弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

雇止め-労働契約法19条1号類型(期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる類型)への該当性が認められた例

1.雇止めについての法規制

 有期労働契約において、契約期間満了に際し、使用者から次期の契約更新を拒絶することを「雇止め」といいます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、第1版、平30〕384頁参照)。

 有期労働契約は、契約期間の満了により終了するのが原則です。この意味において、雇止めをすることは、基本的には使用者の自由です。

 しかし、労働契約法19条は、有期労働契約の更新が反復されていて期間の定めのない契約と同視できるようになっている場合や(1号類型)、契約更新に向けた合理的期待がある場合(2号類型)には、雇止めをするにあたり、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が必要になると規定しています。客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められない場合、労働者から契約更新の申込みがなされると、使用者の承諾が擬制されます。結果、労働契約は、従前と同一の条件のもとで更新されたものとして扱われることになります。

 上述のとおり、法律で規制されている雇止めには、1号類型と2号類型と、二つの類型があります。このうち、実務上、圧倒的に多くの事案で適用されているのは2号類型です。1号類型への該当性が認められる事案は殆どありません。

 1号類型に該当するハードルの高さを象徴する近時の事案に、福岡地判令2.3.17労働判例ジャーナル99-22博報堂事件があります。本件は、昭和63年4月に新卒で入社して以降、約30年に渡り29回も雇用契約が更新されてきたという事案における雇止めの可否が問題になった事案です。この事案で、裁判所は、2号類型への該当性は認めましたが、1号類型への該当性については、

「被告は、平成25年まで、雇用契約書を交わすだけで本件雇用契約を更新してきたのであり、平成24年改正法の施行を契機として、平成25年以降は、原告に対しても最長5年ルールを適用し、毎年、契約更新通知書を原告に交付したり、面談を行うようになったものである。」

このような平成25年以降の更新の態様やそれに関わる事情等からみて、本件雇用契約を全体として見渡したとき、その全体を、期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには、やや困難な面があることは否めず、したがって、労働契約法19条1号に直ちには該当しないものと考えられる。

と判示し、これを否定しています。

 このように1号類型への該当性が認められることは極めて稀です。しかし、近時公刊された判例集に、この1号類型への該当性を認めた裁判例が掲載されていました。東京地判令3.3.19労働判例ジャーナル113-60 学校法人明泉学園事件です。

2.学校法人明泉学園事件

 本件は高等学校の国語科教員として勤務してきた方に対する雇止めの可否が問題になった事件です。

 原告教員の方は、平成3年3月に大学を卒業した後、平成3年4月1日から平成30年3月31日までの間、期間1年の労働契約を繰り返し更新してきました。更新回数・期間とも長期間に渡ることから、本件では労働契約法19条1号への該当性が議論の対象になりました。

 この事案で、裁判所は、次のとおり述べて、1号類型への該当性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告は鶴川高校を設置運営する学校法人であるところ、前項(認定事実)のとおり、原告は、平成3年度以降、鶴川高校において、毎年度、週に10コマないし18コマの科目を担当するとともに、入学試験の問題作成や採点等を担当し、平成23年11月7日から平成28年3月31日までを除き、クラス担任又は副担任を務め、部活動の顧問、学校運営に関する校務、生徒募集のための活動も担当しており、被告において一貫して、恒常的・基幹的業務を務めていたといえる。また、本件労働契約の更新状況をみると、前記第2の1(前提事実)・・・のとおり、原告は、平成3年4月から平成30年3月まで合計26回の更新を経て勤続年数が27年間と長期間に及んでいた。さらに、後記・・・のとおり、鶴川高校においては、平成10年度まで、常勤講師を含む全職員について、特別の事情がない限り、毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給しており、常勤講師について別紙2の給料表(2等級は37号俸まで存在する。)の2等級4号俸から毎年度1等級ずつ定期昇給するとの慣行が法的拘束力を有するものとして存在していたことからすれば、常勤講師につき短期的雇用を予定していたとはいい難い。そして、更新手続として、前記第2の1(前提事実)・・・のとおり、被告は、原告に対し、平成6年度以降、毎年度、更新前に本件応諾書及び本件念書(平成15年度まで。)に署名押印をして被告に提出するよう求め、原告は各書面に署名押印して被告に提出し、被告は、本件給与発令、本件辞令を交付するなどの措置がとられていたが、他方、本件労働契約の更新前に面談等が実施されたことはなかった。さらに、前記・・・(前提事実)・・・のとおり、平成16年度以降の本件応諾書には本件労働契約の『更新をしない場合』の具体的事由が記載されていたが、原告は、後記・・・のとおり、平成27年6月3日、同年12月24日、平成28年9月2日、訓告書の措置を受けているため、前記・・・のとおり、平成27年度、平成28年度本件不更新条項の(26)過去において懲戒処分・訓告書・注意書の措置を受けた者に当たるにもかかわらず、平成28年度、平成29年度の本件労働契約の締結に当たり、被告は、原告に対してこの点につき何らの指摘もしていないのであって、平成17年度以降の本件労働契約の更新の際、原告について本件不更新条項に当たるか否かを審査した上で本件労働契約を更新していたとはいえない。したがって、本件労働契約の更新手続は、書面の取り交わしのみで実際には実質的な審査をしていないという意味で形骸化していたと評価するほかない。

「以上のとおり、原告の携わっていた業務内容、更新の回数、雇用の通算期間、毎年度定期昇給をさせるとの法的拘束力を有する労使慣行の存在及び契約の更新手続の具体的状況に鑑みれば、前記・・・の被告の主張欄記載の被告の主張を考慮しても、本件労働契約を終了させることが期間の定めのない契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できるといえ、労契法19条1号に該当すると認めるのが相当である。

3.1号類型が認められた稀有な例

 1号類型であろうが2号類型であろうが、いずれかの類型に該当しさえすれば、雇止めにあたり客観的合理性・社会通念上の相当性が必要になるというルールが適用されます。しかし、雇止めに必要となる客観的合理性・社会通念上の相当性は相対的な概念で、1号類型に該当した方が、2号類型に該当する場合よりも、強い事情が必要になると理解されています。

 本件は1号類型への該当性が認められた稀有な例で、同種事案において1号類型への該当性を論証するにあたり参考になります。