弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

非管理職との相対的な優位性がなければ、比較的高額の年俸(700万円)が定められていても管理監督者に相応しい待遇とはいえない

1.管理監督者

 管理監督者には労働基準法第4章の労働時間に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。時間外勤務に対する割増賃金の支払い義務を定める労働基準法37条1項は第4章に規定されています。そのため、使用者は、管理監督者対しては、必ずしも時間外勤務手当を支払う必要はありません。

 しかし、管理監督者というに相応しい権限や裁量、待遇が与えられていないにもかかわらず、名目的に管理職であることを根拠に時間外勤務手当が支払われない例は、昔から枚挙に暇がありません。

 就業規則等で「◯◯長には時間外勤務手当を支給しない」などと規定していたところで、法が定義する管理監督者に該当しない場合には、時間外勤務手当の支払い義務は免れません。名ばかり管理職の方は、自分が労働基準法41条2号所定の管理監督者に該当しないことを理由に、時間外勤務手当を請求することが可能です。

 近時の公刊物にも、管理監督者への該当性が争点の一つとなった事案が掲載されていました。東洋地判令元.5.31労働判例ジャーナル93-40弁護士法人子浩法律事務所事件です。

2.弁護士法人子浩法律事務所事件

 本件で被告とされたのは、債権回収を主な業務とする弁護士法人です。原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、情報システム室システム開発グループのグループ長の地位にあった方です。被告から能力不足を理由に解雇されたことなどを受け、地位確認や時間外勤務手当等を請求する訴えを起こしました。

 裁判所は地位確認請求は棄却しましたが、管理監督者に該当するとの被告の主張は退け、時間外勤務手当の請求は認めました。

 管理監督者への該当性に関する判示は次のとおりです。

(裁判所の判断)

「労基法41条2号の趣旨は、管理監督者が労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者として、経営者に代わって他の労働者の労働時間等を決定し、労働時間に従った他の労働者の労務を管理監督する権限と責任を有しており、このような職責を果たすためには、管理監督の対象となる他の労働者とは異なり、自らは労働時間等に関する規制の枠にとらわれずに活動せざるを得ず、当該規制になじまないことから、労基法上の規制の対象外とする点にあるものと解される。したがって、同号の管理監督者に該当するか否かは、職務内容、職責の重要性、勤務態様、賃金等の待遇等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」
本件では、グループ長が少額債権の回収を主たる業務とする被告において重要なシステムの開発等を行う部門の長であることや、原告自身が原告本人尋問において、被告から部下職員の採用権限や労務管理に関する権限について言及があったことを供述していることからすると、労務管理について経営者と一体的な立場にあった可能性は否定できない。もっとも、上記認定事実のとおり、本件労働契約上、原告は即戦力のプレイングマネージャーとしての役割を期待され、被告においてこれまで実現することができなかった本件システムのマイグレーションを担当することとなっており、これらの業務や上記労務管理を行うに当たって、被告から労働時間等に関する規制を解かれていたものと認めるに足りる適切な証拠はなく、かえって、上記認定判断のとおり、原告は一定の労働時間等に関する規制の下で勤務していたものと解される。さらに、原告が被告における他の従業員との比較において、賃金等の待遇面で優遇されていたとか、管理監督者としての役割を担っていたことを理由とする別待遇を受けていたとも認められない。むしろ、原告の賃金等の待遇については、グループ長への就任前後で何ら変化がない。
「以上の事情を総合考慮すると、原告が、原告が労基法41条2号の管理監督者に該当するものとはいえない。」

3.非管理職との相対的な優位性と管理監督者に相応しい待遇

 管理監督者への該当性を判断するにあたっては、判決が指摘しているとおり「賃金等の待遇」が考慮要素になります。

 しかし、この「待遇」がどのようなものなのかに関しては、率直に言ってどのような意味なのかが良く分かりません。絶対的な金額として一定の金額を必要とするという趣旨なのか、他の非管理職との関係で相対的に厚遇されていれば必要十分という趣旨なのかが理解しづらいのです。

 本件の原告には700万円という比較的高額な賃金(年俸)が設定されていました。

 しかし、本件裁判例は、他の従業員との比較における優遇性の欠如、グループ長への就任の前後で賃金が変化していないことなどの相対的な側面から、管理監督者に相応しい待遇がとられていることを消極的に理解しました。

 絶対的な金額としては一定の量があっても、相対的な側面から管理監督者に相応しい待遇が否定されることを示した点において、本件は「賃金等の待遇」要素の考慮の仕方を理解する一助になるものと思われます。