1.雇止め法理と更新回数
労働契約法上、
「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる)
場合、有期労働契約者からの契約更新の申込みに対し、使用者は、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、申込みを拒絶できないとされています(労働契約法19条2号)。
この合理的期待を認定するにあたり、過去に契約が反復更新されていることは要件とされていません。更新回数が0回であったとしても、雇用継続に対する合理的期待を肯定した裁判例は少なくありません(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕434頁参照)。
ただ、「更新の回数及び雇用の通算期間が相当程度に達している事例では、合理的な期待があるとする裁判例が多い」と理解されており(前掲『類型別 労働関係訴訟の実務』432頁参照)、更新回数・契約通算期間は多数回・長期間に及べば及ぶほど合理的期待が認められやすく、少数回・短期間になればなるほど合理的期待が認められにくいという傾向があることは否定できません。
こうした状況のもと、更新回数1回、契約期間通算2か月でも、雇用継続に向けた合理的期待が認められた裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令3.3.31労働判例ジャーナル114-46 医療法人社団悠翔会事件です。
2.医療法人社団悠翔会事件
本件で被告になったのは、主に在宅診療サービスの提供を行う診療所を経営する医療法人社団です。
原告になったのは、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医等の資格を有する医師の方です。
「契約期間:平成28年3月1日から同月31日(常勤勤務を前提に非常勤とし、契約期間を1か月単位で更新)」
と記載された採用内定同意書、非常勤雇用契約書に署名・押印して働き始めたものの、1回更新された後、平成28年4月30日付けで雇止めを受けました。
本件では、この雇止めの可否が争点の一つになりました。
原告は、大意、
元々、被告との間では、期間1年程度の常勤医契約の締結に向けた交渉が行われていた
非常勤契約書等は、本件平成28年1月8日、当時の勤務先の病院で階段から転落し、左眼窩骨折、左網膜裂孔の傷害を負った(本件傷害)ことから、体調をみながら診療コマ数を調整する趣旨で交わされたものである、
などと主張し、契約更新に向けた合理的期待があるとして、雇止めの効力を争いました。
裁判所は、次のとおり述べて、合理的期待が認められると判示しました(ただし、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められるとして、雇止めは有効だとしています)。
(裁判所の判断)
「原告と被告は、原告が独立開業するまでの間の雇用契約の締結に向けた交渉をしており、本件受傷後も、被告は原告が平成28年3月から川口クリニックに勤務することを望んでいたこと、原告と被告が協議した結果、原告は、同月は、週4日の半日勤務とし、同年4月以降の勤務については、同年3月の勤務状況を踏まえて相談することになり、本件雇用契約が締結されたこと、本件内定同意書及び本件雇用契約書には、『契約期間を1か月単位で更新』との記載があることが認められる。これらの事情を考慮すると、被告は、本件受傷後も、原告が独立するまでの1年程度の間、原告の症状を踏まえながら、本件雇用契約を1か月単位で更新していくことを想定しており、原告もそのような認識であったということができるから、原告には、本件雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったということはできる。」
3.更新回数が少なく、通算期間が短くても争える余地はある
更新期間が少なく、通算期間も短い場合、合理的期待が認められにくい傾向にあることは否定できません。また、合理的期待が認められた場合にも、その程度は必ずしも「強い」と認定されるわけではありません。
しかし、更新回数が少ないことや、通算期間が短いことから、直ちに合理的期待は認められないと悲観する必要はありません。これまでも、更新回数0回で合理的期待が認められた裁判例は一定数出されていましたが、今回、契約通算期間が2か月と極めて短い事案においても、合理的期待が認められました。
更新拒絶に大した理由がない場合、合理的期待の議論で勝てれば、契約が繋がる可能性は十分にあります。気になる方は、弁護士への相談をお勧めします。東京近郊にお住まいの方であれば、当事務所でご相談をお受けすることも可能です。