弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の懲戒処分-弁明の機会の日の通知から弁明手続の開催までには、どれくらいの日数が必要か?

1.防御活動に必要な期間

 行政手続法15条1項は、次のとおり規定しています。

第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 聴聞の期日及び場所
四 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地

 また、行政手続法30条は、次のとおり規定しています。

第三十条 行政庁は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時及び場所)

 聴聞も弁明も、不利益処分を行うにあたって必要とされる手続ですが、手続に際しては「相当な期間」を置くことが求められています。これは被処分者が実質的な防御活動を行うにあたっては、一定の準備期間が必要になると理解されているからです。

 しかし、「公務員・・・の職務又は身分に関してされる処分」には、行政手続法の適用が除外されています(行政手続法3条1項9号)。

 それでは、公務員に対して懲戒処分を行う場面では、弁明の機会付与までの間に相当な期間を置くことは求められないのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、仙台高判令3.3.24労働判例ジャーナル112-48 福島県・県教委事件です。

2.福島県・県教委事件

 本件は福島県の公立学校教員が提起した懲戒免職処分・退職手当全部不支給処分の取消訴訟の控訴審です。

 原告になったのは、酒気帯び運転をしたことで懲戒免職処分・退職手当全部不支給処分を受けた方です。各処分の取消を求めて提訴したところ、原審は、懲戒免職処分を適法とする一方、退職手当全部不支給処分を違法であるとし、これを取り消す判決を言い渡しました。

 これに対して被告福島県側が控訴したのが本件です。控訴審では原告・被控訴人から附帯控訴が提起され、懲戒免職処分・退職手当全部不支給処分の効力のいずれもが審理の対象になりました。

 本件では原告・被控訴人側から、本件懲戒免職処分の効力について、手続的な観点からも疑義が呈されました。具体的にいうと、本件では弁明の機会の日の通知が開催の実質(土日を挟んでという意味だと思われます)3日前に行われたところ、これでは十分に防御活動を行えないという主張です。

 この論点について、裁判所は、次のとおり述べて、手続に問題はないと判示しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、本件懲戒免職処分に係る弁明の機会の日の通知が、実質的には開催当日の3日前にされたが、これでは防御活動に必要な期間とはいえず、当日に代理人が出席することもできなかったから、上記通知の際に『相当な期間』(行手法30条)をおいたとはいえず、本件懲戒免職処分には手続的瑕疵があると主張する。」 

「しかし、そもそも、本件懲戒免職処分には、行手法30条は適用されない(同法3条1項9号)上、本件弁明の機会の通知が開催当日の5日前にされたことによって弁明の機会の付与が実質的に保障されなかったとはいえないことは、原審の説示するとおりである(原判決19頁9行目から24行目まで)から、被控訴人の上記主張は採用できない。

3.5日前でも問題ないというのは酷であるようにも思われるが・・・

 5日後に弁明の手続があるからということで法律事務所に駆け込まれても、同席対応等ができる弁護士は限定されていると思います。弁護士は一般に多数の事件を受任していて、日中は既に訴訟等の予定が入っていることが多いからです。

 弁護士的な感覚で言うと、通知から弁明手続の開催までが5日でも足りるというのは、かなり酷であるように思われます。

 しかし、仙台高裁は、これを問題ないと判示しました。

 こうした判断が出てしまうと、やはり懲戒処分に直面している公務員の方が弁護士の援助を受けて実効性のある防御活動を行うためには、弁明の機会付与の通知が来るのを待ってからでは不十分だなと思います。処分の対象になっていることを把握した時点から、可及的速やかに相談相手となる弁護士を見つけておくことが必要です。