弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2025-01-01から1年間の記事一覧

精神障害の業務起因性を判断するにあたり、最新の認定基準を参考にすると判示された例

1.改定される認定基準 精神障害が労災になるかどうかの判断が確定するまでには、かなりの年月を要することがあります。労災申請⇒不支給処分⇒審査請求⇒再審査請求⇒訴訟第一審⇒訴訟第二審⇒最高裁といったような経過が辿られるからです。最高裁まで行くケース…

カスハラ対策の義務化を前に~「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」類型で心理的負荷が「強」とされ自殺に業務起因性があるとされた例

1.顧客や取引先からの対応が困難な注文や要求 平成11年9月14日 基発第545号「精神障害による自殺の取扱いについて」は、 「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著し…

日付を遡らせた有給休暇の届出は、提出日を始期とする届出としても無効なのか?

1.有給休暇の取得 年次有給休暇を取得するにあたっては、次のとおり理解されています。 「労働者が年休の『具体的時期』(その始期と終期)を特定して時季指定を行った場合,使用者が適法に時季変更権を行使しない限り,その時期に年次有給休暇が成立し,…

禁止理由の説明が不十分であったことから、精神疾患を有する従業員に対して行われた自動車運転禁止命令違反を理由とする解雇が不合理不相当とされた例

1.精神疾患(精神障害)と自動車の運転 精神疾患(精神障害)に罹患している場合、運転免許証の交付を拒否されることがあります。 運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について|警察庁Webサイト しかし、精神疾患を持っている人の全てが自動…

「また昔のように一緒に仕事をしよう」との言葉が、それ以前の解雇理由を重要視すべきものではないと考える根拠とされた例

1.多数の解雇事由が掲げられる事件 解雇された労働者を代理して、使用者に対し、解雇理由が何なのかを問い質すと、多数の事由が列挙されて返ってくることが少なくありません。このように多数の事実が列挙されてくる事案では、本質的な解雇事由と、そうでも…

退職金(退職手当)の金額が何となく誤っているかもしれないという可能性を想起した職員に差額返還を申し出るべき義務はあるか?

1.複雑な退職金(退職手当)の計算 大企業や公務員の退職金(退職手当)の計算は、複雑であることが少なくありません。例えば、人事院は、退職手当の計算例として、下記のような例を挙げています。 【定年退職で在職中に休職期間のある例】 生年月日:昭和…

労働者が使用者に対して労働条件等について質問し、又は自分の意見を述べることが解雇事由に当たるとはいい難いとされた例

1.解雇に向かうプロセス 例外もなくはありませんが、ある日、唐突に解雇が告知されることはあまりありません。概ねの解雇は、会社と労働者との関係が徐々に悪化して行った後、その延長線上で告知されます。 この関係が悪化して行くプロセスの中で、しばし…

懲戒解雇としての解雇事由が解雇通知書記載の事実のみとされた例

1.解雇理由が書かれた文書の位置付け 当たり前のことですが、解雇されるには何某かの理由があります。解雇理由は解雇を通知する際の文書に記載されていることもあれば、解雇理由証明書の交付(労働基準法22条2項)を求めて文書化されることもあります。…

労働契約継続中、新たに就業規則を作成した場合、労働条件の変更の可否は労契法何条の問題か

1.労働契約締結の場面での「合理性」と変更の場面での「合理性」 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、…

約5か月間、連絡や交渉をしていなかったとしても、解雇を受け入れていたと認めることはできないとされた例

1.解雇の効力を争う地位確認請求訴訟の提起は早めに行うこと 過去にも何度も言及していますが、実務上、古い事件を掘り起こすことは簡単ではありません。 在職中の労働条件の不利益変更の効力は、時間が経過しても争える場合がありますが、解雇のように従…

中小企業退職金共済制度に基づく退職金を受領しながら解雇の効力を争う時の留意点

1.中小企業退職金共済制度 「中退共」という言葉があります。 これは中小企業退職金共済制度の略称です。 中小企業退職金共済制度は、中小企業退職金共済法に根拠があり、 事業主が中退共(独立行政法人勤労者退職金共済機構)と退職金共済契約を結ぶ、 事…

パワハラの場合にも「関係の悪化を避けるために、友好的案関係を築こうとすること」が不自然ではないとされた例

1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、セクシュアルハラスメントの被害者心理について、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも…

「あなたのことが大好きで仕方がないんだ。」「奥さんがいなかったらあなたと結婚したい。」等の好意を告げる発言がセクハラとされた例

1.好意を伝えることはセクシュアルハラスメントにあたるのか? 一昔前のセクハラと言えば、嫌がる異性の身体に接触するといった行為でしたが、近時、そうした不同意わいせつ紛いの事件は、相談の場で目にすることが少なくなっています。 その代わりに増え…

給与規程に固定時間外手当の定めがあり、契約書の月給欄に時間外手当の表示があっても固定残業代の主張が認められなかった例

1.固定残業代の有効要件 最二小判令5.3.10労働判例1284-5 熊本総合運輸事件は、固定残業代の有効要件について、 「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付け…

懲戒目的・懲罰目的が、配転命令を違法とする「不当な目的」に該当すると判断された例/業務上の必要性が懲戒目的を否定しないとされた例

1.配転命令権の濫用と「不当な目的」 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるも…

裁判所における労働者性の判断に労働基準法研究会報告とのズレが生じているのではないか?

