弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-12-01から1ヶ月間の記事一覧

1か月単位変形労働時間制-個別合意は就業規則上のシフトパターンの欠如を補完するか?

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

1か月単位変形労働時間制-24時間365日の福祉サービスの提供は、シフトパターンを就業規則にないことを正当化するか?

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

配転命令権の濫用-「高度の必要性」を否定したうえ、不法行為該当性を肯定した例

1.配転命令権の濫用 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであ…

過半数代表者について「多くの従業員から人望があることに鑑み、過半数代表者となっていた」ではダメだとされた例

1.1年単位の変形労働時間制と過半数代表者 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図るこ…

定時よりも相当早い出社(1時間以上前)であることに着目して早出残業が認められた例

1.早出残業の認定 タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時間のカウ…

社会的に未熟な休職者を騙して労働者を安い給料で働かせようとしたとして、賃金の消滅時効の援用が許されないとされた例

1.「求人詐欺」問題 求人票で示された労働条件と現実の労働条件が異なることを、俗に「求人詐欺」といいます(水町勇一郎 『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕1065頁参照)。 分かり易く言うと、求人票で高い労働条件を示して魅力ある人…

提出書証が二通だけでも、LINEメッセージの送信でパワハラが認定された例-「何年店長やってんだよ」「雑魚営業以下」「日本語大丈夫?」

1.LINEでのパワハラ 業務用の連絡にLINEを使っている会社は少なくありません。 LINE上のメッセージというと、記録に残ってしまうことから、ハラスメントのツールとしては不向きであるようにも思われます。 しかし、法律相談等を受けていると、…

勤務時間区分等が就業規則にない1か月単位の変形労働時間制について、争うことに合理的な理由がないとされた例

1.賃金の支払の確保等に関する法律 退職後に残業代を請求する場合、14.6%の遅延利息を請求するのが通例です。 民法上の法定利率が年3%とされていること(民法404条2項)と対比すると、かなり高い利率であることが分かると思います。 こうした高…

合理的期待の内容-同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか?-警戒すべき裁判例の出現

1.雇止め法理-合理的期待 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) 場…

1年単位の変形労働時間制の効力を争うための着眼点-公休予定日が出勤日に変更されている実態はないか?

1.1年単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的にした…

法の予定する出来高払制(歩合制)というためには緩やかな相関関係では不十分とされた例

1.出来高払制の賃金かは、なぜ揉める? 出来高払制(歩合制)とは、 「労働者の製造した物の量・価格や売上げの額などに一定比率を乗じて額が定まる賃金制度」 をいいます(亀田康次ほか『詳解 賃金関係法務』〔商事法務、初版、令6〕215頁参照)。 労…

被害者と引き離せないことは、軽微なセクハラを理由とする解雇を正当化するか?

1.セクシュアルハラスメントの事後措置 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)は、事業主に対し、職場においてセクシュアルハラスメントが発生した場合、事…

「懲戒解雇の普通解雇への転換」の逆パターン、普通解雇を懲戒解雇に転換することは可能なのか?

1.懲戒解雇の普通解雇への転換 懲戒解雇の普通解雇への転換という論点があります。 これは、懲戒解雇として無効な解雇を、普通解雇として有効にすることができないのか? という脈絡で議論される問題です。 通説は、この問題を、次のように整理しています。…

解雇にならないレベルのセクハラ、解雇無効を勝ち取るための対応

1.セクシュアルハラスメントの処分量定 国や自治体、企業の多くは、セクシュアルハラスメントを懲戒事由として定めています。例えば、人事院総長発「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職-68)は、 「暴行若しくは脅迫を用いてわいせつ…

関係が良好であることをうかがわせるLINEメッセージのやりとりがあっても、真摯な性的同意はないとされた例

1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 セクシュアルハラスメントというと、嫌がる異性に対して、無理矢理性的な関係を強要するといったイメージを持たれる方もいると思います。 しかし、現代では、こうした古典的なセクハラを目にすることは、それほど…

大学が行う内部研究費の配分も、嫌がらせ目的等があれば、労働契約上の債務不履行となる余地があるとされた例

1.研究費の配分を受けられない問題 昨日、 大学教員が専攻分野の研究を行うことに権利性が認められた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事の中で、大学当局が大学教員の外部研究費の獲得に協力しないことが、労働契約上の債務不履行を構成する余地が…

大学教員が専攻分野の研究を行うことに権利性が認められた例

1.大学教員の就労請求権 労働者は使用者に対し、働かせて欲しいと請求することができるのでしょうか? これは、一般に、就労請求権と呼ばれている問題です。 読者の中には 「賃金さえ支払われているのであれば、わざわざ働かせて欲しいと言う必要はないの…

