1.休憩時間
労働基準法34条は、
1項で、
「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」と、
2項で、
「前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。」
と規定しています。
この一斉付与の原則があるため、多くの職場では、
休憩時間 12時00分~13時00分
といったように、何らかの形で休憩の取り方がルール化されています。
しかし、紛争になるケースでは、
何時から何時までが休憩なのかが定められていない、
休憩時間の取得が各労働者の自己判断に委ねられている、
といったように、使用者の側で休憩時間を全く管理・把握していないことも少なくありません。そして、こうした職場の労働者は、往々にして、休憩をとることなく働き通しています。
それでは、こうした場合に、使用者が休憩時間を具体的に主張、立証できないことを理由に、始業時刻から終業時刻まで働き通していたと認めてもらうことはできないのでしょうか?
近時公刊された判例集に、これに通じる判断がなされた裁判例が掲載されていました。大阪地判令6.2.16KANADENKO事件です。
2.KANADENKO事件
本件で被告になったのは、電気工事等を事業内容とする株式会社です。
原告になったのは、被告の元労働者2名です。いずれの方も在職中は電気工事作業等に従事していました。
所定労働時間は、
日勤 始業8時、終業5時、休憩時間2時間(所定労働時間7時間)
夜勤 具体的な定めなし(現場により変動あり)
とされていました。
本件では、
集合・解散の場所であった駐車場(本件駐車場)における作業時間、
本件駐車場と本件各現場との間の往復の移動時間、
移動中に立ち寄ることのあった本件倉庫での作業時間、
本件各現場における作業開始前・作業終了後の準備・片づけ等の時間
の労働時間性が問題になりました。
裁判所は、移動時間の労働時間性、休憩時間の考え方について、次のとおり判示しました。
(裁判所の判断)
「労基法32条所定の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。」
「本件請求期間中、原告らは、本件駐車場に集合して当日の現場まで出勤する場合や現場から本件駐車場まで戻って解散する場合があり・・・、また、その移動の途中で本件倉庫に寄って材料や道具の積み込み・積み下ろしをすることや、給油・買い物等を行う場合もあったことが認められる・・・。」
「しかし、他方で、移動時間中に車両の中でしなければならない定まった作業があったわけではない・・・ほか、被告においては、原則として直行直帰が認められていなかったわけではなく、原告ら自身、同じ現場に向かう従業員の居住地や現場との位置関係、天候等により、ひとりで現場に直行又は現場から直帰する場合や、本件駐車場以外の場所で他の従業員と合流又は解散する場合があったこと・・・、本件駐車場や本件倉庫で行う必要のある作業は、本件駐車場で個人の荷物を運び入れ、運び出すことを除いては、その頻度が相当限られていた上、必要がある場合であっても、これに要する時間は極めて短時間であったこと・・・が認められる。」
「これらの事情に加えて、自家用車で現場に向かうことも可能であり・・・、現場に向かう場合に社用車を用いることが義務付けられていたわけではなかったことをも踏まえると、集合場所・解散場所を毎回本件駐車場としなければ日々の現場での作業が困難となる事情は見当たらず、結局、集合場所及び解散場所は、職長をはじめとする同じ現場に向かう従業員同士の任意の調整に委ねられていたと認めることが相当であり、従業員らが被告から明示又は黙示に本件駐車場に集合して現場に向かい、本件駐車場に戻ることを指示されていたとは認められない。」
「以上によれば、本件駐車場と本件各現場との間の移動時間について、使用者である被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、これを労働時間と認めることはできない。」
(中略)
「ただし、日勤の後に夜勤に直行する必要があった場合及び現場での作業の後に本件ミーティングに向かった場合については、業務のために被告の指示により移動したものと認められ、その移動は被告の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるから、そのような場合については、移動時間につき労働時間と認める。」
(中略)
「同一日に日勤と夜勤を行った日については、日勤の現場と夜勤の現場が同じ場合は日勤の終業時刻と夜勤の始業時刻との間は全て休憩と認め、日勤の現場と夜勤の現場とが異なる場合のうち、原告がいったん帰宅した旨主張する日についてはその間を全て休憩と認め、原告が直行したとする日については、日勤の終業時刻と夜勤の始業時刻との間につき、どの程度の休憩時間があったかについて被告から具体的主張がないことから、その全てを労働時間と認めることとする。」
「そして、本件ミーティングが行われた日については、本件各現場から本件倉庫まで移動する必要があり、当該移動時間は労働時間と認めるべきところ、本件各現場から本件倉庫への移動時間は必ずしも明らかではないことから、本件各現場と本件駐車場との間と同程度の移動時間(別紙5)を要したものと認め、本件各現場での終業時刻から本件ミーティングの開始時間までのうち、上記移動時間を除いた時間を休憩時間と認める。」
3.短い文章で流されている部分ではあるが・・・
以上のとおり、裁判所は、一部の日について、被告から具体的主張がないことを理由に休憩時間の認定を行いませんでした。
短い文書で流されている部分ではありますが、休憩時間が良く分からない事案で広く活用できる重要な判断をしているように思われます。