1.退職をめぐるトラブル
昨日、
特定の従業員等に対して不名誉な退職理由を告げたことが名誉毀損に該当するとされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ
という記事を書きました。
この記事の中で、使用者が従業員に対して退職労働者の悪口を言うことが不法行為に該当し得ることをお話しました。
しかし、使用者による悪口は、必ずしも残っている従業員に対するものとは限りません。理解し難い感覚ですが、就労状況の悪さを、労働者の家族に対して通知しようとする使用者もいます。
例えば、以前紹介した東京地立川支判令6.2.9労働判例ジャーナル150-26 JYU-KEN事件では、上司が部下である原告に対し、
「原告の子に父親である原告の能力が低いことを告げることを意図した内容」
の言動をとっていたことが違法だと判示されました。
パワハラの慰謝料-「殴っていい?」「ぶち殺すぞお前。」などの暴言の慰謝料が30万円とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ
これはハラスメントとして行われたものですが、裁判で問題になる事件の中には、労働者を単に言葉で痛めつけるにとどまらず、実際に家族に通知を出すところまで振り切れてしまっている例もあります。一昨日、昨日とご紹介している、大阪地判令6.7.22労働判例ジャーナル153-40 プラウドワーク事件もこうした事例の一つです。
2.プラウドワーク事件
本件で被告になったのは、介護保険法に基づく指定居宅サービス事業等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、令和元年7月9日に被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、訪問介護員として働いていた方です。
被告を退職した後、
未払割増賃金(時間外勤務手当等、いわゆる残業代)、
年次有給休暇を取得したことによる賃金、
不当に解雇され、健康保険の資格を喪失された上に、被告代表者から誹謗中傷されて名誉を毀損されたことを理由とする損害賠償金(慰謝料)
等を請求する訴えを提起したのが本件です。
名誉毀損を理由とする慰謝料請求との関係での原告の主張は、次のとおりです。
(原告の主張)
「被告代表者(B)は、被告の従業員や原告が担当していた業務対象者に対し、D(原告の夫 括弧内筆者)がBの携帯電話を盗んだことを理由に解雇した旨の虚偽の事実を告げて、原告を誹謗中傷し、その後、原告訴訟代理人が原告及びDを誹謗中傷しないよう申し入れたにもかかわらず、原告に対して本件書面を送付し、原告を誹謗中傷し、原告の両親に対して本件書面と同内容の書面を送付し、原告の名誉を棄損し、名誉感情を侵害した。」
「Bの上記行為は、不法行為に当たり、被告の職務を行うについてされたものであるから、被告は会社法350条に基づく損害賠償責任を負う。」
これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、名誉毀損(不法行為)の成立を認めました。
(裁判所の判断)
「前提事実(6)アによると、Bは、令和4年4月2日、被告の他の従業員に対し、DがBの携帯電話を盗んだこと、これを理由にDを解雇して原告にも辞めてもらう意向であることを告知したことが認められる。DがBの携帯電話を盗んだことについて、その当時のみならず現在まで十分な根拠が示されていないから、Bの上記行為は、Dのみならず原告の名誉をも棄損する行為であり、不法行為に当たるというべきである。」
「次に、前提事実(6)キによると、Bは、同年9月1日頃、原告に対して本件書面を送付し、原告の両親に対しても同内容の書面を送付したことが認められる。本件書面の内容は、原告の就労状況を誹謗中傷し、原告の名誉感情を害するものであるから、原告に対する不法行為に当たるというべきである。」
「Bの上記の各不法行為は、その内容に照らすと、単に親族間の紛争ではなく、被告の職務としてなされたものということができるから、被告は会社法350条の責任を免れない。」
(中略)
「本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の慰謝料は10万円、弁護士費用は1万円が相当である。」
3.手紙の内容は?
判決で指摘されている「前提事実(6)キ」や「本件書面」の内容は次のとおりです。
(前提事実(6)キ)
「Bは、9月1日頃、原告に対し、別紙2の『書面』(・・・本件書面・・・)を送付した・・・。」
「また、Bは、その頃、原告の両親に対し、本件書面と同内容の書面を送付した・・・。」
(別紙2の『書面』-本件書面)
「私は貴方の事を凄く大事に思っていたし、また心配もしていました。
貴方が幸せになれる事を切に願っていました。
しかし、貴方が影でしていた事、衝撃的でした。
私の事を『アイツ自分だけ儲けとうねん』と言った事や、
会社の不利益になる様に『会社辞めた方が良いよ!』と何度も何度もスッタフに言っていた事でスタッフは嫌気がさしていました。人に言うなら自分自身が辞めれば良いのにとずっと思っていました。陰で私のことを陥れるように言っていましたね!全部聞いています。
あなたを信用して私が話していたことも誇張して責任者に全て伝えていましたね!
私は貴方から聞いたことは一切、他言した事はありません!!
