弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

オフィスの鍵を持たされ、ゴミ出し等の業務を行っていたことから早出残業の労働時間性が認められた例

1.早出残業の認定は厳しい

 タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時間のカウントを開始してもらうためには、「使用者から明示的には労務の提供を義務付けていない始業時刻前の時間が、使用者から義務付けられまたはこれを余儀なくされ、使用者の指揮命令下にある労働時間に該当することについての具体的な主張・立証が必要」で、「そのような事情が存しないときは、所定の始業時刻をもって労務提供開始時間とするのが相当である。」と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕68頁参照)。

 このように早出残業(始業時刻前に出勤して働くこと)の立証は、必ずしも容易ではありません。しかし、近時公刊された判例集に、早出残業の労働時間性の立証に成功した裁判例が掲載されていました。東京地判令4.11.30労働判例ジャーナル138-36 海外商事事件です。

2.海外商事事件

 本件で被告になったのは、外国人及び日本人VIP向け高級賃貸住宅、マンションの仲介、斡旋、賃貸営業及び契約手続代行業を営む株式会社です。

 原告になったのは、主に翻訳業務に従事している被告の授業員の方です。賃金減額の効力を争い、未払賃金を請求すると共に、時間外労働をしていたと主張し、割増賃金を請求する訴えを提起したのが本件です。

 割増賃金請求に関し、原告はタイムカードに打刻された時刻を基に金額を計算しました。これに対し、被告は、

「原告の早出及び居残り残業は被告が命じたものではない」

などと主張し、割増賃金の支払義務を争いました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、タイムカードに打刻された時刻を始終業時刻と認定しました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告のオフィスの鍵を所持していたため、タイムカードに打刻された時刻に出社してごみ出し等の業務を行い、日中は翻訳業務等に従事し、タイムカードに打刻された時刻に退社していたこと、現在、被告は、原告に被告のオフィスの鍵を所持させておらず、残業もさせない方針であるため、原告は定時に出社、退社していることが認められる。そうすると、タイムカードに打刻された時刻が始終業時刻と認められるから、原告の実労働時間は別紙3-2裁判所時間シート記載のとおりと認められる。」

「これに対し、被告は、原告の早出及び居残り残業は原告が命じたものではないと主張する。しかしながら、被告代表者は、原告に被告のオフィスの鍵を持たせ、原告がごみ出し等のために所定の始業時刻より早出出勤し、所定の終業時刻後も居残りしていたにもかかわらず、現在と異なり、特段の対応もしなかったのであるから、原告が被告のオフィスにいる間は、少なくとも被告の指揮命令下にあったものと認められる。したがって、被告の主張は採用できない。」

3.オフィスの鍵をもたされ、ゴミ出し等の業務を行っていたケース

 本件では、原告がオフィスの鍵を持たされ、ゴミ出し等の業務を行っていたことを理由に、タイムカードのに打刻された時刻からの稼働が認められました。

 タイムカードを打刻してから始業時刻までの間に、ゴミ出しや清掃などの作業をしていながらも、それを労働時間としてカウントしてもらえていない方は、少なくないのではないかと思います。なぜ、そう思うのかというと、法律相談や事件処理をしている中で目にすることが多いからです。

 本件で裁判所が行った判断は、早出残業の労働時間性を立証するにあたり参考になります。