弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務委託契約が実は労働契約であった場合、受け取った消費税は返さないといけないか?

1.業務委託契約・労働契約と消費税

 消費税は

「国内において事業者が行つた資産の譲渡等

に課税されます(消費税法4条)。

 ここで言う

「資産の譲渡等」

とは、

事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう」

とされています(消費税法2条1項8号)。

 業務委託契約に基づいて支払われる業務委託料には消費税が発生します。しかし、賃金は「事業として」行う資産の譲渡等の対価には該当しないため、消費税が発生することはありません。

No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例|国税庁

 それでは、業務委託契約に基づく業務委託料の消費税部分は、その契約が実は労働契約であった場合、返金の対象になるのでしょうか?

 このブログでも何度も触れて来ましたが、労働契約であるのか否か・労働者であるのか否かは、契約形式ではなく実体に基づいて判断されます。業務委託契約や請負契約などの形式が使われていたとしても、労働者と変わらないような働き方をしていれば、その契約は「労働契約」として理解され、働いている人は「労働者」として労働基準法をはじめとする各種労働関係法令で保護されます。

 業務委託契約に基づいて業務受託者として働いていた人が、労働者性を主張し、それが認められた時に、委託者からもらっていた消費税相当額を返さなければならなくなるのかが本日のテーマです。

 昨日ご紹介した、大阪地判令5.10.26労働判例ジャーナル143-24 ハイスタンダードほか1社事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.ハイスタンダードほか1社事件

 本件で被告になったのは、

貨物・荷物の搬入出代行業務等を目的とする株式会社(被告ハイスタンダード)と

一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社(被告Growing up)

です。

 原告になったのは、貨物・荷物の搬入出代行業務等を目的とする株式会社サンライズ(反訴被告サンライズ)の代表取締役です。

 原告の方は、

被告ハイスタンダードとの間で期間の定めのない労働契約を締結した

と主張して、未払賃金や未払退職金を請求しました。

 また 被告Grawing upとの間でも期間の定めのない労働契約を締結していたと主張し、賃金が一部しか支払われていないとして、未払賃金を請求しました。

 これに対し、被告らは、原告及び反訴被告サンライズに対し、従業員への引き抜き行為や競業先への接触、信用毀損行為を行ったと主張し、損害賠償を請求する反訴を提起しました。

 また、被告らは、

「原告と被告ハイスタンダードとの間に労働契約はなく、原告は、経営する反訴被告サンライズの職人から反旗を翻されて被告代表者に助けを求め、被告ハイスタンダードを委託者、反訴被告サンライズを受託者とする営業代行の業務委託契約を締結した」

などと述べ、そもそも原告との間では契約が成立していないと主張しましたが、この主張が通らず、原告と被告ハイスタンダードとの間で労働契約の成立が認められた場合に備え、反訴被告サンライズに支払った報酬のうち消費税部分の返還を請求しました。

 裁判所は、原告と被告ハイスタンダードとの間に労働契約が成立していると認定したうえ、次のとおり述べて、被告らの行った消費税部分の返還請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「原告と被告ハイスタンダードとの間の合意・・・は労働契約であるといえる。そして、被告ハイスタンダードは、上記労働契約に係る賃金の支払として、反訴被告サンライズの口座に報酬を支払っているものと解するのが相当である。そして、上記報酬の内訳には消費税分が計上されているが、原告と被告ハイスタンダードとの間ではかかる内訳を含む合計額としての賃金を支払う旨の合意が成立していると認められるから、上記消費税部分の支払について法律上の原因に欠けるところはない。

「したがって、原告及び反訴被告サンライズは消費税相当額の支払により法律上の原因なく利得を得たとはいえない。」

「なお、原告が本件不当利得返還請求に係る各報酬の受領時に民法704条所定の悪意の受益者であったとは認められない。そうすると、仮に上記の法律上の原因を欠くとしても、原告は利益の存する限度において不当利得の返還義務を負うところ(民法703条)、反訴被告サンライズは消費税を納付しており・・・、原告及び反訴被告サンライズに利得は存しない。

3.消費税額含めて賃金の合意/業務受託者として消費税は納税しているはず

 裁判所は、大意、

消費税額を含めた金額を賃金として支払うことが合意されていた、

受託者の側も事業者として受領した消費税の納税を行っているのであるから、返還すべき利得が存在しない、

と述べ、被告側の消費税相当額の利得を返せという請求を排斥しました。

 業務受託者や請負人が労働者性を主張する事件の処理にあたり、裁判所の判断は参考になります。