弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

障害のある労働者を整理解雇するために必要な説明の在り方-障害特性への配慮が必要

1.障害者への合理的配慮

 障害者雇用促進法36条の3本文は、

「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。」

と規定しています。

 また、障害者差別解消法8条2項は、

「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。」

と規定しています。

 このように、事業主には、障害者を差別しないことだけではなく、必要な配慮を行うことまでが求められています。

 こうした法の精神を考えると、整理解雇の局面においても、障害者に対しては、健常者とは異なる特段の配慮が必要になるとはいえないでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。札幌高判令3.4.28労働判例1254-28 ネオユニットほか事件です。障害者雇用促進法や障害者差別解消法が引用されているわけではありませんが、障害者の労働問題を考えるにあたり、興味深い判断を示しています。

2.ネオユニット事件

 本件で被告・被控訴人になったのは、障害者総合支援法に基づく障がい福祉サービス事業等を目的として設立された株式会社(被控訴人会社)と、その代表取締役(被控訴人乙山)です。

 原告・控訴人になったのは、被控訴人会社が運営する就労継続支援施設A型事業所(就労継続支援施設D)に勤務していたスタッフや利用者(障害者)の方達です。

 就労継続支援施設A型というのは、障害者総合支援法に根拠のある施設です。通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である障害者に対して就労の機会等を与えるものです。この施設では障害者を雇用して就労の機会等を提供しています。

 被控訴人会社は、設立から3期連続赤字で、債務超過に陥り、滞納社会保険料の差押えを受けるなどしたため、就労継続支援施設Dを閉鎖することを決定し、スタッフ及び利用者の全員を解雇しました(本件解雇)。

 これに対し、整理解雇の要件を満たしていないことを理由に、控訴人らは損害賠償等の支払いを求めて被控訴人らを提訴しました。一審は、本件解雇を有効だとしたうえ、控訴人らの請求のうち、利用者についてのみ慰謝料5万円及び弁護士費用5000円を認めるに留まりました。これに対し、原告であるスタッフ・利用者側が控訴したのが本件です。

 本件の裁判所は、解雇に係る手続の相当性等について、次のとおり判示し、本件解雇の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

一般に、使用者が、労働者を整理解雇するに当たっては、当該労働者等に対し、整理解雇の必要性、時期、方法等について説明し、当該労働者等との間で十分な協議を行うべき信義則上の義務を負うものと解される。

とりわけ、控訴人利用者らは、前提事実・・・のとおり精神障害者又は知的障害者であるところ、通常の事業所に雇用されることが困難であるため、被控訴人会社と雇用契約を締結した上、就労継続支援A型事業所であるDにおいて、就労及び生産活動の機会を得て、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等の支援を受けていた者である・・・。そして、被控訴人会社は、就労継続支援A型事業を行う指定障害福祉サービス事業者であり、その事業を行うために公的資金から多額の訓練等給付費(第2期の支給額は約2446万円)の支給を受けてきたものである上、障害者総合支援法43条4項によって、就労継続支援A型事業の廃止以後においても引き続き当該支援の提供を希望する者に対し、必要な障害福祉サービスが継続的に提供されるよう便宜の提供を行うことを求められていたものである。

控訴人利用者らと被控訴人会社との間の雇用契約がこのような前提の下に締結されたものであることを踏まえると、被控訴人会社においては、控訴人利用者らに対し、その障害の特性等も踏まえた上で、Dの閉鎖等に係る事情について丁寧に説明したり、十分な再就職の支援等を行ったりして、Dの閉鎖及び被控訴人会社を退職することについて、控訴人利用者らの理解を得る(合意退職を希望する利用者については、退職合意を交わすことを含む。)ように努めるべきであったといえる。

「しかるに、被控訴人会社において、本件解雇の予告が行われたのはDの閉鎖及び本件解雇日の1か月前の平成29年3月30日であり、解雇予告に先立って、Dの閉鎖等に係る事情について、控訴人利用者に(ママ)対する説明は行われていなかったし、合意退職を希望するかなどについて、控訴人利用者らの意向も確認されていない。そして、E元管理者は、同日、本件解雇予告通知書を交付した際、スタッフ及び利用者に対し、被控訴人乙山が同月31日にDに来て説明を行うと述べていたものの、被控訴人乙山が、同日、Dに来て説明を行うことはなかったものである。その後、本件解雇日までに被控訴人会社が設けた唯一の説明の機会は同年4月18日の本件説明会であったが、これはスタッフ及び利用者の全員を対象として実施された1時間程度のものに過ぎず、利用者の抱える障害の特性に配慮した上で個別の面談の機会が設けられることもなかったものである。

「また、被控訴人会社が、控訴人利用者らに対して説明したD閉鎖の理由は、経営側の責任によりスタッフ全員が退職することになったというものであり、被控訴人会社ないしDの経営上の理由についてはさしたる説明がなされておらず、むしろ、本件解雇予告通知書には、『福祉事業、リフォーム事業と順調に進んでいました。』と記載され、本件説明会において、被控訴人乙山が、『経営も別にそこまでひどいわけではない』と述べる・・・など、経営状況に特段の問題はなかったかのような説明もなされていたものである。そして、本件発言①によって、控訴人C9を含むスタッフが、被控訴人会社に対し、辞職の意思表示をしたと認めることができないことは後記・・・のとおりであり、被控訴人乙山らが本件発言①があったことを都合良く利用してDを閉鎖しようとしていたことが窺われるし、本件解雇予告通知書が交付された同年3月30日、控訴人C9が、スタッフは3人でDを運営する覚悟でF支援員から引継ぎを受けるなどしてきたとも述べていた・・・のであるから、控訴人利用者らにおいて、被控訴人会社の説明内容に疑問を持つことも当然であったといえる。」

「利用者の再就職について、被控訴人会社は、他の就労継続支援A型事業所に対し、Dの利用者の受入可能人数や作業内容等を確認した上、控訴人利用者らに対し、同月18日の本件説明会でその内容を説明するとともに、その内容を記載した本件連絡文書を送付したものである。しかしながら、利用者の障害の特性、勤務場所や勤務時間、作業内容、スタッフや他の利用者との相性などの問題もあるから、他の就労継続支援A型事業所に、Dの利用者の人数を超える空きがあったからといって、再就職が直ちに可能となるものではないと考えられる・・・。そして、被控訴人乙山らから、スタッフに対しては、利用者の再就職に向けた支援についての指示はなく・・・、被控訴人会社において、控訴人利用者らの障害の特性等を踏まえた十分な再就職の支援を組織的に行ったと評価することは困難である。

3.就労継続支援事業という事業特性の影響もあるだろうが・・・

 以上のとおり、裁判所は、障害者である利用者らを解雇するにあたり、障害特性に配慮した対応が必要だと判示しました。

 こうした判断の背景には、障害者であるという労働者の属性だけではなく、公的資金が投じられている就労継続支援施設という事業の性質も影響していると思われます。本件で裁判所が示した規範が、直ちに他の事業を営む事業者との関係でも妥当するとは限りません。

 とはいえ、障害者である労働者に対して手厚い規範を定立したことは、画期的な判断であり、今後の裁判例の動向が注目されます。