父のケアーの件に関しましても貴方たち夫婦がずさんだと各関係事業所から報告を受けています。
私は貴方を信じて新しいヘルパーの同行をお願いしていましたが貴方はいつも携帯を見て適当な対応。
便をした時はどうしたら良いと貴方に尋ねると、貴方は「便をしない事を願って」と言って退室したようですがそんな申し送り、伝達ってありますか?
また訪看からは『娘さんが来ている時は口も全て綺麗にされているのに』と言っていました。
貴方は看護師が9時30分に訪問した時も電気も点けず真っ黒な部屋から『今,起きました』て感じの姿で開錠。
A夫婦の時は便まみれ、看護師は手伝って欲しい時でも『コンビニに行って来ます』と言い、いつも出掛けていたそうですね!
そんなずさんなケアーなのに
貴方は影で私の事を『アイツ自分の親やのにちゃんと見とおれへんねん』って言っていたそうですね!
いい加減にしてください!!よくもそんなことが言えましたね!!
現にA夫婦をお断りしてから父の容態が激変してかなり回復しており褥瘡も治り、父にもA夫婦をお断りしたと伝えると凄く喜び穏やな表情になってます。
関係事業所からも来なくなって良かったと口々にみんなが言われていました。
お父さん全部わかってますよって…
父はあなた達がしていたこと全て分かっています。
また貴方が退職してから第三者を使って、書類を盗んでいること
電話をかけてきて『今、一人?誰も居てない?B姉ちゃんには言わんといてや!メモはおとしたらあかんからラインで送る』その内容も全て聞いてます。
貴方はラインを消去してますが全て保存していますし郵便物も保管し貴方の声も録音しています。
その他にも人としていけないことをしていますよね!
うちの会社に来てからお給料が良くなって夫の態度が変わり今まで相手にされなかったのが相手にされるようになり調子にのって貴方は夫と結束をして
悪行の計画を立て着々と実行してましたよね!みんなから全て聞きました。
貴方はもう少し頭が良いと思っていましたが、がっかりです。
また貴方の夫は父の自宅で私の前でズボンを脱いだり、『永久脱毛しているの?』って聞き『していない』と言うと『変な意味じゃないで』と言い腕を触ってきたり、おかしくないですか?やっていること
貴方の夫は下心があり貴方に優しくなったのも何故か知らないの?
貴方がいないと私に近寄って悪行ができないから。その悪行は外の女の為なのに貴方に優しくしてくれるようになったから有頂天になり
影で何を言われてるかも知らないで・・・『綺麗な嫁が良かった』って言ってましたよ!
それに貴方は夫が隠し子居てること自分の口でベラベラと話してますよね。
みんな何て噂しているかご存知?
恥ずかしいですね。
それに貴方は仕事の文句ばかり言い楽なところばかり行こうとし、又私も貴方にはかなり優遇してきました。
少しお願いをすると、『なんぼくれる?なんぼ付けてくれる?』とお金の請求ばかり
『コンビニで物を買った事がない』と言うから私は貴方に色々してあげたと思います。
それも全部ウソだったと聞きました。
貴方は二枚舌どころではないですね!変だなって思う事も度々ありましたが
私は貴方の事。一回も悪く言った事はありません。
むしろかっばってきたし。スタッフ達も私の従姉妹なのでちやほやしていたと思います。
ほとんどのみんなは言っていました。本来、貴方はずるいのでみんなは辞めて欲しかったって言っていました。
作業所をするって言っていたのにアホや!て言っていたようですね!作業所もケアプランセンターも障害支援センターも立ち上げます!!
どちらがアホなんでしょうね?
汚い手を使い汚い事をし汚い心の持ち主のあなたは落ちるだけ!
以前、身近な人で危険な人が居てますって言われた人物。身近過ぎてまた親戚なので信じていたから当時は分からなかったけど、今全て分かりました。
バカにするのもいい加減にしてくださいね!!
貴方にやられた事が多すぎて文章にできませんが全て知ってます。
人間として最低!Hさんの前でも芝居してたよね。
全スタッフ気持ち悪いって。悪い事するならもっと計画してしないと
全部ばれてますよ。
『自分だけ儲けとうねん』貴方に言われる筋合いは全くありません。
ここまでくるのに簡単にきた訳ではないし…
生まれつき邪悪。邪念の持ち主。
因果応報の意味ご存知?
自分がした事は必ず自分に返るブーメランの如く7倍返しで・・
これから返ってくるのが楽しみですね。
これから全力で徹底的にやっていきますので…
※代理人をたてていますので、E家族一同とこちらの関係者に一切の連絡や接触などをした場合は法的措置をとります。」
労働者とその両親は別の人格であり、就労状況がどうだろうが関係がありません。一方的な認識をぶつけられるのは両親にとって迷惑であるだけではなく、労働者との関係でも不法行為を構成する場合が多いのではないかと思います。
同種事件に取り組むにあたり、裁判所の判断は、実務上参考になります。