弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2025-07-01から1ヶ月間の記事一覧

定期勤務をキャンセルしたいとの連絡が解雇にあたるとされた例(ワクチン接種医の事例)

1.解雇なのか合意退職なのか? 解雇の場合、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定する労働契約法16条により、その効力は厳格に審査されることになり…

需要減が予測できたのであれば、有期労働者を解雇する「やむを得ない事由」があるとはいえないとされた例(ワクチン接種医の事例)

1.有期労働契約における解雇理由「やむを得ない事由」 労働契約法17条1項は、 「使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において『有期労働契約』という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間…

携帯電話機のメモ欄による立証-すぐにとったメモは有効打になりえる

1.メモによる立証 ハラスメントでも出退勤時刻でも、メモによる立証が奏功することは、あまりありません。証拠としては「ないよりはまし」程度であることが殆どです。 その背景には、 「すぐにとっているわけではないこと」 「すぐにとったと立証し切れな…

返却したはずのものを職場から「返せ」と言われた時、どのような要素に注目すべきか?

1.返したはずの貸与品 職場から貸与された物件を返却するにあたっては、会社から一々受領証をもらっていない労働者が多いのではないかと思います。 しかし、世の中には、返却したはずの物件を、労働者に対して重ねて「返せ」と言ってくる会社があります。…

パワハラ、退職勧奨が違法でなかったとしても、代理人弁護士を介して交渉中、唐突に懲戒解雇することが否定された例

1.欠勤中に行われるハラスメント解決のための代理人弁護士を通じた協議 ハラスメントで心身に不調が生じた労働者を代理して、弁護士が勤務先と職場環境の調整に向けた交渉を行うことは少なくありません。労働者が出勤できる健康状態ではなくなっていると、…

懲戒解雇の理由の記載-「等」による救済が認められなかった例

1.解雇理由についての「等」の記載 解雇の効力を争う場合、労働者は使用者に対し解雇理由証明書の交付を請求することになります(労働基準法20条参照)。これを取得することによって、訴訟提起した場合に使用者側が主張してくることにあたりをつけ、解雇…

管理監督者性が否定された場合、管理監督者への就任を前提として増額された賃金は返さなければならないのか?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

管理監督者に相応しい待遇-残業代がついたと仮定した場合にそれと見合うほど賃金が上がっているか?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

就業規則に配転の定めがあり、契約書に使用者で職務を随時変更することができると書かれているIT職との関係で職種限定合意が認められた例

1.黙示的な職種限定合意 職務内容を限定する合意を、一般に職種限定合意といいます。 使用者による配転命令権は、滅多なことがない限り権利濫用にはなりません(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)。 しかし、職種限定合意が…

就業規則に定められていなかったとしても、労働者には会社による治癒の認定に協力する義務があるとされた例

1.休職からの復職 私傷病休職をしていた労働者が復職をする過程で使用者と紛争になることがあります。こうした紛争の背景には、労使間の相互不信があることが少なくありません。 相互不信が生じる理由の一つに、次のような法制があります。 傷病が業務上の…

一定の限度のもと残業代の複利計算が認められた例

1.労働時間管理をしない会社に対する残業代請求 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証…

携帯電話のGPS記録による労働時間立証が奏功した例

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

明確な通知が行われることなく、何となく行われている休日振替の効力をどう見るか?

1.休日の振替 労働契約上特定されている休日を他の日に変更することを「(事前の)休日の振替」といいます(菅野和夫・山川隆一『詳解 労働法』〔弘文堂、第13版、令6〕414頁参照)。 休日振替が行われた場合、従前の休日は労働日となるため、その日…

固定残業代であることの判別は、社内規定(社内ルール)ではなく、就業規則や雇用契約書でなされていなければならないか?

1.固定残業代の有効要件 最二小判令5.3.10労働判例1284-5 熊本総合運輸事件は、固定残業代の有効要件について、 「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付け…

せん妄により事理弁識能力を欠いていた点を考慮していないとして酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分が取り消された例

1.飲酒運転を理由とする公務員の懲戒処分 国家公務員の懲戒処分の標準例を定めている「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職―68)は、次のとおり定めています。 「酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡…

勤務医に患者を担当させなくしたことが不法行為に該当するとされた例

1.仕事を与えないこと 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、パワーハラスメントの類型の一つとして、 過小な要求(業務上の合理性なく能…

労働条件通知書に記載がありながら、固定残業代の合意の成立が否定された例

1.労働条件通知書 労働契約法4条2項は、 「労働者及び使用者は、労働契約の内容・・・について、できる限り書面により確認するものとする」 と規定しています。この規定からも分かるとおり、雇用契約書(労働契約書)の作成は努力義務にすぎず、法的義務…

緊急やむを得ないものであったとまでは認められないとして、不正調査のための自宅待機命令期間中の賃金の支払が命じられた例

1.不正調査と自宅待機命令 不正行為が疑われる時、企業が従業員に対して自宅待機を命じることは少なくありません。なぜ、自宅待機を命じるのかというと、不正行為の継続を阻止したり、証拠隠滅行為を阻止したりするためです。 しかし、その間、働いていな…

条件付採用(条件附採用)期間の延長が違法であった場合、それを前提とする免職処分は違法になるのか?

