弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることが不法行為に該当するとされた例

1.過半数代表者

 労働基準法上、重要な概念の一つに「過半数代表者」があります。なぜ重要なのかというと、労働基準法の例外を設定するという意義があるからです。

 例えば、労働基準法36条1項は、

「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、・・・労働時間・・・又は・・・休日・・・に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」

と規定しています。

 つまり、過半数代表者と労使協定を締結すれば、使用者は週40時間、1日8時間の労働時間規制を解除されることになります。これと類似した仕組みは、貯蓄金の受託・管理(労働基準法18条2項)、賃金の一部控除(労働基準法14条1項)、変形労働時間制の導入(労働基準法32条の2第1項、32条の4)等、様々な場面で採用されています(労働基準法施行規則6条の2参照)。

 この「過半数代表者」と言えるためには、二つの要件が設けられています。

「一 法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。」
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。

の二つです(労働基準法施行規則6条の2)。

 二つ目の要件によって、過半数労働者は、使用者の意向から離れ、民主的な方法によって選出されることが保障されています。

 それでは、この規定に反し、使用者が過半数代表者の選出に不当な関与をしてきた場合、それを不法行為と構成して労働者の側で損害賠償(慰謝料)を請求することはできないのでしょうか?

 一昨日、昨日とご紹介している、松山地判令5.12.20労働経済判例速報2544-3 学校法人松山大学事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.学校法人松山大学事件

 本件で被告になったのは、

松山大学等(被告大学)を運営する学校と、

被告大学の法学部法学科に所属し、常務理事の職にある方(被告Y1)

の二名です。

 原告になったのは、被告大学の法学部教授職にある方3名です。内1名は法学部長職を務めていました。本件で訴訟の対象となった請求は多岐に渡りますが、その中の一つに、専門業務型裁量労働制を採用するための過半数代表者の選出に不当に介入したことを理由とする損害賠償請求(慰謝料請求)がありました。

 この事件で、裁判所は、次のとおり述べて、立候補をした原告から被告Y1に対する損害賠償請求を認めました。

(裁判所の判断)

・総論

「労働基準法施行規則6条の2第1項2号は、過半数代表者について、『使用者の意向に基づき選出されたものでないこと』と定め、同条3項は、『使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。』と定めていることに照らすと、労働者は、使用者による不当な関与が排除された環境の下、使用者に萎縮することなく、過半数代表者に立候補できる地位が法的に保障されていると解される。したがって、使用者が、過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることは、同条3項の不利益な取扱いそのものとはいえないものの、上記のような労働者の法的保護に値する地位を侵害するものとして、当該労働者に対する不法行為を構成する。」

「そして、ここでいう『使用者』とは、事業主のことをいうと解されるが、上記のような不当な関与を行う現実の行為者が事業主と常に一致するとは限らないところ、過半数代表者の選挙権を有しない使用者の役員等が過半数代表者の選出選挙の選挙活動に不当に関与することは、同選挙における過半数代表者の選出に直接・間接に使用者の意向を反映させる行為又は同選挙に使用者の意向を反映させたとの疑義を生じさせる行為にほかならないから、上記のような労働者の法的保護に値する地位を侵害するものとして、当該労働者に対する不法行為を構成する。」

・被告Y1の不法行為の成否について

「被告Y1は、過半数代表者の選出選挙において選挙権を有しない被告大学の常務理事であったから(本件過半数代表者選出規程5条1項)、原告X1の過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることは、原告X1に対する不法行為に当たる。」

・I准教授に対する働きかけについて

「H教授は、I准教授に対し、原告X1の過半数代表者の推薦署名をしないように働き掛けを行っていることが認められるところ、H教授からI准教授への働き掛けの直前に被告Y1がH教授に電話を掛けていること、H教授がI准教授に働き掛ける際に被告Y1からの伝言であるとしていることに照らすと・・・、被告Y1が、H教授に対し、他の教育職員への働き掛けを依頼した事実が推認され、さらに、H教授からI准教授への働き掛けは、原告X1の過半数代表者の推薦署名をしないよう依頼する内容のものであったこと、I准教授が原告X1の過半数代表者への立候補の推薦署名をしたことを伝えた当日に、H教授が被告Y1にその旨の報告を行い、これに対し、被告Y1が『ありがとうございます。I先生は法学部ですし苦しい立場だろうと思います。』『お手数をおかけしました。』と返信していることに照らすと・・・、被告Y1による上記依頼の内容は、原告X1の過半数代表者の推薦署名をしないよう求めるものであったことが推認される。」

(中略)

「以上を踏まえると、被告Y1は、H教授を通じてI准教授に対し、原告X1が過半数代表者に立候補するための推薦をしないようにと伝えたことが認められる。なお、原告X1は、被告Y1が、D教授にもI准教授に対する働き掛けをさせたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。」

・E教授への働き掛けについて

「E教授は、被告Y1から、同月28日、原告X1を過半数代表者に推薦する署名をしないように依頼されたという内容の陳述書を作成している・・・。この陳述書の内容は、被告Y1がE教授のもとを訪れた後に、E教授が原告X1の過半数代表者の立候補への推薦者集めを取りやめたという事実経過に沿うものであり、被告Y1が、前記アのとおり、H教授を通じてI准教授に対し、同様の働き掛けをしていたことも考慮すれば、E教授が原告X1と親しい関係にあり、陳述書の原文を原告X1が作成していたとしても、上記陳述書の内容は信用できる。」

(中略)

「以上を踏まえると、被告Y1は、E教授に対し、原告X1の過半数代表者の立候補への推薦をしないよう働き掛けを行ったと認められる。」

(中略)

「前記・・・のとおり、被告Y1は、原告X1の過半数代表者の立候補への推薦をしないよう、複数の教育職員に働き掛けているところ、これらの行為は、過半数代表者に立候補しようとした原告X1の行為を妨害する不当な関与であると認められる。」

「したがって、被告Y1の上記各行為は、原告X1に対する不法行為に当たる。」

・被告大学の不法行為の成否について

「原告X1は、被告大学が、C教授及びD教授に対し、原告X1の過半数代表者の立候補への推薦をしないよう教育職員に対する働き掛けをさせたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。」

「また、原告X1は、被告Y1と被告大学が共謀して被告Y1の前記・・・の働き掛けを行った旨主張するところ、これを認めるに足る証拠もない。」

「したがって、被告大学について、被告Y1との共同不法行為は成立しない。」

・前記・・・の不法行為による原告X1の損害額

「原告X1は、被告Y1の不法行為により、過半数代表者への立候補の機会を逸したことなどから、精神的苦痛を被ったものと認められる。そこで、被告Y1の不法行為の内容及び態様に加え、本件に現れた一切の事情を考慮して、原告X1の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は10万円と認める。」

3.選挙活動への不当な関与に不法行為該当性が認められた

 例によって慰謝料は少額(10万円)に留まっていますが、裁判所は使用者による過半数代表者への立候補への不当な関与に不法行為法上の違法性を認めました。

 過半数代表者の選出するための選挙等は必ずしも活発というわけではなく、選任に使用者が関与している事案を目にすることは、実務上少なくありません。今回、過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることに不法行為該当性が認められたことは、実務的にそれなりのインパクトを持ってくる可能性があり、今後の裁判例の動向が注目されます。