弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

大学教授の労働問題-学部長の管理監督者性(否定)

1.管理監督者性

 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。

 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。

 管理監督者とは、

「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を満たす者を労基法上の管理監督者と認めています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ」〔青林書院、改訂版、令3〕249-250参照)。

 それでは、大学の学部長に管理監督者性は認められないのでしょうか?

 昨日ご紹介した、松山地判令5.12.20労働経済判例速報2544-3 学校法人松山大学事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.学校法人松山大学事件

 本件で被告になったのは、松山大学等(被告大学)を運営する学校法人です。

 原告になったのは、被告大学の法学部教授職にある方3名です。内1名は法学部長職を務めていました。本件で訴訟の対象となった請求は多岐に渡りますが、その中の一つに専門業務型裁量労働制が無効であることを理由とする時間外勤務手当等の請求がありました。

 これに対し、被告は、

専門業務型裁量労働制は有効であり、1日当たりの労働時間が7.5時間とみなされるため、時間外勤務手当等の請求は認められない、

学部長の原告(原告X2)は管理監督者に該当するため、やはり時間外勤務手当等の請求は認められない、

と主張しました。

 しかし、裁判所は、専門業務型裁量労働制を無効としたうえ、次のとおり述べて、原告X2の管理監督者性を否定しました。

(裁判所の判断)

「労働基準法41条2号は、事業の種類にかかわらず、監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者を労働時間等に関する規定の適用対象から除外しているが、その趣旨は、これらの者が、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等に関する規制を超えて労働することが要請されるような重要な職務と責任を持ち、職務の性質上、通常の労働者と同様の労働時間規制に馴染まない一方、出退勤についてある程度の自由裁量があり、賃金等の待遇を含め、労働時間等に関する規制を外しても保護に欠けるところのないものと考えられることによるものであると解される。」

「このような法の趣旨に鑑みると、管理監督者に該当するか否かの判断に当たっては、当該労働者が、①経営者と一体的な立場にあり、労働時間等に関する規制を超えて労働することが要請されるような重要な職務と責任を有しているか、②出退勤や勤務時間について厳格な制限を受けておらず、ある程度の自由裁量が認められているか、③時間外労働割増賃金等が支給されない代わりにそれに見合った待遇を受けているかといった要素を総合的に考慮して判断するのが相当である。」

・前記①について

「学部長には、学部の教授会の招集権限等が与えられているものの、教授会の権限は、飽くまで学部の教育研究活動に関し学長が決定を行うに当たっての意見を述べることにとどまる上、教授会の意思決定は、出席者の過半数で議決されることとなっており、学部長に意思決定の権限がない。また、学部長には、全学教授会の開催を請求する権限が与えられているものの、全学教授会の権限も、全学共通の教育研究活動に関し学長が決定を行うに当たっての意見を述べることにとどまる上、全学教授会の意思決定は、出席者の過半数で決議がされることとなっており学部長に意思決定の権限はない。」

「さらに学部長は、被告大学の評議員となることがあるが、評議員会の権限は、被告大学の業務に関する重要事項等について、理事長又は役員に対して意見を述べることなどにとどまる上、評議員は、37名以上おり、その構成も同窓会の会員や大学の経営に関する学識者又は経験者等を相当数含んでいること、評議員会の意思決定は、出席者の過半数で決することとなっていることからすると、学部長が評議員会における意思決定を通じて被告大学の経営に関与することができる程度は大きくない・・・。」

「なお、学部長は、学内規定上の各種職責及び労務管理上の各種職責を担っているものの、職員等の採用や教育職員の授業担当時間数の決定など、職員の人事や労務管理等、組織運営上の重要な部分についての権限を有しているとは認められない・・・。」

「以上を踏まえると、被告大学において、学部長にはその職務に付随する業務は存在するものの、職員の人事や労務管理等、組織運営上の重要な部分についての権限等は付与されておらず、評議員会、全学教授会及び教授会を通じて被告大学の経営に関与できる程度は大きくないことから、学部長が、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等に関する規制を超えて労働することが要請されるような重要な職務と責任を有しているとは認められない。

・前記②について

学部長は、出退勤や勤務時間についてある程度の自由裁量が認められているといえるが、これは、学部長の職責や地位に由来するものではなく、学問の探求に従事する大学の教育職員の地位の性質に由来するものと解すべきであり、実際、被告大学において、学部長に、他の教育職員に比べて、出退勤や勤務時間について特に広い裁量が認められていたという事実は認められない。」

・前記③について

学部長は、月額7万8900円の特殊勤務手当とともに、評議員である場合は年額4万2900円の評議員の報酬の支給を受けているが・・・、その金額に照らすと、時間外割増賃金等が支給されない代わりにそれに見合った待遇を受けていると評価することはできない。

「以上を踏まえると、原告X2は、被告大学法学部の学部長職にあったものの、管理監督者であったとは認められない。」

3.学部長の管理監督者性が否定された

 大学の組織構成は私企業ほどバラエティに富んでいるわけではなく、学部長の地位が被告における学部長と似たり寄ったりである大学は、少なくありません。この判決の射程は広く、大学学部長の地位にある方が残業代を請求するにあたり、実務上参考になります。