1.行政法理論における違法性の承継 行政法における論点の一つに「違法性の承継」という議論があります。 これは「行政過程が複数の処分によって構成され、先行処分を前提として後行処分が行われる場合に、後行処分の取消訴訟において『先行処分が違法であ…

氏名欄に「祈願」と誤記した職務変更記録簿を書棚にマグネットで掲示した行為に違法性が認められた例

1.罵倒語が悪いのか、衆目に晒すのが悪いのか? 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、パワーハラスメントを六類型に整理しています。身体…

居宅内に立ち入って引き出しやクローゼットの中を捜索するにあたり、従業員の承諾があったとの主張が認められなかった例

1.自由な意思/真摯な承諾/慎重な認定等々の法理 労働法の領域では、労働者が立場の弱さから外形的に承諾を与えてしまっていたとしても、後日、その効力を争えることが少なくありません。 例えば、外形的に受け入れてしまっていたとしても、賃金減額に関…

他人が悪口を言っていたことを報告してくる行為に違法性が認められた例

1.「〇〇が一緒に働きたくないと言っていたぞ」などの悪口の報告 頼んでもいないのに、誰それが貴方の悪口を言っていたなどと報告してくる人がいます。言われたところで嫌な気分になるだけで、何の生産性もないように思います。 このようなことをされると…

職場恋愛の相手をばらすことは、不法行為(プライバシー侵害)を構成するか

1.職場恋愛/社内恋愛 一歩間違えればセクシュアルハラスメント等の問題に発展しかねないことから最近では下火になりつつありますが、職場で知り合った相手と交際する例は、未だ少なくありません。 しかし、職場内で交際をするにしても、公私混同をしてい…

産業医の面談指導等結果報告書が自殺事案の過失立証に重要な役割を果たした例

1.産業医による面接指導(面談指導) 労働安全衛生法には「面接指導」という仕組みがあります。 面接指導には幾つかの類型がありますが、例えば、労働安全衛生法66条の8第1項は、 「事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考…

過重業務による鬱病(うつ病)の発症から約2年後の自殺に相当因果関係が認められた例

1.精神障害の発症と自殺との間に時間的間隔がある場合 鬱病(うつ病)等の精神障害への罹患が自殺に繋がることは少なくありません。 そのため、加重業務などの強い心理的負荷を生じさせる出来事⇒精神障害の発症⇒自殺という一連の因果の流れが時間的に近接…

児童によるわいせつ行為の申告-私立学校が懲戒解雇しさえすれば、申告の信憑性を検証することなく教育職員免許状を取り上げるシステムが許されるのか?

1.私立学校から懲戒解雇されると教育職員免許状が取り上げられる? 私立学校を運営している学校法人と言っても、単なる私企業でしかありません。 いわゆるブラック企業の例を持ち出すまでもなく、濫用的な懲戒解雇権の行使が行われることは少なくありませ…

無期専任教員と有期常勤講師との間の賃金の差が不合理とされた例

1.労働条件格差に対する法規制 短時間労働者(パート)と無期正社員との間での労働条件格差、有期契約労働者と無期正社員との間での労働条件格差に関しては、 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パート・有期法) という名前の法律で是正が…

有期⇔無期の時に不合理で違法とされた労働条件格差は、無期⇔無期になっても違法とされた例

1.労働条件格差に対する法規制 短時間労働者(パート)と無期正社員との間での労働条件格差、有期契約労働者と無期正社員との間での労働条件格差に関しては、 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パート・有期法) という名前の法律で是正が…

定年間際まで良好な態度・成績での勤務を継続していたことや多額の退職手当(退職金)の支給が公務員への懲戒免職処分の可否の判断に影響した例

1.公務員の懲戒免職処分と退職手当支給制限処分 国家公務員退職手当法12条1項は、 「退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職をした者(当該退職をした者が死亡したときは、当該退職に係る一般…

処分権者は例外的な場合のほかは原則として懲戒処分の標準例に従うべきであるとされた例

1.懲戒処分が違法となる場合 公務員を対象とする懲戒処分の違法性の判断基準について、最三小判昭52.12.20労働判例288-22神戸税関事件は、 「公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行…