弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

パワーハラスメント等を理由とする懲戒解雇の否定例

1.ハラスメントを理由とする解雇

 セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントなどのハラスメントに対する意識は、一昔前よりも随分と高まっています。慰謝料額は措くとして、ハラスメントの成否という意味では、裁判所の姿勢も、傾向的には厳しくなって行っているように思われます。

 こうした世相を反映してか、近時、部下に対するハラスメントを理由に解雇や懲戒などの不利益処分を受け、その効力が争われる例が増えているように思われます。近時公刊物に掲載されていた、東京地判令6.2.29労働判例ジャーナル150-12 全国共済水産業協同組合連合会事件です。

2.全国共済水産業協同組合連合会事件

 本件で被告になったのは、水産業従事者の共済保険の運営を目的とする法人です。

 原告になったのは、被告に雇用され、四国事業本部長や、徳島県JF共済推進本部運営委員会(運営委員会)の委員等を務めていた方です。被告から役職を解任されたうえ、懲戒解雇されたことを受け、これらの措置の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告は懲戒解雇の理由として幾つかの事実を主張しましたが、その中の一つに部下dに対するパワーハラスメントがありました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、部下dに対するパワーハラスメントの成立を否定しました。結論としても、解雇の効力を否定しています。

(裁判所の判断)

「被告は、原告がdに対するパワハラをした旨主張し、具体的には、頻繁に長時間立たせたまま叱責していた旨主張し、証人d及び証人hはこれに沿う供述等・・・をする。」

「しかしながら、証人dにおいても、長時間にわたるような際は椅子に座ることがあったと認めていること・・・、dが退職する前に原告のdに対する指導方法について被告内部で問題となったことがうかがわれないこと、原告本人が反対趣旨の供述をしていること・・・に照らし、証人d及び証人hの上記供述等を採用することはできず、他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。また、一定の時間立たせたまま叱責することがあったこと自体は認められるものの、証人dは、営業成績が低下していたことを認めており・・・、原告のdに対する指導の必要性は高かったと推認できるし、原告がdを怒鳴ったことはなかったと認められること・・・も併せ考慮すれば、原告が指導の範囲を逸脱したパワハラをしたと認めることもできない。」

「被告は、原告がdのセキュリティカードを取り上げてdに残業及び休日出勤を困難にさせた旨主張する。」

「しかしながら、証拠・・・によれば、原告は、dが無断で残業や休日出勤をしていたことから、これを防止するためにdから事務所の開錠及び施錠に必要なセキュリティカードを預かったことが認められ、合理的理由があるといえる。」

「したがって、上記事実が原告のdに対するパワハラであるということはできない。」

「被告は、原告が、dに対し、代理店会議が延期された際に謝罪に行かせた旨主張する。」

「しかしながら、いずれかの職員が謝罪に行くべき状況と考えられるところ、原告がdに対し謝罪に行くように命じたことがパワハラに当たるといった事情を認めるに足りる証拠はない。」

「したがって、上記事実が原告のdに対するパワハラであるということはできない。」

「被告は、原告がパワハラによってdに精神障害を発病させ退職に追い込んだ旨主張する。」

「証拠・・・によれば、dは精神障害を発病したことが認められる。しかしながら、上記・・・で説示したところに照らせば、原告がdに対しパワハラをしたとはいえないから、原告の行為と精神障害の発病との間に相当因果関係は認められない。なお、d自身においても、原告以外の他の従業員とも折り合いが悪かったことを認めているところである・・・。」

「したがって、被告の上記主張は理由がない。」

3.記録はあるか、必要性・合理性・相当性はどうか?

 上述のとおり、裁判所は、記録がないことを指摘したうえ、被告が特定する各行為について、必要性や合意性等を検討し、dに対するパワハラの成立を否定しました。

 判断の方法それ自体が特異なものというわけではありませんが、パワーハラスメントを理由とする解雇の効力を争う事件において、主張、立証の指針として、実務上参考になります。