弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務委託契約で働いているエステシャン等の労働者性

1.エステシャン等の労働者性

 このブログでも何度か言及したことがありますが、私の所属している第二東京弁護士会では、厚生労働省からの委託を受けて、フリーランス・トラブル110番という相談事業を実施しています。

フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】

 この事業には私も関与していますが、ここには、エステシャン、ネイリスト、まつげエクステ店などの美容関係産業に従事している方からの相談が多数寄せられています。相談者の多くは業務委託契約を締結して仕事をしています。しかし、その契約の内容は、店側に有利で一方的なものが少なくありません。

 こうした一方的な契約に困っている人に対しては、しばしば労働者性を主張することが有効な救済方法になります。

 例えば、仕事先から契約解除を言い渡されても、労働者性が認められれば、解雇権の濫用であるとして、解除権の行使に強力な制約をかけることができます(労働契約法16条参照)。また、仕事先から高額の違約金を請求されても、賠償予定の禁止を根拠に支払を拒むことができます(労働基準法16条)。

 相談業務との関係で、エステシャン等の労働者性についての裁判例の動向を注視していたところ、近時公刊された判例集に、まつげエクステ業務の受託者に労働者性を認めた裁判例が掲載されていました。東京地判令3.7.13労働判例ジャーナル116-30 クリエーション事件です。

2.クリエーション事件

 本件で被告になったのは、美容、理容、エクステの店舗経営並びにスクールの運営等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で業務委託契約(本件契約)を締結し、まつげエクステに関わる業務に従事していた方です。令和2年2月28日、被告代表者(B)から翌日から出勤する必要がないと告げられたことなどを受け、本件契約は労働契約であると主張し、労働者としての地位の確認等を求める訴えを提起しました。

 本件では、原告と被告との間で交わされていた契約が労働契約と認められるのか否かが争点になりました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告の労働者性を肯定しました。結論としても、地位確認請求、未払賃金(業務委託料相当額)請求を認めています。

(裁判所の判断)

「本件契約については『業務委託契約書』と題する本件契約書が作成されている。しかしながら、労働契約法上、労働者とは、『使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者』(労働契約法2条1項)とされ、また、労働基準法は、同法の保護の対象となる労働者を、『事業(中略)に使用される者で、賃金を支払われる者』(労働基準法9条)と規定しているところ、これらの規定に照らせば、労働契約の性質を有するか否かの判断に当たっては、形式的な契約形式にかかわらず、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を総合的に考慮し、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価できるか否かにより判断することが相当である。」

「証拠・・・及び弁論の全趣旨・・・によれば、被告は、主にクイックまつげエクステをフランチャイズ展開する事業を営む株式会社であり、直営店舗のほか、加盟店(被告から研修を受けて証明書の発行を受け、顧客に対して施術を行う店舗)及び代理店(被告と加盟店を仲介する店舗)を通じてまつげエクステの事業を行っていたこと、原告は、令和元年8月ころから、被告の事務所の鍵及び携帯電話を交付され、α所在の事務所又はβ所在の直営店舗(サロン)において、本部長の肩書で、加盟店の管理(販促物の供給、連絡等)、事務用品の購入、広告及び販促物の作成、セミナー及び講習会のサポート並びにBの秘書業務等の業務を行っていたことが認められる。」

「そして、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、Bは被告の代表取締役であること、原告及びBと被告の代理店等が加入するLINEグループが20以上あり、原告はBとの間でLINEグループにより、被告の内部的事務、取引に係る予算及び発注、代理店その他の関係者との連絡等の業務に関するやり取りを行っていたこと、原告とBは、LINEグループでのやり取りを通じて、頻繁に業務上の報告、連絡をしていたこと、原告が業務を行うに当たってはBから具体的な指示を受けることが多くあったことが認められ、これらの事情に照らせば、Bは原告に対して業務上の指揮命令を行う関係にあったと認められる。なお、Bは、原告本人尋問において、原告に対し、自らが依頼したコピーを取ることを拒否したことを非難する旨の発言をしているところ(原告本人〔19頁〕)、かかる発言からも、Bが原告に対して指揮命令を行う関係にあったことがうかがわれる。

「また、証拠・・・によれば、原告は、休暇を取得する場合はBに報告し、Bの了承を得ていたこと・・・、Bは、令和2年1月ころから、原告に対してタイムカードに打刻するよう求めており・・・、同月28日、原告に対し、『ずいぶんまえから、タイムカードできるよえにしてくださいといいましたが、いつできるのでしょう。』、『きちんと皆んな8時間勤務で、お休みもまえもってわかるようにするために、タイムカードをかったのですが、全然いみがないです。』、『会社は早くても6時までは対応してもらいたいので今月はそのようにおねがいします。』、『タイムカードおしてください。』、『お昼とるとらないは、自由ですが、8時間はいるようにしてください。』などのメッセージを送信したこと・・・が認められる。

上記の事実によれば、原告は、Bから具体的な指示を受けて被告の業務を遂行していたと認められ、仕事の依頼や業務の指示に対する諾否の自由を有していたとは認められない。また、原告は、被告における勤務日や勤務時間について一定の拘束を受けていたというべきであり、これらの事情を考慮すれば、本件契約の性質は労働契約と認めることができる。

「これに対し、被告は、原告の勤務時間は定められておらず、原告に対してタイムカードの打刻を指示したことはない旨主張する。しかしながら、原告と被告との間で原告の勤務時間が明確に定められていなかったとしても、上記のとおり、原告は、休暇の取得等の点で制約を受けていたほか、令和2年1月頃からはタイムカードへの打刻を求められるなど、緩やかではあるが時間的拘束を受けていたということができ、また、上記のとおり、原告がBから具体的な指示を受けて被告の業務を遂行していたことも併せ考慮すれば、やはり、原告は被告から指揮命令を受けていたというべきであり、本件契約の性質が労働契約であるとの認定は左右されない。よって、被告の主張は、採用することができない。」

3.LINEメッセージと尋問での発言が根拠になった

 本件で労働者性を肯定するうえでの鍵になったのは、LINEメッセージと代表者による尋問での供述です。

 本件に限らず、LINEを仕事に活用している会社は少なくありません。このLINEメッセージの履歴は、しばしば仕事の在り方を雄弁に物語ってくれます。紛争になることが懸念される場合には、メッセージは無暗に消すべきではありませんし、適宜、テキストデータの形で保存しておくと便利だと思います。

 また、労働者性が争点となる事案においては、仕事を断ったことに対する恨みがましい供述が意味を持つことがあります。本件では意味のある法廷供述が得られていますが、供述を得る方法は尋問に限ったことではありません。録音が重要な意味を持つこともあります。普段から恨みがましいことを言われている場合には、録音して供述を固定化しておくことが考えられます。

 証拠方法についても、実体判断についても、本裁判例はエステシャン等の労働者性を考えて行くうえで参考になります。フリーランスの問題を扱う弁護士にとっては、銘記しておくべき裁判例であるように思われます。