弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

単発・短期のアルバイトであったとしても、労働者に理由を一切説明することなく突然契約を白紙撤回すれば慰謝料の対象になる

1.短期・単発のアルバイト(労働契約)

 労働契約の中には、短期・単発のものがあります。1日だけ、あるいは、イベント開催中の3日間だけ雇うといったようにです。

 こうした短期・単発のアルバイトは、使用者側も軽く見ているのか、不要と判断した時に、かなり強引に契約関係の清算が図られることがあります。契約関係を解消する旨のメールを一方的に送り付けるのが典型です。

 このような場合でも、労働者としては、解雇は無効だとして、賃金を請求したり、休業手当を請求したりすることが考えられます。

 それでは、違法な契約解消行為(解雇)が一方的に行われた場合、賃金や休業手当等のほか、損賠賠償を請求することはできないのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時掲載された判例集に掲載されていました。大阪高判5.1.13労働判例ジャーナル136-68です。 ハッピースマイル事件

2.ハッピースマイル事件

 本件で被告になったのは、イベントスタッフ、コンサートスタッフ、試験会場での誘導等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、令和3年10月1日に、被告との間で、

(1)業務内容 イベントスタッフ、コンサートスタッフ、試験会場での誘導等

(2)勤務日 令和3年10月16日、同月17日及び同月24日

(3)労働時間 上記3日間の合計16時間

(4)賃金 時給1000円

といった内容の労働契約を締結した方です。

 令和3年10月8日、突然、被告から、採用を白紙撤回する旨のメールが送られてきました。これを受け、就労できなかった3日分の休業手当と、不採用慰謝料の支払いを求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は、被告に休業手当の支払いを命じたうえ、次のとおり述べて、慰謝料請求も認めました。

(裁判所の判断)

・不当解雇(採用取消)による不法行為について

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、

〔1〕被告は、令和3年10月1日、原告との間で本件労働契約を締結したにもかかわらず、その1週間後の同月8日、原告に対し、突如として、本件労働契約を「白紙撤回」する旨のメールを送信し、理由を一切説明することなく、一方的に本件労働契約を解消したこと、及び

〔2〕その後、被告は、原告からの休業手当の支払を求める交渉や、大阪中央労働基準監督署からの呼出しにも一切応じず、最終的には、音信不通となってしまったことが認められる。

上記の経緯に鑑みれば、被告は、およそ合理的な理由のない解雇をしたものであって、これにより、原告には、前記・・・の休業手当の支払によってもなお償うことのできない精神的苦痛が生じたものと認められるから、本件労働契約の一方的な解消に係る上記の被告の対応は、原告に対する不法行為を構成するものというべきである。

「そして、本件労働契約が、試験会場での誘導等の業務を3日間にわたり時給1000円(報酬合計1万6000円)の約定で担当するものであること等の本件に係る一切の事情を考慮すれば、前記・・・の被告の不法行為によって原告が被った精神的損害を慰謝するに足りる金額については、これを5万円と認めるのが相当である。

3.理由を説明しない一方的な契約撤回は許されない

 上述のとおり、裁判所は、採用取消のメールに不法行為該当性を認めました。

 5万円と聞くと少額だと思われる方がいるかも知れません。しかし、本件労働契約の報酬が総額1万6000円であったことと比較すると、相応の金額が確保されているよう見方も可能であるように思われます。

 また、理由を説明しない一方的な労働契約の解消が不法行為を構成するとされている点も注目に値します。この判示は短期アルバイトだけではなく、労働契約全般にあてはまるのではないかと思われます。理由も告げられないまま一方的に内定を取り消された人が救済を求める場面でも、本裁判例は活用できる余地がありそうです。