弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

派遣期間満了による労働契約の終了に雇止め法理の適用が認められた例(使用者の言動による合理的期待の肯定)

1.労働者派遣契約と雇止め法理

 有期労働契約は期間の満了により終了するのが原則です。

 しかし、①有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と同視できるような場合や、②有期労働契約の満了時に当該有期労働契約が更新されると期待することに合理的な理由がある場合、使用者が期間満了により雇用契約を主張することに、一定の制限が加えられます。具体的に言うと、労働者が契約の更新を望む場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、更新を拒絶することができなくなります(労働契約法19条)。法定化される前の呼び名にちなみ、このルールは雇止め法理と言われることがあります。

 この雇止め法理は労働者派遣と極めて相性が悪い関係にあります。

 厚生労働省労働基準局長通知平成24年8月10日基発0810第2号(最終改正:平成30年12月28日)は、労働契約法19条の解釈に関し、

「法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断される」

と規定しています。

 しかし、労働者派遣法は「常用代替の防止」という考え方のもとで制度設計されています。

平成27年労働者派遣法の改正について

 労働者派遣の場合、雇止め法理の適用の可否を決する考慮要素の筆頭に掲げられている「雇用の・・・常用性」が必ず否定される関係にあります。そのため、派遣労働者が雇止め法理による保護を主張することは原理的に困難だと考えられています。

 実際、最二小判平21.3.27労働判例991-14 伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件は、大意、

労働者派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけではなく、常用代替の防止をも立法目的としている、

同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することは、常用代替防止の観点から法的に予定されていない、

したがって、派遣労働者の雇用継続に対する期待は合理性を有しない、

との論理で派遣労働者への雇止め法理の適用を否定した一審、二審の判断を支持し、労働者側の上告、上告受理申立を退けています。

 こうした議論状況のもと、派遣労働者に雇止め法理の適用を認めた裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令4.6.22労働経済判例速報2504-3 グッドパートナーズ事件です。

2.グッドパートナーズ事件

 本件で被告になったのは、主に介護の仕事を紹介する人材派遣会社です。

 原告になったのは、被告との間で、派遣・雇用期間を、

平成31年2月3日~同年3月31日

とする労働契約を締結し(本件契約)、Q1の設営する有料老人ホーム(本件施設)に派遣されていた夜勤専従の介護福祉士の方です。原告と被告との間で取り交わされた「雇用契約書(兼)就業条件明示書」には「更新する場合があり得る。」との記載がありました。

 平成31年2月21日、原告は、被告から、本件契約が、

令和元年5月31日までの2か月間更新されることが確定した

旨の電子メールを受信しました。

 しかし、平成31年2月25日の勤務終了後、原告の方は、施設職員による利用者への虐待行為があるとして、その旨を本件施設の副施設長に報告するとともに、行政機関への通報を行いました(なお、行政機関は後に高齢者虐待の事実はなかったと結論付けています)。

 その後、平成31年3月6日、被告は、原告に対し、契約更新を取消し、新たな仕事の紹介もしないと通知し、同年4月以降の本件契約の更新を拒絶しました。

 これに対し、原告の方が、雇止めの無効を主張し、被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めたのが本件です。

 本件の裁判所は、次のとおり述べて、平成31年5月31日時点における更新の期待こそ否定したものの、平成31年3月31日時点での更新に対する合理的期待を認めました。

(裁判所の判断)

「本件契約に係る契約書には、更新があり得る旨の記載があったところ・・・被告の職員であるP3は、平成31年2月21日、原告に対し、本件契約が更新されるとの内容の本件メールを送信したものである。」

「本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信した原告において、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、原告には、同日時点んいおいて、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。」

(中略)

「本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、令和元年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。」

「そして、本件メール以外に、被告において同月以降の更新につき期待させるような言動があったと認めるに足る証拠はなく、本件契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情も認められない。加えて、本件雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされてなかったことからすると、本件メールに記載のない二度目以降の契約更新について、原告が更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできない。」

3.派遣契約であるのに合理的期待が認められた

 伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件以降、派遣労働者を雇止め法理により保護することは難しいというのが実務家の一般的な感覚になっていたのではないかと思います。

 私も派遣労働者を雇止めから守ることは難しいとの認識に立っていたのですが、本件は派遣労働者に対する雇止め法理の適用を認めました。2回目以降の更新の期待こそ否定されたものの、この判断は画期的なものだと思います。一律に雇止め法理の適用が否定されるわけではなく、事情によっては雇止め法理の適用があることが明らかになったからです。

 本件は派遣労働者の雇止めに関する問題を考えるにあたり、重要な意味を持つ先例になるのではないかと思います。