弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

パワハラ被害者と行為者の間の関係改善の失敗例-会食の場の設定等が不法行為に該当するとされた例

1.パワハラ被害を受けた労働者に対する配慮のための措置

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、労働者からパワハラに係る相談の申出を受けた事業主に対し、

「職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者・・・に対する配慮のための措置を適正に行うこと」

を義務付けています。

 そして、適正な措置の具体例として、

「事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること」

を掲げています。

職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

 しかし、加害者と被害者とが関係を修復し、仲良くなることは現実的に難しいように思われます。近時公刊された判例集にも、パワハラ行為者が被害者との会食の場の設定等をしたことが不法行為に該当すると判示された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、鳥取地判令7.9.25労働判例ジャーナル166-38 国立大学法人鳥取大学事件です。

2.国立大学法人鳥取大学事件

 本件で被告になったのは、鳥取大学医学部附属病院を開設している国立大学法人です。

 原告になったのは、被告と有期労働契約を交わし、被告病院内に設置された次世代高度医療推進センター(本件センター)で産官学連携コーディネーター働いていた方です。在職中に上司の教授、准教授らから数々のパワーハラスメントを受けたと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求したのが本件です。

 原告が問題にした行為は多岐に渡りますが、その中の一つに医学部教授P7との会食の場に付き合わされたことや、会食の場での言動がありました。

 会食の場に付き合わされたこと自体がなぜ問題になるのかというと、それ以前に原告が会議(本件会議)の場でP7教授から「お前なんかに鳥大を良くしてもらおうなんて思わんわ」などと暴言を受けていたからでした。

 この会食の場の設定等について、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

・本件会食の経緯

「P7教授は、被告の理事を務めるP22理事から本件センター内で原告と他の職員のコミュニケーションがうまく行っていない、P4教授とP5准教授のマネジメントが適切にできていない旨聞き、酒の入った場で原告の本音を聞きたいなどと考え、本件会食を設けることにした・・・。」

「P6准教授は、平成28年1月頃、P7教授から原告との本件会食の日程調整依頼を受け、原告にP7教授の意向を伝えた。原告はP7教授と業務上の接点がないことや、本件会議において激しい応酬があった経緯・・・などから、消極的ではあったが、P6准教授の立場にも配慮し、本件会食に出席することとした。・・・」

・本件会食の状況

「本件会食は、同月15日午後6時から約5時間、米子市αの飲食店において行われた・・・。」

「本件会食中、P7教授は原告に対し、大学という組織が特殊な環境であり、大学の常識は世間の非常識である、大学という組織内においては、自分自身の考えに固執しないことも必要ではないかという趣旨の話をした。後にハラスメント等防止・対策委員会の聴取において、P7教授は、本件会食当時、原告が反論した際には「話がヒートアップしたところもあるかと思います」と述べた。・・・」

「本件会食中に、P7教授が原告の腕に触れることがあった・・・。」

「本件会食の際に、P6准教授は、P7教授の発言は人によってはパワーハラスメントと受け取られかねないと感じており、後にP4教授に対して、本件会食におけるP7教授の言動がパワーハラスメントと捉えられる可能性がある旨伝えていた・・・。」

・本件会食後の事情

「原告は、同月18日、被告の職員に宛てて(ccにP6准教授を含む。)、本件会食におけるP7教授の発言について、『一般社会、企業であれば、パワーハラスメントや背任行為、脅しである発言がバンバンふつうのこととして出ていて』、『要するにメッセージとしては、何があっても上に上げるな!P3(原告の在職時の姓 括弧内筆者)さんの不利益になる!との発言で、録音しとけばよかったと思いました。』などと記載したメールを送信した・・・。」

「原告は、本件会食の数日後、本件センターの職員等に宛てて、パワーハラスメントの定義を共有する趣旨のメールを送信した・・・。」

「P4教授は、上記・・・のメールを踏まえてP6准教授に事情を尋ねたところ、P6准教授は上記アのメールを示し、本件会食においてP7教授の原告に対するボディタッチがあったことや、P7教授の行為がハラスメントであると言われればそうかもしれないという趣旨の説明をした・・・。」

「P6准教授は、本件会食の翌日に原告と話をした際、原告がP7教授からパワーハラスメントを受けたという印象を持った・・・。」

(中略)

・不法行為の成否

「これを前提とすると、本件会食におけるP7教授の話は、基本的にはP7教授なりに大学組織内に適応するための方法を説くものであったと認められる・・・。しかし、原告が本件会食の3日後に送信したメールの内容からすれば、少なくとも原告はP7教授の発言がパワーハラスメントや脅しに当たるものであると受け止めていたことが窺われるし・・・、P7教授自身も当時『ヒートアップ』することがあった旨述べていたことからすると・・・、P7教授の口調が強くなる場面があったことも窺われる。さらに、P7教授の発言については、同席したP6准教授がパワーハラスメントと捉えられかねないと感じていたこと・・・も踏まえると、具体的内容が不明であるとしても、P7教授が本件会食中に原告に対して一定の威圧的な発言をしたことがあったと認めるのが相当である。加えて、特段業務上の接点のない、本件副センター長の地位にあるP7教授から呼び出され、約5時間もの長時間にわたる会食に参加することになったこと自体について、原告が居心地の悪さを覚えたことは容易に推察されるし、ボディタッチという程度にとどまったとしても、会食の場で原告の腕に触れること・・・はセクシュアルハラスメントにも該当しかねないものであって、不適切な行為であることは明らかである。そうすると、本件会食の場それ自体に加え、本件会食中にあったP7教授の発言や身体接触によって、原告は業務上の付き合いにおいて通常伴い得る不快感を超えた精神的苦痛を受けたと認めるのが相当であり、本件会食におけるP7教授の一連の行為は不法行為を構成するというべきである。

3.やはり引き離しが基本線になるのではないか

 個人的に見聞きする範囲ではありますが、ハラスメントが行われた際、多くの企業は、行為者と被害者の双方ないし一方を配置転換することによって対応しているように思います。これは、行為者と被害者との関係の修復が困難であることを経験的に認識しているからではないかと思います。

 会食等はP7教授の発意によるものであり、本件は事業主側が積極的に関係の修復を図って会食の場を設定した事案ではありませんが、関係改善に向けた取り組みが、時として二次被害を生じさせてしまうことを示す例として、実務上参考になります。