弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務委託契約の更新拒絶-雇止め法理の類推はありえるか?

1.業務委託契約と労働契約

 有期労働契約は、期間の満了により終了するのが原則です。しかし、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められない限り、使用者の側から契約の更新を拒絶することは認められていません(労働契約法19条2号参照)。

 それでは、業務委託契約の場合はどうでしょうか?

 期間の定めのある業務委託契約(準委任契約)の場合も、労働契約の場合と同様、期間の経過により契約は終了するのが原則です。

 問題は更新が予定されている業務契約について、更新の拒絶をどのように考えるのかです。

 準委任契約は、各当事者がいつでも契約を解除できるのが原則です(民法651条1項)。これと並行に、更新の拒絶は自由であると理解されるのでしょうか?

 それとも、雇止めと同様の法理により、更新拒絶権が何等かの制限を受けるとは考えられないのでしょうか? この問題を考えるにあたあり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令3.9.30労働判例ジャーナル119-60 レッキス工業事件です。

2.レッキス工業事件

 本件で被告になったのは、金属工作機械等の製造、販売、輸出入等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で業務委託契約を締結し、被告の陸上養殖関連機器や協力会社製の製品に関する海外販売支援等の業務を受託していた方です。

 本件業務委託契約の委託期間は令和元年6月1日から同年8月31日までとされていました。ただし、委託期間の最終日の1か月前までに原告及び被告のいずれからも書面による特段の意思表示のない場合、その翌日から同一条件にて3か月間更新されるものとし、その後も同様とすると定められていました。

 本件業務委託契約は1回更新されましたが、被告は二回目の更新を拒否し、令和元年11月30日をもって契約を終了させました。

 これに対し、原告は、

「本件業務委託契約は、令和元年6月1日から同年8月31日までの間を契約期間とし、同年9月1日から同年11月30日まで更新していることから、本件業務委託契約の継続更新に係る期待が客観的に存在していたといえる。」

「したがって、被告が本件業務委託契約の更新を拒絶するには、信義則上正当な事由を要するところ、そのような事情は一切存在しない。したがって、被告による更新拒絶は無効であり、本件業務委託契約は令和元年12月1日から令和2年2月末日まで更新された。」

などと主張し、更新拒絶の効力を争いました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。

(裁判所の判断)

「原告は、本件業務委託契約には、いずれからも特段の意思表示がない場合は更新する旨の定め・・・や次期委託期間の業務委託料の算定方法についての定め・・・があることから、被告が本件契約の更新を拒絶するためには信義則上正当な事由が必要である旨主張する。」

「しかし、本件業務委託契約は、委託期間満了日の1か月前までに書面による意思表示をすることによって契約を終了させることができる手続きについても定めており・・・、原告の指摘する事情があるからといって、本件業務委託契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとはいえない。したがって、原告の主張は採用することができない。

3.更新の期待に合理的な理由があれば更新拒絶に制限が課せられるのか?

 本件の結論に目新しい点はありませんが、注目されるのはその理由付けです。契約が更新されると期待することについて合理的な理由がないから、契約の更新拒絶に信義則上の制限が課せられることはないと判示しました。

 これは見方によっては、更新されると期待することについて合理的な理由があれば、更新拒絶が制限を受けることを暗喩しているようにも捉えられます。

 フリーランスの中には、労働者とまではいえないものの、委託主に対して経済的に従属して働いている方が少なくありません。こうした方々は、大抵、業務委託契約という名称の契約のもとで働いています。働く人の側が負けた論点ではありますが、本裁判例は更新拒絶に一定の制限が課せられる余地を認めたかのような含みが持たされている点で注目に値します。