弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部下が嫌がって拒絶しているにもかかわらずゲイバーに行こうと執拗に誘った行為が違法とされた例

1.飲み会にまつわるセクハラ

 来週から12月に入ります。

 この季節になると、忘年会などの飲み会が増えてきます。飲み会の増加に比例して増えるのが、ハラスメントに関する相談です。酒食の場での緊張が緩んだり、酒が入ることで判断能力が低下したりするためか、飲み会のとの関係でハラスメントが生じることは少なくありません。

 しかし、飲み会の場であることは、ハラスメントの免罪符にはなりません。近時公刊された判例集にも、飲み会の席でのセクシュアルハラスメントの成否等が問題になった裁判例が掲載されていました。東京地判令6.5.28労働判例ジャーナル152-28 協成事件です。

2.協成事件

 本件で原告になったのは、エレクトロニクス関連部品の製造等を行う株式会社です。

 被告になったのは、原告の営業職として雇用されていた方です。

 本件は、使用者側が原告となって、休職期間満了による雇用契約の終了等を理由として、労働契約の不存在確認を求めて労働者である被告を提訴した事件です。

 これに対し、被告は、雇用契約の終了を争い地位確認等を請求するとともに、セクシュアルハラスメントを理由とする損害賠償を請求する反訴を提起しました。

 本日焦点をあてたいのは、損害賠償請求についてです。

 被告は、次のとおりセクシュアルハラスメントを受けたと主張しました。

(被告の主張)

「被告は、平成29年6月から配属された第二営業部における上司であったJ課長(以下『J課長』という。)から、以下のようなセクハラ行為の被害を受けた。

〔1〕キャスター付きの椅子で、職場内で隣の席に座る被告に近づき、顔の間近で『何をしてるの』と毎日約1時間ごとに話しかけてきた。

〔2〕上記のように話しかけながら、被告の太ももを触ったり、『α×丁目のゲイバーに一緒に行こう』と誘うことが週に2、3度続いた。『アナルセックスが気持ちいい』と語りかけることが2回、『お尻が痛い』『営業マンをやる以上、それを経験する必要がある』と語りかけることが十数回あった。」

〔3〕トイレで被告の臀部を触ったり、他の社員に対し『Bさんをα×丁目のゲイバーに誘った』などと話したり、飲み会の席でも被告をゲイバーに誘ったりするなどした。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、J課長の行為に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告は、上司であるJ課長から、前記・・・【被告の主張】・・・のとおり,セクハラ被害を受けた旨主張し、本人尋問及び陳述書・・・において同旨の供述ないし記載をする。他方、J課長は陳述書・・・において、自らは同性愛者ではなく、被告の主張は事実無根である旨記載しているが、証人に採用されたものの精神疾患を理由に出廷しなかった。」

「被告の本人尋問における供述は、具体的な行為態様も再現するなど、かなり詳細かつ迫真性に富む内容を含んでいるが、他方で、証拠・・・によれば、J課長が顔を近づけるのは目が悪い故の癖である可能性があること、被告とJ課長の席は隣接していたが、周囲にも多数の従業員のいる環境にあり、衆人環視の中で大胆な行為には及びにくい状況にあったこと、平成30年9月の時点でα×丁目に誘われた事実を労働組合に申告しながら、太ももに触られるという程度の行為についてすら言及していないことは、恥ずかしくて打ち明けられなかった等の事情を考慮しても、いささか不自然であること等に鑑みると、直ちにその供述どおりの事実を認めるのは困難である。」 

他方で、被告は平成30年9月の時点で労働組合に対し、何度も断っているにもかかわらず、J課長からは営業マンをやる以上は必要だとしてα×丁目に年に5、6回の頻度でしつこく誘われたという限りでは被害申告をしており・・・、その内容は、現在に至るまで概ね一貫していること、原告が実施したヒアリング調査でもJ課長とαの飲食店の話題で盛り上がった旨の供述は得られていること・・・、その他弁論の全趣旨に照らすと、J課長が、嫌がる被告に対し、α×丁目のゲイバーに行こうと執拗に誘った事実は認めることができる。

かかるJ課長の行為は、飲食への誘いを超える意図を伴うものとまでは認められないものの、被告が嫌がって拒絶しているにもかかわらず執拗に誘うことは、被告に対する不法行為を構成するというべきである。これによる慰謝料額は、行為態様のほか、主治医の陳述書(乙45)によっても被告の精神的不調への寄与の程度は明らかでないこと等の事情に鑑み、10万円と認めるのが相当である。」

3.飲食を超える意図がなくても違法

 セクハラというと、性的な関係を結ぼうという意図のもとでなされる行為をイメージしがちです。しかし、セクハラが違法性を帯びるのは、必ずしもそうした場合に限られるわけではありません。別段、飲食を超える意図がなかったとしても、嫌がる相手方に対し、執拗に特定の性的嗜好をもった店に連れて行こうとすれば、それは不法行為を構成します。

 二次会等で行きたくもない店に連れて連れて行かれそうな方は、こうした裁判例があることを知っておくと、役立つかもしれません。