弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員-懲戒処分を受ける以前の事情聴取段階から弁護士の関与を

1.公務員の懲戒処分の事前手続

 以前、公務員の懲戒処分は、行政手続法の適用除外となっているため、どのような事前手続が踏まれれば、手続的な適正さが担保されたことになるのかが明確でないというお話をしました。

公務員の懲戒処分-事情聴取と弁明の機会付与が渾然一体となっている問題 - 弁護士 師子角允彬のブログ

 そのため、手続的な観点からの違法/適法の境目は、裁判例の傾向を分析して判断して行くしかありません。昨日紹介した 大阪地判令2.6.29労働判例ジャーナル105-42 守口市門真市消防組合事件は、弁明の機会付与という観点からも有益な示唆を与えてくれます。

2.守口市門真市消防組合事件

 本件は、

「平成26年10月から平成27年12月までの間、整骨院と共謀し、診療報酬を欺いたこと」(本件非違行為)

を理由に懲戒免職処分、それに引き続く退職手当全部不支給処分を受けた消防士長が、勤務先である特別地方公共団体・守口市門真市消防組合に対し、各処分の取消を求めて出訴した事件です。

 懲戒免職処分の有効性は幾つかの観点から争われていますが、その中の一つに手続的観点からの問題があります。

 懲戒免職処分は、守口市門真市消防組合消防職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(本件懲戒手続条例)に基づいて行われました。

 しかし、この手続条例には、処分の際に、被処分者に対して告知・聴聞の機会を与えることを定めた規定は存在しませんでした。

 こうした状況のもと、事情聴取に引き続いて懲戒免職処分が行われたことを捉え、原告は、

「本件は、詐欺の故意や共謀という行為者の主観面が問題となる上、免職という職員の地位を失わせる処分についてのものであり、原告の反論を聞くべき必要性が高い事案であるから、本件懲戒免職処分に先立ち、聴聞を行うべきであったところ、被告は、原告に対し、事情聴取(原告が被告担当者からの質問に答えるのみで、反論を行うものではない)を行ったにすぎない。そうすると、適正手続の観点から、公正な処分であったとはいえない。」

と主張しました。

 これに対し、被告消防組合は、

「被告担当者は、本件懲戒免職処分に先立ち、平成29年1月10日及び同月15日、原告に対する事情聴取を行っており、原告に弁明、反論の機会を十分に与えている。」

「したがって,本件懲戒免職処分にあたり手続違反はない。」

と反論しました。

 裁判所は、次のとおり述べて、手続的な観点からの問題はないと判示し、結論としても懲戒免職処分の有効性を認めました。

(裁判所の判断)

「本件懲戒免職処分に先立ち、聴聞を行うべきであったところ、被告は、原告に対し、事情聴取(原告が被告担当者からの質問に答えるのみで、反論を行うものではない)を行ったにすぎない旨主張して、本件懲戒免職処分の手続に問題がある旨主張する。」

しかし、本件懲戒手続条例には、懲戒処分をする際、被処分者に対して告知・聴聞の機会を与えることを定めた規定は存しない・・・のみならず、処分行政庁は、原告に対し、本件懲戒免職処分をするに先立ち、2度にわたり、何に関する事情聴取であるかを伝えた上で質問したり、説明等を聴取しているのであって、その過程で供述を強制された旨の主張やこれを認めるに足る証拠もない。

そうすると、本件各処分をするに先立ち、原告に対して弁明の機会も与えられていたといえる。

「よって、この点に関する原告の主張は採用できない」

(中略)

「したがって、本件懲戒免職処分が違法であるとはいえない。」

3.放っておいたら反論の機会は付与されない

 告知・聴聞の手続をきちんと条例で定めていない自治体は、少なくないように思います。こうした自治体で懲戒処分を受けそうになった場合には、手続規定が欠けている場合に求められている弁明手続が裁判例でどのように理解されているのかを前提に防御方法を考えて行くしかありません。

 以前紹介した、津地判令2.8.20労働判例ジャーナル105-28 津市事件もそうですが(冒頭のリンク先参照)、裁判所は明示的に反論を述べる機会を付与しなくても、事情聴取の手続が前置されていれば、弁明の機会が付与されていたと判断する傾向があります。

 問題視されない以上、自治体には、処分に先立ち、被処分者に対して明示的な反論の機会を与える誘因がありません。そのため、懲戒処分を受けそうになっている方としては、反論のための機会が別途付与されないことを前提に、事情聴取の機会を利用して適切な反論を展開して行く必要があります。

 事情聴取と同時に反論を展開するという作業は、一般の方にとって決して簡単ではありません。一旦懲戒処分が出されると、その効力を争うことが必ずしも容易でないことからも、懲戒処分のための手続が開始された場合には、処分が出る前の段階から弁護士を関与させることが推奨されます。