(残業代)

 日給制や月給制の労働者の場合、割増賃金を計算するうえでの基礎となる「通常の労働時間・・・の賃金」は、日給や月給を所定労働時間数で除して計算されます(労働基準法施行規則19条2号、4号参照)。そして、時間外労働に対しては、1.25倍の割増賃金の支払が必要になります(労働基準法37条1項、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令参照)。

 これに対し、歩合給(出来高払制その他の請負制)の場合、通常の労働時間の賃金は、歩合給総額を賃金算定期間における総労働時間で除して計算されます(労働基準法施行規則19条6号)。この計算方法によると、時間外労働に対する時間あたりの賃金、すなわち1.0に該当する部分は、既に基礎となった賃金総額のなかに含められることになります。したがって、支払わなければならない割増賃金は、時間外労働に対応する通常の賃金額に0.25を乗じた限度で足りることになります(厚生労働省労働基準局編『労働基準法 上』〔労務行政、平成22年度版、平23〕517-518頁参照)。

 このように日給制や月給制と、歩合給(出来高制その他の請負制)との間には、割増賃金の計算方法に差があります。日給・月給の一部なのか、歩合給なのかが良く分からない賃金項目がある場合、労働者の側からすると、日給や月給の一部と理解された方が時間外勤務手当等の計算上、有利になるのが普通です。

 それでは、日給・月給と、歩合給とは、どのように区別されるのでしょうか?

 ほぼ定額で支払われているような「成果給」でも、就業規則や賃金規程の文言上、業績と紐づけられていれば、歩合給にカテゴライズされてしまうのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。長崎地判令4.11.16労働判例1290-32 不動技研工業事件です。

2.不動技研工業事件

 本件の被告は、機会、プラント、船舶、自働車、土木建築等の設計等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の労働者3名です(原告P1、原告P2、原告P3)。競業避止義務違反や競業行為への加担等を理由とする懲戒処分等(懲戒解雇、降格、諭旨解雇)を受け、その効力を争って地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 この事件では地位確認だけではなく様々な請求が付加されており、その中の一つに未払割増賃金の請求がありました。そこで問題になったのが、「成果給」とされる賃金項目の取扱いです。

 原告はこれを歩合給ではないと主張しましたが、被告はこれを歩合給だと主張しました。

 裁判所は、次のとおり述べて、これが歩合給であることを否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、割増賃金の計算方法について、前記・・・のとおり主張するところ、そのうち成果給について、割増部分のみを乗じて計算しているのは、成果給が労基法施行規則19条1項6号所定の賃金に該当することを前提としているものと解される。被告は、社員賃金規則・・・において、成果給について、売上げ、業績及び勤務態度を総合的に判断した査定基準により、毎月の成果を査定して支給する旨規定しているところ、原告P1については、前記のとおり、概ね定額で支給していたから、同号所定の賃金に当たるとは認められず、成果給に関する上記計算方法は、労働基準法13条により無効である。

「そうすると、原告P1の割増賃金については、同原告主張の賃金単価及び計算方法により計算すべきこととなる。」

3.不明確なロジックで概ね定額で支給されている成果給は歩合給ではない

 裁判所は、計算式によらず、売上げ、業績、勤務態度等を総合的に判断して支給するとされ、概ね定額で支給されていた成果給が歩合給(出来高制その他の請負制)であることを否定しました。

 ある賃金項目が日給・月給なのか歩合給なのかで、割増賃金の額が大きく異なってくることがあります。

 そうした場合に、ある賃金項目が日給や月給の一部として理解すべきなのか、歩合給として理解すべきなのかを判断するにあたり、裁判所の判断は参考になります。