弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

配送業務従事者の労働者性が問題になった事案

1.フリーランスの法律問題

 第二東京弁護士会では、フリーランス・トラブル110番という事業を行い、フリーランスの方からの法律相談に応じています。

フリーランス・トラブル110番

 法律相談は多数の弁護士が持ち回りで担当しています。私も相談担当弁護士の一人として、フリーランスの方からの法律相談を受けています。

 相談を担当・集計していて思うことの一つに、配送業者の方からの相談の多さを挙げることができます。業務委託料が安すぎる、休めない、契約を切られた、交通事故を起こして多額の損害賠償を請求された、途中解約に多額の違約金の定めがあって辞めたくても辞められないなど、相談の内容は多岐に渡ります。

 こうした悩みは、労働者性を主張することができれば、一定程度解決します。

 例えば、最低賃金を割るような水準の業務委託料が設定されていることに対しては、最低賃金法の適用を主張することが考えられます。休めないという問題に対しては、労働基準法34条(休憩)、35条(休日)、39条(年次有給休暇)の適用が考えられます。契約を切られたことに対しては、労働契約法16条(解雇)の適用が考えられます。損害賠償請求に対しては、使用者から労働者への損害賠償を一定の限度に制限する判例法理の適用が考えられます。退職に伴う違約金の定めに関しては、労働基準法16条(賠償予定の禁止)の適用が考えられます。

 このように雇用類似の働き方をしている人の保護を考えるにあたっては、労働法を適用することができるのかが重要な意味を持っています。

 こうした観点から、配送業務従事者の労働者性に対して強い関心を持っていたところ、近時公刊された判例集に、この点が争われた裁判例が掲載されていました。東京地判令2.11.24労働判例ジャーナル110-42 ロジクエスト事件です。

2.ロジクエスト事件

 本件は一審簡裁の控訴審事件です。

 原告・控訴人になったのは、業務委託契約書を交わしたうえ、被告・被控訴人から依頼を受けて配送業務に従事していた方です。労働者であるにもかかわらず、被告・被控訴人から違法に解雇されたなどと主張して、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

 一審裁判所が請求を全部棄却する判決を言い渡したことを受け、これを不服とした原告が控訴したのが本件です。

 本件の主な争点は、労働法を適用する前提となる労働者性を原告・控訴人に認めることができるのかでした。

 原告・控訴人は、

「〔1〕本件会社の求人広告に「手取り保障」や「交通費の支給」、本件会社のホームページに1日6時間から、日曜祝日手当有りとの記載があること、

〔2〕日曜日、祝日は1100円の時給が加算されていること、

〔3〕土日のみ働くとの内容のシフト表を提出した際、週3日は働かなければならないと言われ、週3日働くとのシフト表を提出し直さなければならなかったこと、

〔4〕本件契約書には、業務委託を遂行するに当たり、本件会社所有のエコキャリーバック、エコキャリーカート、ユニフォームを借り受け使用するとの記載があること、

〔5〕本件会社から、配達先に対し電車で配送していると言わない旨、また、髭を生やしてはいけない、身だしなみを改善しなければならない旨指導されていたこと

などからすれば、本件契約は、労働契約に当たる。」

と主張し、自らの労働者性を主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告・控訴人の主張を排し、その労働者性を否定しました。

(裁判所の判断)

 「控訴人は、・・・本件契約が労働契約に当たる旨主張する。」

「しかし、本件契約は、配送業務に関する基本契約であり、個別の配送業務については、本件会社が業務があれば発注することとなっており、控訴人にその発注についての諾否の自由があるものと認められる・・・。控訴人は、週3日働く旨のシフト表を提出し直さなければならなかったと主張するが、これを裏付ける証拠はないし、仮に控訴人が週3日働く旨のシフト表を本件会社の要望に応じて提出し直したことがあったとしても、もともとの募集が週3日以上を前提としていたこと・・・に照らせば、これをもって控訴人の諾否の自由がないとは直ちにいえない。」

「また、本件契約において、控訴人は、業務の遂行に当たり、本件業務の性質上最低限必要な指示以外は、業務遂行方法等について裁量を有し自ら決定することができることとされている・・・。そして、控訴人は、配送業務の遂行に当たり、本件会社の社名やロゴが入ったエコキャリーバック、エコキャリーカート、ユニフォームを使用しているが、これは円滑な業務遂行を目的としたものである可能性がある以上、控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。また、仮に控訴人が身だしなみについて注意されたことがあったとしても、社会通念に照らして、業務の性質上当然に注意されるべき事柄であるから、これをもって控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。」

「そして、本件契約の料金は、配送距離に応じた単価に個々の件数を乗じて算出するものであり・・・、労務提供時間との結び付きは弱いものであるといえる。そして、本件会社については『日曜祝日手当』が支給されていたことは争いがないが、日曜祝日に委託を受注する業者が少ないこととの関係で単価を上げざるを得なかった可能性がある以上、これをもって、控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいい難い。本件会社の募集広告に『1時間当たり850円の手取り保障」『フリー切符代1日1590円支給』との記載があるが・・・、これらの条件は『勤務開始後1ヶ月間の特典』・・・という一時的なものであったことからすれば、これをもって控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。
「このほか控訴人が労働者性を基礎付けるものとして主張する事実を裏付ける証拠はない。控訴人の主張する事情をもってしても控訴人が労働者であると認めるには足りず、そのほか労働者性を認めるに足りる的確な証拠もない。」

「したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。」

 3.労働者性の消極事案ではあるが・・・

 上述のとおり、裁判所は、原告に労働者性は認められないと判示しました。

 これは労働者側敗訴の事案ではありますが、労働者性判断のポイントとなる評価項目や評価の仕方がどのようなものなのかを知るうえで参考になります。

 また、本裁判例は、あくまでも原告・控訴人について労働者性を否定したにすぎません。原告以外の他の配送業務従事者に訴訟提起した場合に、実体に応じて別異の判断が出る可能性は否定できません。

 本件での結論は消極でしたが、これは配送業務従事者がおよそ労働者ではないと判示したものではありません。配送業者だから自動的にダメだということはないので、気になる方は、冒頭のフリーランス110番への利用のほか適宜の方法で、自分が労働者に該当しないのかを、弁護士に相談してみてもいいように思われます。