弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

代理人弁護士を通じ、ハラスメントの是正や慰謝料等を請求する通知を受けて、他の従業員に「〇〇が訴えを提起してきた」などと話したことがパワハラにあたるとされた例

1.権利行使に対する報復

 残念なことではありますが、在職中の労働者が代理人弁護士を通じて勤務先に権利行使したり、訴えを提起したりすると、職場との関係が悪化することがあります。良くて現状維持であり、関係が良好になる例はあまり目にすることがありません。

 この関係の悪化は、腫れ物に触るようになる程度のことであれば、まだ許容できるのですが、中には報復的措置としか思えないハラスメントを受ける例もあります。

 こうしたハラスメントに対しては、対抗措置を講じて行く必要があります。

 それでは、どのレベルの行為から対抗措置を取って行くことが可能になるのでしょうか? 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介させて頂いている、東京地判令7.10.30労働判例ジャーナル169-32 ティーエッセンス事件です。

2.ティーエッセンス事件

 本件で被告になったのは、おにぎり等の提供を行う飲食店を経営していた株式会社です。

 原告になったのは、被告に雇用されて、シフト制のサービススタッフとして働いていた方です。シフトから排除されて労務提供の受領を拒絶されているとして未払賃金を請求するともに、パワハラを理由とする慰謝料等を請求する訴えを提起したのが本件です。

 原告が主張したハラスメントは複数ありますが、その中の一つに、代理人弁護士を通じて発出した通知書の内容を勤務先店舗の従業員に広めた行為がありました。

 具体的な原告の主張は、次のとおりです。

(原告の主張)

「E(店舗の店長 括弧内筆者)は、原告が被告に本件通知書を送付したことを職場で「原告が訴えてきた」と話し、これを聞いたH(店舗の従業員 括弧内筆者)は、本件店舗に訪れた原告に対し、『E氏はもうシフトに入れることはしないと思う』旨を話した。かかる状況は、Eが周囲の従業員に対し、被告との間でトラブルを起こした原告をもう本件店舗には復帰させないという意向が伝わるような態度で話したことを強く推認させる。原告としては、本件店舗への復帰を考え、本件通知書を被告の本社にのみ送付し、本件店舗には送付しなかったにもかかわらず、Eは、必要もなくこれを本件店舗の従業員に広めて原告の職場環境を害したのであるから、パワーハラスメントとして不法行為に当たる。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、パワーハラスメント(不法行為)の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「原告は、自身がEによりシフト勤務から排除されているのではないかと危惧し、原告訴訟代理人弁護士に対して自身の前記・・・の状況を相談し、同弁護士を通じて、令和6年7月2日付けで、本件通知書・・・をもって、被告に対し、

〔1〕本件面談におけるEの言動は原告に対して体調不良の中でも業務を行うことを強要する行為であって被告が民法715条の使用者責任を負うこと、

〔2〕本件面談後にEが原告のシフト申請に対してシフト勤務日を指定せず本件店舗で勤務させない行為を継続していることについて、被告の責めに帰すべき事由により原告の労務の提供が行えなくなったことから原告に賃金請求権が発生すること、

〔3〕本件面談においてEが正当な理由なく社会保険の加入手続を拒絶したことについても被告は使用者責任を負うこと

などを指摘し、慰謝料及び賃金として合計150万円の支払を求めるほか、原告のシフトを適切に組み直す、社会保険への加入手続をするなど本件労働契約の義務の履行を直ちに行うことなどを求める旨を通知した(なお、本件通知書は、被告の本店所在地にのみ送付され、本件店舗には送付されていなかった。)。」

「Eは、令和6年7月5日、被告が前記・・・の本件通知書の送付を受けたことに関し、被告代表取締役及び被告訴訟代理人と相談の上、被告代表取締役からの指示に基づき、原告を本件グループLINEから退会させた・・・。」

「また、Eは、同日、被告の本店所在地に送付された本件通知書の要約書面を見た後、本件店舗において、本件店舗で稼働する複数の従業員に対して、原告が訴えを提起してきた旨などの説明をした。」

「原告は、令和6年7月6日、同月15日から同月21日までの週についてシフト申請をするために本件店舗に行ったところ、本件店舗の従業員であったHに出会い、同人から、『E店長が何か訴えてきたとか何とか言ってたよ。』『だって、そしたらシフト書いたって入れなくなっちゃうよ。』などと言われたほか『いや、俺E店長から昨日別に詳しいこと聞いたわけじゃないから何とも言えないんだけど、Aさんのこと聞かれたから職場の人たちとうまくやってて、早く戻ってきて欲しいなって言ってたんですけどね。いや訴えてきたんだよって言われて戻ってこないのかなって。訴えちゃったら書いたって絶対店長入れてくれないよ?そうでしょ。せっかく楽しみにしてたのに、一応書くだけ書いておく?』などと言われた・・・。」

「原告は、Hとの上記会話の後、本件店舗に備付けのシフト申請表に記入する方法で、上記の週について4日間のシフト希望日を提示してシフト申請をしたが・・・、Eは、その後に作成した上記の週のシフト表において、原告のシフト勤務日を指定しなかった。」

(中略)

Eは、令和6年7月5日、被告の本社に送付された本件通知書の要約書面を見た後、本件店舗の複数の従業員に対して、原告が訴えを提起してきたなどと話したことが認められるが、本件全証拠を検討しても、Eが本件店舗の従業員に対して上記内容の話をする必要性があったとは認められず、かつ、話した内容も本件通知書の記載内容とは異なる内容であったものといえる。そして、前記・・・の認定事実・・・によれば、Eの話を聞いた従業員のうち、Hにおいては、原告がもう勤務シフト日の指定を受けられなくなるといった感想を抱くに至ったことが認められることからすると、Eは、原告が本件店舗には戻れないようなトラブルを起こした者との印象を与えるような態様で当該内容を話したことが推認される。これらからすると、Eによる上記行為は、本件店舗の店長として知り得た原告からの本件通知書の送付に関して、事実とは異なる不正確な内容を必要性がないにもかかわらず本件店舗の複数の従業員に伝え、原告の本件店舗での就労環境を著しく害したものであるから、違法なパワーハラスメント行為といえる。

3.不正確、不必要な喧伝行為がパワーハラスメントとされた

 報復行為をする場合ですが、ただ単にハラスメントをしても、会社が特定の従業員を虐めているようにしか見えず、組織の引き締めには繋がりません。権利行使や法的措置をとられることを防ぐためには、虐められる理由、つまり、ハラスメントを受けている従業員が権利行使や法的措置をとったことを周知する必要があります。それにより、権利行使や法的措置をとることへの委縮的効果を狙うことになります。

 そのためには、ハラスメントを受ける従業員が、それ以前に権利行使や法的措置をとったことを他の従業員に周知させておく必要があります。弁護士名での通知や法的措置をとったことの周知措置は、しばしば本格的なハラスメントの前振りとして行われます。

 本裁判所の判断は、この前振りを違法なパワーハラスメントと判示したものです。

 不必要な喧伝行為があれば足りるのか、それとも、喧伝されたことが事実とは異なる不正確な内容であることまで必要なのかという問題はありますが、裁判所の判断は、在職中の労働者を守りながら勤務先に法的措置を取って行くにあたり、実務上参考になります。