弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

復職の可否について、産業医に意見・助言を求めずに行った休職命令の違法性

1.復職の可否の判断

 休職している方が復職するためには、傷病が「治癒」したといえる必要がありま。

 ここでいう「治癒」とは「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したこと」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕479頁参照)。

 ただ、

「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ている」

場合にも、復職が認められます(最一小判平19.4.9労働判例736-15 片山組事件)。

 復職の可否を判断するにあたっては、医学的な検討を欠かすことができません。実務的には、主治医の診断書等の医療記録をもとに、産業医が判断を行い、最終的な復職の可否を判断している例が多くみられます。

 復職ができないと労働者は十分な収入を得ることができません。また、一定期間、傷病が治癒しないと自然退職等、労働契約上の地位を喪失してしまうことがあります。そのため、復職できるのかどうかは、労働者にとって切実な問題になります。

 それでは、主治医意見を提出したにもかかわらず、職場が産業医意見を徴求せず、漫然と休職命令を出し続けることは、ハラスメントに該当しないのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり、参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令2.3.25労働判例1247-76 東菱薬品工業事件です。

2.東菱薬品工業事件

 本件で被告になったのは、主にジェネリック医薬品等の開発・製造を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告において正社員として入社し、研究所において、製剤設計等に従事していた方です。交通事故に遭い、休職していたところ(ただし、正式な休職手続は経ていなかったと認定されています)、平成29年2月に、

「左上下肢の神経症状が認められ、リハビリが必要ではあるものの、軽作業であれば就業は可能、ただし、階段昇降には手すりが必要である」

という内容の診断書を被告に提出し、出社の意向を示しました。

 しかし、被告は、産業医と協議したり、原告の体調を確認したりすることなく、

「治癒の見込みがたたない」

として、引き続き1か月間の休職命令を発しました。原告は、こうした措置が違法であると主張し、被告に対し、慰謝料等の支払いを求める訴えを提起しました。

 本件では、被告による上記休職命令の適否が問題になりました。裁判所は、次のとおり述べて、上記休職命令の違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「原告は正式な休職等の手続を経ておらず、被告としては、便宜的に復職手続(就業規則18条)を準用することとしたところ、復職の要件である治癒とは、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味するが、復職当初は軽作業に従事させつつ短期間で通常業務に復帰できるような見込みがある場合や、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結している場合で、その能力、経験、地位、当該会社の規模、業種、当該会社における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができる場合には、労働者による債務の本旨に従った労務の履行の提供がある(最一小判平成10年4月9日最高裁判所裁判集民事188号1頁)ものとして、使用者側にそのような配慮をする義務があると考えられるから、使用者がそのような配慮をしないまま、復職要件を満たさないものとして労働者の復職を拒否することは違法となりうる。

「本件において、原告については、平成29年2月時点では治癒していたとはいえず、被告が指定した医師により、軽作業に従事可能との診断がなされていたところ・・・、原告が欠勤前に従事していた業務のうち、ヘモリンガル舌下錠の物性測定は、打錠用杵臼(1セット約16キログラムの重さのもの)を扱う作業工程等からして・・・、軽作業とはいえず、また、シロドシン錠試作(その類似業務も含む。)や静脈血管叢エキスのアミノ態窒素の定量法の検討についても・・・、なお左上下肢の神経症状が残る原告に従事させる業務としては不適切であるとして、被告が、これらの業務に関しては、原告の遂行可能性がないと判断したことに合理性がないとはいえない。」

「しかし、被告が、原告から診断書の提出を受けた後、具体的な業務内容の検討に際し、原告の体調を確認するなどしておらず、また、産業医に相談することもなく・・・被告が法定の産業医設置義務を負っていないとしても、本件において、被告が契約先の産業医から従業員の復職に関する助言等を得ることが困難な特段の事情があるとは認められない。)、原告に担当させる業務を上記業務に限定した理由については、十分な検討がなされたことを裏付ける事情はなく、現に、欠勤前に原告が従事していた文書チェック等の業務は存在しており・・・、これらの業務を原告に担当させることができないような事情があったとも認められないから、この点において、原告の復職判断に際しての被告の上記配慮義務は十分に尽くされたものとはいえない。

したがって、原告の復職を認めず、休職命令を行った被告の行為は違法である。

3.十分な検討を行わない門前払いはダメ

 上述のとおり、裁判所は、産業医に意見を徴求することすら行わず、復職要件が満たされていないことを理由に、休職命令を行い続けることは許容されないと判示しました。

 復職の可否をめぐる争いは、件数自体、決して少なくありません。その中には、自然退職を意図して、敢えて復職要件を真摯に検討していないのではないかと疑われるものも一定数存在します。

 本判決は、そもそも使用者側が復職要件を十分に検討すらしてくれないという場面において、そうした対応の是正を求めて行くにあたり活用できる可能性のある画期的な判断だと思います。