弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

ラブホテルのフロント係員の労働者性(肯定例)

1.「業務委託契約」を用いた労働法の規制逃れ

 労働法の適用を免れるために、雇用契約ではなく、敢えて業務委託契約という形式が用いられれることがあります。

 業務委託契約とは民法に書かれていない種類の契約であり、その法的性質は、委任、準委任、請負、雇用など様々なものを内包しています。つまり、業務委託契約であることは、雇用契約ではないことを意味するわけではありません。

 また、労働法は、「労働者」、すなわち、「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」に適用される法令であり(労働基準法9条等参照)、その適用対象は、雇用契約という法形式の踏まれている被用者に限られるわけでもありません。

 このように、業務委託契約であるからといって、当然に労働法の適用を免れることはできません。労働法が適用されるのか否かは、飽くまでも実体としてどのような働き方をしているのかによって判断されます。

 それでも、就労先が業務委託契約だと言い張って、労働者性が争われるケースは、実務上少なくありません。近時公刊された判例集に掲載されていた、大阪地判令3.8.23労働判例ジャーナル118-42 キサラギコーポレーション事件も、その一つです。

2.キサラギコーポレーション事件

 本件で被告になったのは、ホテル(本件ホテル)の経営等を業とする有限会社です。

 原告になったのは、本件ホテルでフロント業務等に従事していた方です。雇用契約に基づいて勤務していたにもかかわらず賃金が支払われないとして、未払賃金等の支払いを求める訴えを提起しました。

 これに対し、被告は、

「本件ホテルのようないわゆるラブホテルの多くでは、スタッフは雇用ではなく、業務委託という法形式で業務に従事している」

などと主張して、原告の労働者性を争いました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告の労働者性を認めました。

(裁判所の判断)

「ある契約が雇用契約なのか業務委託契約なのかについては、どのような名称の契約を締結したかによって直ちに定まるものではなく、契約の内容を実質的に検討することが必要である。そして、労働契約法2条1項が、『「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう』とし、労働基準法9条1項が、『「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう』としていることなどからすれば、雇用契約とは、労働者が使用者の指揮命令に従って労務を提供し、使用者がその対価としての賃金を支払う契約であるといえる。」

「そこで、以下、原告が、被告の指揮命令に従って労務を提供し、労務に対する対償を支払われる者であるかについて検討していく。」

「原告が従事していた業務は、本件ホテルのフロント業務等であったところ、その業務内容に照らしても、原告が被告から指示された仕事を受諾するか否かを自由に決定することができていたということはできず、原告が、被告から打診された業務を拒絶したというような事情もうかがわれない。」

「また、被告代表者が、原告に対し、部屋の稼働状況を問い合わせたのに対し、原告が稼働状況が判明するパソコンの画面を撮影して送信するなどしていることが認められるところ・・・、被告代表者の問合せがあるたびに原告が稼働状況を報告していることからすれば、原告は、被告の指揮命令下にあったということができる。」

「さらに、原告の勤務場所は、本件ホテル内に固定されており、業務に従事する時間もシフトによって定まっていたほか、原告を含めて本件ホテルで勤務する者はタイムカードを打刻することとなっており、実際、原告に係るタイムカードをみると出退勤時間が打刻・手書きされていること・・・などからすれば、原告はタイムカードを打刻することが義務付けられていたといえる。そうすると、原告の勤務場所・勤務時間には拘束性があったということができる。」

「そして、本件ホテルにおける業務に従事する際に、原告が第三者をして労務提供させることが認められていたというような事情もうかがわれない。」

「加えて、原告の報酬は、仕事の完成という結果によって支払われることとされていたものではなく、認定事実・・・のとおり時給制とされており、労務提供の時間によってその額が定まることとされていたものであること、100時間の見習い(研修)期間が設けられていたこと(見習い(研修)期間中は報酬の額が低額となっている。)などに照らせば、原告の報酬は労務対償性を有していたということができる。」

「そのほか、被告に係る求人広告の内容は認定事実(3)のとおりであるところ、パート・アルバイトとしての募集であること、『給与』、『勤務時間』、『勤務日数』、『長期勤務』、『扶養内勤務』などの文言を使用していることなどに照らせば、被告自身が、パート・アルバイトなどの形態で雇用契約を締結することを意図していたこともうかがわれる。」

「なお、被告代表者が、原告に送信したLINEにおいても、タイムカードの手書きが問題となった以降である令和元年5月11日においては、『業務委託も解約させて貰います』、『雇用契約もしておりません。業務委託をしただけです。』などと雇用契約であることを明確に否定するものとなっているものの、他方で、それ以前に送信したLINEにおいては、本件ホテルでの業務に従事するスタッフに関して、『雇う』、『勤務』、『働いてもらいます』などと雇用契約であることを前提とするかのような文言となっているものも見受けられる(認定事実(5))。」

以上を総合考慮すれば、原告は、被告の指揮監督下において労務を提供し、労務提供の対価として報酬を得ていたものであって、原告と被告は使用従属関係にあったということができるから、本件契約は雇用契約であったと認めるのが相当である。

「被告は、〔1〕原告が、面接において、ほかのスタッフ全員が業務委託という形態で従事しているとの説明を聞き、ほかのスタッフと同様にしてほしい旨要請した、原告が雇用ではなく、源泉徴収などをしないことを絶対的な前提条件として、業務委託という形態にしてほしい旨を要請した、〔2〕本件ホテルのようないわゆるラブホテルにおいては業務委託という形式が一般的であるが、求人広告以外にツールがないことから、求人広告を見て応募してきたとしても、雇用契約が成立するものではない旨主張し、被告代表者もこれに沿う供述をする。」

「しかし、〔1〕については、そもそも、当事者が、どのような名称の契約を締結することとしたかによって、当該契約の法的性質が直ちに定まるものではなく、その契約内容を実質的に検討することが必要であることは既に説示したとおりである。」

「また、その点をさておくとしても、原告が、被告が主張するような要請をしたことを的確に裏付ける証拠はないこと、原告以外の従業員と被告との間で締結されている契約が業務委託という形態であることを裏付ける証拠もないことなどからすれば、被告代表者の供述を採用することはできず、ほかに、原告が、上記要請をしたことを認めるに足りる証拠もない。」

「〔2〕についても、契約の性質は、当事者が選択した名称によって定まるものではなく、契約内容を実質的に検討することが必要であることは既に説示したとおりである。」

「また、その点をさておくとしても、ラブホテル業界において、フロント業務等の日常業務を行う者との間で契約を締結する場合に業務委託契約という形式をとることが一般的であることを認めるべき証拠はない。」

「さらに、ラブホテル業界でフロント業務等を行う者との間では業務委託契約を締結することが一般的であり、被告でもそのような形態であったというのであれば、業務委託の形式で求人募集をするか、あるいは、求人の具体的内容の説明において、業務委託である旨を記載すれば足りるといえるが、被告はそのような募集・説明・記載をしていない。」

「以上からすれば、被告の主張を採用することはできない。」

3.ラブホテルのフロント係員の労働者性(肯定例)

 上述のとおり、裁判所は、原告の労働者性を肯定しました。

 もちろん個別のケースはよるものの、ホテルのフロント業務に従事している方は、比較的労働者性が認められやすい類型であるように思われます。

 お困りの方がおられましたら、ぜひ、一度ご相談ください。