外部研究費の獲得への非協力、内部研究費の零査定、研究内容の広報の差別的措置をめぐる損害賠償請求訴訟が適法とされた例

1.大学教員と大学との係争 大学教員と大学との係争には、通常事件にはない幾つかの特徴があります。 その中の一つが、大学の自治や「部分社会の法理」と呼ばれている問題です。 憲法で保障されている学問の自由(憲法23条)には、大学の自治が含まれます…

目標未達の責任をとって頭を丸めるように指示することや「〇〇に飛ばして平社員からやらせる」との言動が違法とされた例

1.パワハラにあたる言動 職場におけるパワーハラスメントは、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素を全て満たす…

医療従事者の労働事件:違法行為の強要(医師による指示を欠いた患者に対する身体的拘束・隔離)により精神障害を発症したと認められた例

1.違法行為の強要 パワーハラスメントというと、 身体的な攻撃、 精神的な攻撃、 人間関係からの切り離し、 過大な要求、 過小な要求、 個の侵害、 の六類型が有名です。これは、 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景と…

日常的な暴言を立証するための録音のキーワード「おまえががんやと言うてるやん、『いつも』」

1.パワーハラスメントによる心理的負荷と反復継続性の立証 労災を申請する場面でも、損害賠償を請求する場面でも、パワーハラスメントに基づいて精神障害を発症したと主張する場合、 パワーハラスメントの強度 が問題になります。強い心理的負荷をもたらす…

大学教員の労働問題-人事評価を目的としない授業評価アンケートの結果を雇止め理由にできるのか?

1.授業評価アンケート 教育を改善するための取り組みとして、現在、多くの大学において、学生による授業評価アンケートが実施されています。 関内隆ほか「主要国立大学における『学生による授業評価』アンケートの分析」〔東北大学高等教育開発推進センタ…

大学教員が学生の出来栄えについて「論外」「愚行」「最低最悪」と酷評したことなどが雇止めの理由になるとされた例

1.授業中の言動や学生とのトラブル 学問の自由(憲法23条)として教授の自由が保障されていることや、教育内容の専門性の高さから、大学教員には、授業の内容や進め方について、一定の裁量が認められています。教育的観点からの合理性が認められる限り、…

大学教員の不安定雇用問題-専任教員への昇任が予定されていない「月給」3万5000円の非常勤講師にも5年無期転換ルールの例外は適用されるのか?

1.大学の教員等の任期に関する法律 労働契約法18条1項、第1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が…

大学教員の不安定雇用問題-5年無期転換ルールの例外を適用するための「任期」はどのタイミングで定めておくことが必要なのか?

1.大学の教員等の任期に関する法律 労働契約法18条1項、第1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が…

就業時間中のインターネット閲覧-現実的にあり得ない時間数が提示された場合の反論

1.就業時間中の私的なパソコンの使用 仕事をしている最中、私的にインターネットを使ったことのある方は、少なくないように思います。 常識的な範囲内の時間である限り黙認されていることが多いのですが、実務上、懲戒や解雇などの不利益処分がなされる段…

紛争後に作成される従業員アンケートの証拠価値(使用者側に有利な回答が信用性に乏しいとされる一方、不利な回答の存在が労働者の利益に評価された例)

1.紛争後、使用者側で作成される従業員アンケート 解雇事件に限った話ではありませんが、労働者が使用者に対して法的措置をとると、使用者側から従業員アンケートの回答が証拠提出されることがあります。 例えば、ハラスメントを理由とする損害賠償請求訴…

弁明の中で「どんなペナルティでも受ける」と述べたことは後の処分でどう影響するか?

1.もし、それが事実ならどんな処分(ペナルティ)でも受ける 勤務先から不正行為の調査を受けている時に、弁明の内容を信じてもらうため、 「もし、それ(不正行為)が事実ならどんな処分でも受ける」 という趣旨のことを言ってしまう人がいます。 しかし…

預託金の使途について一部領収書がない場合、金銭を管理していた労働者を解雇できるのか?

1.金品の横領 当たり前のことですが、会社の金銭を使い込むことは解雇理由になります。 「一般的に金銭の不正については裁判所の態度は厳格であり、事実が認められると解雇が有効になることが多い」 と理解されています(第二東京弁護士会労働問題検討委員…

解雇紛争にみる金品の受領と社会的儀礼の範囲

1.金品の受領 職務の公正を守るため、仕事上の関係者から金品を受領することを禁止している組織、団体は少なくありません。 例えば、公務員は職務に関連して賄賂を収受すれば収賄罪(刑法197条1項)に問われますし、弁護士職務基本規程49条1項は、…