弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

違法解雇の争い方-再就職が困難でも不法行為構成は金額が伸びない

1.違法解雇の争い方

 違法解雇には二通りの争い方があります。

 一つは、地位確認請求と未払賃金請求を併合する方法です。解雇が違法無効である場合、労働契約上の地位は依然として存続していることになります。契約が存続しているにも関わらず労務の提供ができないのは、使用者の責任なのだから、その間の賃金は全額が支払われなければならないという理屈です。

 もう一つは、不法行為に基づいて損害賠償を請求する方法です。違法な解雇により、精神的苦痛を受けた、あるいは、得られるはずだった利益を逸失したとして、その賠償を求めるという構成です。

 一般論として言うと、金額が伸びやすいのは前者です。解雇の効力をめぐる議論に決着がつくまでには、審理期間が1年以上に及ぶことも珍しくありません。地位確認請求・未払賃金請求の組み合わせによった場合、勝訴すれば解雇時に遡及して未払賃金の支払を受けることができます。

 他方、後者の構成の場合、慰謝料の請求が認められにくい・低額化する傾向があることはもとより、逸失利益も再就職までに必要な合理的期間内に限定されてしまいます。この合理的期間としては、数か月程度に留める裁判例が多いように思われます。

 近時公刊された判例集にも、不法行為に基づいて逸失利益を請求することに対する裁判所の消極的な姿勢を窺い知ることのできる裁判例が掲載されていました。東京地判令2.12.21労働判例ジャーナル109-20 スマートグリッドホーム事件です。

2.スマートグリッドホーム事件

 本件は違法解雇が不法行為にあたるとして、労働者から不法行為に基づく損害賠償請求訴訟が提起された事件です。

 被告になったのは、太陽光発電設備の販売、管理等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告と雇用契約を締結していた方です。昭和36年生まれの方であり(本件解雇時56歳)、次の経緯で被告に入社したとされています。

「原告は、平成26年12月、右足膝下を切断して自営業を継続できず失職し、平成27年1月に身体障害者手帳・・・の交付を受け(4級)、同年4月に年金の支給が決定されたが、同年12月ころまで経過観察としてリハビリ科等への通院をして年金のみで生活した後、ハローワークに職業あっせんを依頼した。しかし、原告の年齢及び上記障害から応募しても面談すらしてもらえなかったり面談に至っても採用されなかったりすることが続いた末、前記・・・のとおり、平成29年8月21日に本件雇用契約を締結するに至った。」

 しかし、入社約1か月後の平成29年9月22日、原告は、被告代表者のbから

「お前は気に食わん。1月分余計に放るからすぐにやめろ。」

「今から出ていけ。」

などと解雇を言い渡されてしまいました(本件解雇)。

 原告は、本件解雇が違法無効なもので不法行為を構成するとして、被告に対し、慰謝料100万円、逸失利益210万円(賃金月額の6か月分)、弁護士費用31万円の支払い等を求める訴えを提起しました。

 裁判所は、本件解雇の違法性を認めたうえ、被告に賠償させるべき損害について、次のとおり判示しました。

(裁判所の判断)

「本件解雇は無効であるところ、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成29年9月22日、被告代表者であるbから本件解雇の意思表示をされて、その場で、本件雇用契約に基づく被告の指揮命令下で就労する意思を喪失したと認められる。本件解雇の意思表示を受けた3日後である平成29年9月25日ころ、前記・・・のとおり、被告から外部社員として働く話を提示されて協議に応じる態度を示してbが消極的態度に転じたことにより契約締結に至らないままになった経過は、上記認定を左右するものではない。そうすると、本件雇用契約は、本件解雇及びその後の原告の就労意思の喪失により終了したと認められ、これにより、原告の被告に対する本件解雇翌日以降の賃金請求権も消滅し、原告は、本件解雇という不法行為によって本来得られたはずの賃金請求権を喪失したことになる。」

「そして、前記・・・のとおり、原告は、その年齢及び障害から、被告に就職するまで就職活動で苦労してきたものであり、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件解雇後2年以上にわたり再就職先を見付けることができなかった事実が認められるものの、原告の本件解雇(即時解雇)に至るまでの被告における就労期間は約1か月で試用期間(2か月)中であったこと、後記・・・のとおり解雇予告手当に係る請求が別途認容されることなどの事情も踏まえると、本件解雇と相当因果関係のある原告の逸失利益は賃金(月35万円・・・)の3か月分である105万円の限度で認めるのが相当である。

「また、上記で認めた逸失利益に加えて、慰謝料を別途認めるまでの事情はないというべきである。」

「そして、本件解雇と相当因果関係のある弁護士費用は10万円の限度で認めるのが相当である。」

「したがって、本件解雇の損害額は、115万円と認める。」

3.再就職が相当困難でも逸失利益は賃金3か月分

 本件の原告は、判決が指摘するとおり、再就職の困難な状態にありました。そうであれば、再就職するまでに逸失した賃金相当額に一定のボリュームを持たせても良さそうな気がしますが、裁判所は賃金の3か月分の限度でしか逸失利益を認めませんでした。実際には2年以上に渡って再就職先が見つからなかったことを考えると、解雇予告手当の請求が別途認容されていることを踏まえても、裁判所の認定は、抑制的・消極的に過ぎるのではないかと思われます。

 就労意思を完全に喪失してしまった場合には、不法行為構成で争わざるを得ないのでしょうが、

法律構成によって得られる経済的利益に顕著な差があること、

それなりに特殊な事情があっても、他の事案と同様に、逸失利益は伸びにくいこと、

を考えると、やはり、解雇の違法無効は、地位確認・未払賃金請求の構成で争った方が合理的であるように思われます。