弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員-違法な懲戒処分に引き続いて行われた配転命令の国家賠償法上の違法性

1.懲戒処分に引き続いて行われる配転命令

 公務員に限ったことではありませんが、懲戒処分に引き続いて配転を命じられることがあります。国側・地方公共団体側・使用者側からすれば引き続き同じ業務を担当することが好ましくないということなのだと思われますが、職員側・労働者側からすると左遷人事のように感じられることが少なくありません。

 それでは、懲戒処分が取消訴訟等で違法だと判示された場合、この配転命令の違法/適法は、どのように判断されるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。京都地判令5.4.27労働判例ジャーナル141-30 京都市事件です。

2.京都市事件

 本件で被告になったのは、京都市です。

 原告になったのは、京都市児童相談所において主任として勤務していた方です。京都市長から停職3日の懲戒処分(本件懲戒処分)を受け、その取消を求める訴訟を提起しました(別訴)。この別件訴訟で勝訴し、本件懲戒処分は取り消されたところ、

京都市から本件懲戒処分を受けたこと、

本件懲戒処分の後に3回に渡る配転命令を受けたこと、

別訴判決が確定したにもかかわらず、京都市長から厳重文書訓戒処分を受けたこと、

本件訴訟で和解が成立しようとしていた時に、京都市会が別訴判決の認定に反する付帯決議を行ったこと、

がいずれも違法であるとして、損害賠償を請求したのが本件です。

 配転命令との関係でいうと、裁判所は1回目の配転命令(停職期間満了日付けでの京都児童相談所⇒保険福祉局健康増進センターへの異動)に国家賠償法上の違法性を認めました。

 その判案は、次のとおりです。

(裁判所の判断)

地方公務員の異動(配転)については、その権限の行使が任命権者の裁量に委ねられているが、その裁量も無制約なものではなく、具体的な異動(配転)の命令が当該任命権者に与えられた裁量の範囲を逸脱し、又はその権限を濫用したものと認められる場合には、その職務上の義務に違反し、違法であるといえる。」

「そこで、本件各配転命令について、任命権者がその与えられた裁量の範囲を逸脱し、又はその権限を濫用したものといえるか、以下検討する。

「(1)本件配転命令1について。」

「本件配転命令1は、児童相談所が極めてセンシティブな情報を取り扱う部署であり、本件対象行為1ないし3に及んだ原告を引き続き勤務させると、京都市児童相談所の運営や児童及び保護者への支援に悪影響を及ぼすことが想定されるとして、原告を京都市児童相談所の配置から転出させることを目的に行われたものであり・・・、本件懲戒処分と密接に関連して行われたものである・・・。そして、児童相談所が極めてセンシティブな情報を取り扱う部署であることを考慮して配転を検討すること自体は正当なものであるといえる。」

「しかしながら、本件懲戒処分については、前記・・・で判示したとおり、本件対象行為1及び3は懲戒事由に該当するものではなく、本件対象行為2は本件行為2の限度で懲戒事由に該当するものの、それのみでは3日間の停職処分とすることが不相当な違法な懲戒処分であるから、このような違法な懲戒処分を前提として行われた本件配転命令1は、本件懲戒処分と同様に事実誤認と誤った評価をもとに判断されたものとして、任命権者である保健福祉局長の裁量権を逸脱又は濫用しており、職務上の注意義務に違反する違法なものであったといわざるを得ない。

「なお、原告は、報復人事という不当な目的の下で故意に本件配転命令1が行われたと主張するが、本件記録上、そこまでの事実を認定することはできない。」

「これに対し、被告は、本件行為2のうち特に自宅での本件複写記録の廃棄は非常に軽率な行為であり、本件行為3のうち特に職場外の飲食店において虐待事案という機密性の高い話題を持ち出したことは軽率な行為であったことなどに鑑みれば、原告を引き続き児童相談所において勤務させることが適切でないとした判断には合理的な理由があると主張する。」

「しかしながら、確かに原告の行為に軽率な面があったことは否めないものの、前記認定のとおり、原告の廃棄の態様はシュレッダーで裁断したというもので情報が外部に漏えいしないよう配慮はしており、また、飲食店での発言も本件児童の個人情報にまで言及したものではなかったことなどを考慮すると、原告を定例の人事異動とは異なる時期に、緊急避難的に直ちに別の部署に異動させなければならないほどの必要性があったとまでは認め難い。」

3.配転命令違法

 懲戒処分の後、被処分者に対し閑散とした部署への配転命令(異動命令)が命じられることは少なくありません。

 配転命令の理由が懲戒事由と重なる場合、懲戒事由の認定に問題があることが、配転命令の違法事由となることを示した事案として、実務上参考になります。