弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

医学部教授による会議の場での罵倒、攻撃的な暴言に違法性が認められた例

1.会議の場での発言

 議論が白熱する会議の場では、参加者から感情的な発言が飛び出すことがあります。参加者が多数に上る会議で感情的な発言を受けた人は、衆人環視のもとで晒しものにされたような形になるため、発言をした人と発言を受けた人との間の地位に差がある場合、ハラスメントの成否をめぐって紛争になることが少なくありません。

 近時公刊された判例集にも、会議中の感情的な発言に違法性が認められた例が掲載されていました。鳥取地判令7.9.25労働判例ジャーナル166-38 国立大学法人鳥取大学事件です。

2.国立大学法人鳥取大学事件

 本件で被告になったのは、鳥取大学医学部附属病院を開設している国立大学法人です。

 原告になったのは、被告と有期労働契約を交わし、被告病院内に設置された次世代高度医療推進センター(本件センター)で産官学連携コーディネーター働いていた方です。在職中に上司の教授、准教授らから数々のパワーハラスメントを受けたと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求したのが本件です。

 原告が問題にした行為は多岐に渡りますが、その中の一つに医学部教授P7の「お前なんかに鳥大を良くしてもらおうなんて思わんわ」という会議の場での発言がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、P7教授の発言に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告病院は、文部科学省から未来医療研究人材養成拠点形成事業(以下『未来医療事業』)に係る補助金を受給していたところ、平成27年8月10日、文部科学省担当者の監査を受けた際に、補助金受給事業とその他の事業の線引きが不明確な出張があるなど、目的外使用の疑いに関する指摘を受けた・・・。」

「本件会議は、上記・・・の指摘を受け、指摘事項の情報共有及び対応策の検討等を目的として同月27日に開催された・・・。」

(中略)

「本件会議においては、事務担当者が本件資料に基づき、未来医療事業に関する予算の使用に適合する事業の内容や出張の目的等について整理した上、今後、旅費に係る出張報告書の作成に当たっては、予算支出に適合する事業についてのみ記載することや、過去に作成された出張報告書について修正等の作業を行うため、医師らにも協力を求めることを説明した・・・。」

「P7教授は、過去の報告書の修正について、事務方が担当すればよく、自分は修正作業をしないという趣旨の発言をした・・・。」

原告は、P7教授の上記イの発言が、事務方に不正な書類を作成させる趣旨の発言であると考えて反発し、『鳥大を良くしていこうと思わないのですか』と述べた・・・。

P7教授は、原告の上記・・・の発言に対し、『お前なんかに鳥大を良くしてもらおうなんて思わんわ』と述べた・・・。

(中略)

本件発言の内容自体からして、同発言は、原告の意見への反論と呼べるものではなく、原告を罵倒する攻撃的な暴言であるといわざるを得ない。

「この点について、被告は、

〔1〕本件発言は、原告がP7教授の発言を曲解してP7教授に対して当を得ない論難をしたことに対してされたものであること、

〔2〕原告がさらに強い反論や主張を繰り返したことを指摘する。

〔1〕については、確かに、本件会議において不正な報告書の作成等を指示する趣旨の説明がされたと認めるに足りる証拠はなく(文部科学省による監査が既に終了した段階で、監査における指摘を前提に過去の報告書を修正することは、誤りを認めて事後的な処理を行う趣旨であると考えられ、不正の隠蔽を意味するものではない。)、事務担当者が説明した内容は、補助金受給事業の予算を使用する基準や、予算支出の対象とすることができる適正な出張目的を確認し、それを踏まえた今後の事務を検討するものであったと認められることからすれば・・・、P7教授が過去の報告書の修正については事務方が担当すればよい旨述べたのも・・・、修正作業はP7教授自身が担当すべき事務ではないという以上の意味はなかったと認められる。この点において、原告がP7教授の上記発言について事務方に不正な書類を作成させる趣旨であると解したのは・・・、誤解であったといえる。しかし、この点を踏まえても、P7教授としては原告の指摘の趣旨を確認したり、自分の発言の趣旨を再度説明して誤解を解いたりすれば済むのであって、原告を罵倒する発言を正当化する理由にはならない。また、

〔2〕については、被告が指摘する原告の具体的な発言内容等も明らかでなく、本件発言に対して原告が反論等を繰り返したという事実を認めるに足りる証拠がない。」

「以上によれば、本件発言が認定事実・・・の原告の発言(鳥大を良くしていこくと思わないのですか 括弧内筆者)に対してされたものであることを考慮しても、本件発言は原告に不当に精神的苦痛を与えるものであったというべきであり、違法性が認められる。

3.会議の場でも罵倒が正当化されなかった例

 議論の場では、多少の行き過ぎがあっても許容されるとする考え方もあります。

 例えば、京都地判平18.8.31判例タイムズ1224-274は、訴訟活動で当事者が行う訴訟活動が違法となる場合について、

「その手続において当事者が行う主張・立証活動により,相手方等の名誉が毀損されたとしても,それが当然に不法行為を構成するものではなく,訴訟行為と関連し,訴訟遂行のために必要であり,主張方法も不当とは認められない場合には,違法性が阻却されるが,訴訟活動に名を借りて,訴訟上主張する必要のない事実を主張し,相手方等の名誉を損なう行為に及んだなど,正当な訴訟活動として許容される範囲を逸脱していると評価できる場合には,不法行為が成立するというべきである。

とかなり限定的に理解しています。

 しかし、本件の裁判所は、内容自体反論と呼べるものではないと述べ、比較的簡単に発言の違法性を認めています。これには、対等の当事者間というわけではなく、医学部教授と有期契約の職員(産官学連携コーディネーター)という地位に格差がある関係であったことが効いているのかも知れません。

 いずれにせよ、会議での発言が違法とされた例として、裁判所の判断は実務上参考になります。