弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

作業服様の制服の着用が義務付けられていても、通勤時の服装に関する指示がなければ着替え時間は労働時間ではなくなるのか?

1.着替え時間の労働時間性

 着替え時間が労働時間に該当するかに関しては、

「労働者が就業を命じられた業務を行う前段階の、入門から作業場到着までの歩行や、作業服・作業靴への着替え・履替えなどの業務の準備行為は、労務提供そのものではなく、労務提供の準備行為であるから、基本的にはそれが使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるものでない限り労働時間と解することはできない。しかし、業務の準備行為が、監督者の指揮のもとで行われるものであったり、使用者による個別の指示、就業規則、マニュアル、教育指導等により、所定の場所において所定の内容の準備を行うことが定められていたりするなど、使用者から明示又は黙示に義務付けられた行為であると認めるべき場合には、特段の事情の無い限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価すべきである。」

と理解されています(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕155頁参照)。

 それでは、ビルの設備機器の保守作業員がスーツで出勤し、作業着・作業服に着替えるまでの時間は、どのように理解されるのでしょうか?

 一昨昨日、一昨日、昨日とご紹介している東京地判令5.4.14労働判例ジャーナル146-50 大成事件は、この問題との関係でも興味深い判断を示しています。

2.大成事件

 本件で被告になったのは、ビルメンテナンス、設備管理、警備などの業務を行っている株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結し、ビルの設備機器を運転操作し、点検・整備などの保守作業を行う設備員(エンジニアリングスタッフ)として勤務していた方3名です(原告P1、原告P2、原告P3)。原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結し、ビルの設備機器を運転操作し、点検・整備などの保守作業を行う設備員(エンジニアリングスタッフ)として勤務していた方3名です(原告P1、原告P2、原告P3)。労働基準法所定の割増賃金が支払われていないとして、その支払いを求める訴えを提起したのが本件です。

 本件でも作業服様の制服への着替え時間の労働時間性が問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、その労働時間性を否定しました。

(裁判所の判断)

認定事実・・・のとおり、設備員は、被告から、勤務時において、作業服様の制服の着用を義務付けられており、出勤の際には、スーツを着る者が多く、原告P1も、スラックスにワイシャツ又はその上にスーツ又はコートを着ていたものであるところ、原告らは、いずれも通勤時にはスーツを着用し、始業の際に本件タワーに到着した後、朝礼までにロッカー室で制服に着替えていたことが推認される。

「そこで、被告が、原告らに対し、以上の着替えを義務付けていたとすれば、その着替えに要する時間は、被告の指揮命令の下に置かれていたというべきこととなる。」

「しかし、被告が、原告らに対し、着替えを義務付けていたことを直接示す証拠はなく、原告P1自身、被告の現場担当者から、出勤時には、余りにもだらしない服装はだめで、出勤時は基本的にスーツ着用が望ましいと言われた旨を述べるにとどまる・・・。そうすると、通勤時の服装に関する指示はなく、スーツが楽であったため通勤時にスーツを着ていた旨の証人P5の供述・・・及び設備員らが単に慣習としてスーツで通勤していたとする被告の団体交渉の際の回答内容・・・を排斥することはできず、被告が、原告らに対し、始業前は背広及び革靴を着用し、始業前に制服に着替えることを義務付けていたと認めることはできない。

したがって、原告らが勤務前後に着替えに要したと主張する時間については、被告の指揮命令の下でされていたものと認めることはできず、労働時間には当たらないこととなる。

3.制服の着用が義務付けられていても着替え時間は労働時間ではないのか?

 本件では作業用服の着用が義務付けられていた事実が認定されています。

 人によるのかも知れませんが、個人的な感覚としては、会社の作業着を着て通勤することには違和感があります。通勤時の服装に関する指示がなく、「作業着で来てもいいから」と言われたところで、スーツで出勤する以外の選択肢はなさそうに思います。

 それでも、裁判所は、着替え時間の労働時間性を否定しました。

 作業服への着替え時間の労働時間性は肯定された裁判例もあるのですが、大成事件の裁判所は、随分と労働者側に厳しい判断をしたなという印象を受けます。

 本件は、着替え時間の労働時間性に関する事例判断として、実務上参考になります。