弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

解雇の違法無効で慰謝料が認められやすい類型-大学教授のケース

1.解雇の違法無効-地位確認請求に併合して損害賠償(慰謝料)を請求できる場合

 解雇が違法無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるにあたり、

違法無効な解雇権の行使を受けて、精神的な苦痛を被った、

と主張し、不法行為(民法709条)に基づいて、慰謝料請求を併合することがあります。

 しかし、このような慰謝料請求が認められることは、あまりありません。

 理由は二つあります。

 一つには、損害賠償(慰謝料)請求を行うにあたっては、故意、過失が必要になることが挙げられます。結果的に裁判所で解雇権の行使が違法、無効であったからといって、必ずしも故意、過失に基づいているとは限りません。意思決定の過程が適切に行われていた場合、故意、過失が認められないと判断されることは少なくありません。

 もう一つは、損害がないと判断されてしまうことです。解雇が違法無効である場合、解雇された時にまで遡って賃金の支払を受けることができます。多くの裁判所において、違法無効な解雇を受けたことによる精神的苦痛は、未払賃金の支払を受けさえすれば基本的に慰謝されるものと考えています。

 特に二番目の理由が重要で、地位確認請求(及び未払賃金請求)を伴う場合、解雇の違法無効を理由とする損害賠償請求は認められないのが原則です。

 しかし、どのような原則にも例外はあります。地位確認請求に併合された損害賠償(慰謝料)請求についても、認められやすい場合があるとは考えられないでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、大津地判令4.6.30労働判例ジャーナル128-8 学校法人滋賀学園事件です。

2.学校法人滋賀学園事件

 本件で被告になったのは、びわこ学院大学(本件大学)を設置する学校法人です。

 原告になったのは、被告との間で有期労働契約を締結し、本件大学の教育福祉学部スポーツ教育学科で専任教授として勤務していた方です。陸上部に所属するゼミ生である学生eに対するハラスメントを理由に普通解雇されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では地位確認請求に損害(慰謝料)賠償が併合して請求されていました。

 裁判所は、解雇を無効だと判断したうえ、次のとおり述べて、原告の損害賠償請求を認めました。

(裁判所の判断)

「原告は、違法な本件解雇によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の支払を求めているところ、本件に現れた諸般の事情、とりわけ突然された本件解雇によって、原告が、本件大学における教授ないし研究者としての地位を長期間にわたって失い、その間、研究活動や学生らへの指導や交流の機会を失ったことを考慮する一方で、原告がした言動が、本件大学の方針と沿わない面があったことは否定できないことや、本判決による地位の回復と未払賃金の支払がされることなどを考慮すると、慰謝料額は80万円をもって相当であると認められる。

3.就労請求権のある職種は認められやすい?

 裁判所は、上述のとおり述べて、慰謝料請求を許容しました。

 大学教授は就労請求権が認められやすい職種として知られています。赤字部分のフレーズは、就労請求の可否が問題となる事案で、下級審がしばしば指摘する文言です。

 解雇が違法無効である場合に、どのような場面で損害賠償請求が認められているのかについて法則性を見出すことは難しいのですが、就労請求権のある職種という切り口は覚えておいていいように思います。

 弁護士費用等を考えると、数十万円でも取得できれば、かなりのメリットになるだろうと思います。大学教授等を代理して解雇無効を理由に地位確認請求を行うにあたっては、「どうせ無駄だから」などと頭から決めつけず、慣習的に損害賠償を併合して請求することにしても、良いかも知れません。