弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

定年後再雇用嘱託職員に年末年始休暇・夏季休暇を付与しないことが違法とされた例

1.正規・非正規職員の労働条件格差

 労働契約法20条に、

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において『職務の内容』という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

という規定がありました。

 一般の方には読みにくい条文ですが、要するに、有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件に不合理な格差を設けてはならないとする規定です。

 現在、この規定は廃止され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)という名前の法律の第8条、第9条に規定し直されています。ただ、廃止されているとはいっても、旧労働契約法20条に関する裁判例は、パートタイム・有期雇用労働法の解釈の指針として参考にされています。

 この旧労働契約法20条との関係で、近時公刊された判例集に、定年後再雇用嘱託職員に対し年末年始休暇や夏季休暇を与えないことが違法だと判示された裁判例が、近似公刊された判例集に掲載されていました。宇都宮地判令5.2.8労働判例1298-5 社会福祉法人紫雲会寺家です。

2.社会福祉法人紫雲会事件

 本件で被告になったのは、障害者支援施設を経営する社会福祉法人です。

 原告になったのは、被告との間で無期労働契約を締結した後、定年まで働き、その後は、有期の嘱託契約を締結して働いていた方です。正規職員と不合理な労働条件格差があるなどとして、損害賠償の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では様々な労働条件の格差が争点になりましたが、その中の一つに、定年後再雇用嘱託職員に年末年始休暇・夏季休暇を付与しないことの適否がありました。

 裁判所は、

「正規職員及び嘱託職員は、職務内容及び変更範囲に関し、中核的業務に本質的な相違はない」

としたうえ、次のとおり述べて、定年後再雇用嘱託職員に年末休暇・夏季休暇を一切付与しないことは違法だと判示しました。

(裁判所の判断)

「年末年始休暇及び夏期休暇は、所定休日や年次有給休暇とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、労働者が心身の回復を図る目的とともに、年越し行事や祖先を祀るお盆の行事等に合わせて帰省するなどの国民的な習慣や意識などを背景に、多くの労働者が休日として過ごす時期であることを考慮して付与されるものであると解される。」

「このような休暇の趣旨は、正規職員にも嘱託職員にも等しく当てはまるものであることからすると、嘱託職員に対しその時期や日数を問わず一切付与しないことは、不合理というべきである。」

「また、正規職員について、嘱託職員にはない突発的な呼出し等が要求されるとの事情があるとしても、被告における所定休日や1日の所定労働時間は正規職員と嘱託職員とで基本的に差異がなく、原告が嘱託職員として勤務していた間のほとんどの時期において、原告も正規職員と同様に夜勤のシフトにも入っていたこと、正規職員と嘱託職員の中核的業務に本質的な差異がないことなどを考慮すると、正規職員のみに年末年始休暇及び夏期休暇を付与することの不合理性を否定する事情とまでは認められない。」
「よって、有期契約労働者である嘱託職員に対し年末年始休暇及び夏期休暇を付与しないことは、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるというべきであるから、同条に反し、不法小売が知っている。」

労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるというべきであるから、同条に違反し、不法行為が成立する。

3.旧労働契約法20条の適否をめぐる裁判例群に一例を加えた事案。

 上述のとおり、裁判所は、年末年始休暇・夏季休暇を一切不付与しないことは違法だと判示しました。旧労働契約法20条の適否を問題とする裁判例は少なくありませんが、そうした裁判例群に一例を加えるものとして位置付けられます。