1.労働者性の判断基準 労働法の適用を受けないようにするため、業務委託や請負といった法形式が使われることがあります。 しかし、こうした法形式を使いさえすれば適用を免れることができるとなると、労働法で定められているルールは死文化してしまいます…

供述者の氏名がマスキングされている調査報告書のみを根拠にパワーハラスメントを認めることは困難とされた例

1.パワーハラスメントを理由とする解雇等 数年前、パワーハラスメントを理由とする分限免職処分を違法だと判示した一審、二審の判断が、最高裁で破棄される事件がありました(最三小判令3.9.13労働判例ジャーナル128-1 長門市・長門消防局事件…

割増賃金を支払わなかった会社の賃金支払債務と会社代表者の損害賠償義務とが不真正連帯債務であると判示された例

1.賃金の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 賃金を払ってもらえない労働者…

必ず残業が発生することを前提とする固定残業代の合意の効力をどのように考えるのか?

1.固定残業代 固定残業代とは、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残…

休憩を十分に取ることができなかったとの労働者の主張が認められた例

1.休憩時間とされている時間にも働いていた場合 残業代請求訴訟で争点化しやすい問題の一つに、休憩時間の労働時間性があります。 これは要するに、 休憩とされている時間にも働いていた、 という主張です。 しかし、休憩時間に働いていたことの立証は、必…

経営環境が異なるにもかかわらず、タイムカードのある期間からない期間の時間外労働時間数を推計することが認められた例

1.残業時間の推計 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、労働者側で、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 がある…

賃金債権との相殺合意は事後的かつ黙示的な同意では認められないとされた例

1.相殺禁止と相殺合意 労働基準法24条1項本文は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」 と規定しています。「全額を」という言葉の趣旨から、使用者は労働者に対する権利と賃金支払義務とを相殺することはできないと…

従業員全員を集めて一度に説明し、給与がいくら減額になるかも伝えず、書面もないといった事実関係のもと、賃金減額合意が認められなかった例

1.自由な意思の法理以前の問題 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、賃金減額の合意に対し、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為がある…

振動工具の使用時間を把握し、その使用時間や程度に応じて必要な措置を講じるべき注意義務が認められた例

1.振動工具使用時間把握義務 使用者に労働時間管理義務があることは、良く知られています(平成29年1月20日策定『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』、労働安全衛生法は、66条の8の3、労働安全法施行規則5…

時間外勤務を認識しつつ、業務軽減対策をとるなどの対応をしていないことから地方公務員に対する黙示の時間外勤務命令があったとされた例

1.使用者側の「勝手に働いていただけだ」という反論 残業代を請求するにあたっては、労働者側で実作業時間の立証に成功しても、使用者側から「勝手に働いていただけだ」と反論されることがあります。こうした反論は、しばしば許可残業制を採用している会社…

地方公務員の残業代請求-時間外勤務命令簿ではなくPCの起動/シャットダウン時刻、休日登庁簿に基づいて労働時間が認定された例

1.労働時間の立証 労働時間が管理されていない会社に対して残業代を請求するにあたっては、日々の始業時刻、終業時刻を立証するための工夫が必要になります。例えば、PCの起動/シャットダウン時刻、ビルへの入退館記録、メールの送信記録を利用するとい…

条例に基づく割増賃金の計算方法が、労働基準法に反しているとされた例

1.法律と条令の関係 憲法94条は、 「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」 と規定しています。 つまり、法律と条令とでは法律の方が優先する関係にあり、条例は…

フリーランスが労働者性を主張して残業代を請求するにあたり、概括的な立証が認められた例

1.フリーランスの労働時間立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 がある…

歩合制の配送業務従事者に労働者性が認められた例

1.配送ドライバーの労働者性 配送業務では、しばしば、大手運送会社⇒中小運送事業者⇒個々の配送事業者(個人事業主)という形の多重請負構造がみられます。 この多重請負構造の末端にいる個々の配送事業者は、業務委託契約のもとで働いている個人事業主(…

転職サイトに退職者が書き込んだパワハラが存在するとの指摘は、「意見・論評」か「事実の摘示」か?

1.会社へのネガティブな書き込み 掲示板やSNSの普及・発展により、現在では、誰もがインターネット上にアクセスして、自分の経験した事実や意見を公表することができます。 労働事件との関係で言うと、在職中の従業員、又は、退職した従業員が、ネット…