弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の懲戒処分は審査請求期間に注意-病気でも救済はない

 1.審査請求前置

 公務員が懲戒処分の効力を争う場合、裁判所に訴訟を提起するに先立って、審査請求という行政不服申立をしておく必要があります。

 これについては、国家公務員に関しては、国家公務員法92条の2が、

「第八十九条第一項に規定する処分であつて人事院に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

と規定しています。

 地方公務員に関しては、地方公務員法51条の2が、

「第四十九条第一項に規定する処分であつて人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会又は公平委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

と規定しています。

 ここで注意しなければならないのは、審査請求の期間が3か月と極めて短く設定されていることです(国家公務員法90条の2、地方公務員法49条の3参照)。3か月というのは、割とあっという間で、審査請求をしないまま、この期間が過ぎてしまうと、懲戒処分の取消訴訟を提起しても、不適法却下されてしまいます。

 この点、裁判所はドライであり、滅多なことでは救済はされません。近時公刊された判例集にも、その片鱗を見ることができる裁判例が掲載されていました。東京地判令2.12.11労働判例ジャーナル110-36 東京都・都教委事件です。

2.東京都・都教委事件

 本件は都立高校の教諭が、懲戒免職処分及び退職金全部不支給処分の取消を求めて裁判所に出訴した事件です。

 懲戒免職処分・退職金全部不支給処分を受けたのは、生徒である女子生徒と不適切な内容のLINEメッセージを送信したほか、個別指導時に多数回に渡りキス行為をしたからです。原告の主張の骨子は、懲戒事由の認定に誤りがあるほか、処分が重すぎるというものです。

 しかし、原告の方は、訴訟提起に先立ち、懲戒免職処分への審査請求を前置していませんでした。審査請求をしなかった経緯について、原告は、

「平成30年6月11日にうつ病及び双極性障害を発症し少なくとも平成31年3月15日までその症状が継続し、審査請求の期限である平成30年12月25日時点においても審査請求をすることが現実的に困難な状況であった。・・・また、原告がうつ病及び双極性障害を発症した原因が過酷な勤務実態にあることからすれば、原告が審査請求をできなかったことをもって本件懲戒免職処分の取消しの訴えを不適法とすることは勤労者の権利保障の観点からも著しく正義に反するというべきである。

と主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、懲戒免職処分に係る取消訴訟を不適法却下sました。

2.裁判所の判断

「地公法51条の2、49条1項は、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分であって人事委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事委員会の裁決を経た後でなければ、提起することができない旨定めている。本件懲戒免職処分は、上記の懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分に当たるところ、前記第・・・のとおり、原告は、被告の人事委員会に対して本件懲戒免職処分を不服とした審査請求をせず同委員会の裁決を経ないまま、本件懲戒免職処分の取消しの訴えを提起している。」

「したがって、本件懲戒免職処分の取消しの訴えは審査請求前置の要件(行訴法8条1項ただし書)を充足していない。」

「以上に対し、原告は、・・・主張欄記載のとおり、平成30年6月11日にうつ病及び双極性障害を発症し、少なくとも平成31年3月15日までその症状が継続していたから、地公法51条の2、49条1項適用の前提である適正な判断能力を欠いていたし、また、審査請求をすることが現実的に困難な状況であったとして、地公法51条の2及び同法49条1項の適用がないなど主張する。
原告主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、地公法51条の2、49条1項がうつ病及び双極性障害を発症していないことをその適用要件としているとの趣旨であるとすれば、そうとは解せられない。また、行訴法8条2項3号所定の『その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するか否かを検討しても、後記・・・のとおり、原告は抑うつ状態との診断を受けたことはあるものの、本件全証拠によっても、原告が本件懲戒免職処分の不服申立期間内に審査請求をすることが客観的に見て極めて困難であるなど審査請求前置主義を緩和すべき具体的事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の上記主張はいずれにしても採用することができない。

3.懲戒処分の効力を争う場合、処分後すぐに弁護士に相談を

 上述のとおり、裁判所は、病気等の事情があっても、審査請求前置主義を緩和する事情にはあたらないと判示しました。

 裁判所は、期間制限について、これを形式的に理解する傾向がみられます。懲戒処分の効力を争うにあたり、門前払いにならないためには、法に定められた手続を踏みはずすことなく争って行く必要があります。

 しかし、法の内容は単純ではなく、一般の方が手続を踏みはずすことなく懲戒処分の効力を争って行くことは、必ずしも容易ではありません。

 懲戒処分の効力に疑義を覚えた場合には、やはり、できるだけ早い段階から弁護士に相談し、争って行くための手順等を確認しておくことが重要です。