弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

リストラ代行と非弁行為

1.非弁行為の禁止

 弁護士法72条本文は、

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

と規定しています。

 ここでいう「法律事件」の理解に関しては、

「多数の賃借人が存在する・・・ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務」

について、

「交渉において解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らか」

であるとして、

「その他一般の法律事件」

に該当すると述べた最高裁の判例があります(最一小判平22.7.20刑集64-5-793参照)。

 また、「法律事務」の理解に関しては、

「法律上の効果を発生変更する事項の処理を指す」

と判示した裁判例があります(東京高裁昭39.9.29判例タイムズ168-193参照)。

 非弁行為は「二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」という法定刑が定められた犯罪ともされています(弁護士法77条3号)。

2.リストラ代行は非弁行為にならないのか?

 労働者側で解雇に関連する事件を処理していると、弁護士でないのに退職に向けた交渉を代行している会社なり人なりを目にすることがあります。

 退職勧奨や解雇に関する話は、交渉において解決しなければならない法的紛議が生じる可能性が高く、普通に考えれば「法律事件」に該当するように思われます。

 また、合意退職にしても解雇にしても、労働契約上の法律関係を解消させるという意味において、法律上の効果を発生変更する事項の処理以外の何物でもなく、リストラの代行は「法律事務」に該当するように見えます。

 こうしたリストラ代行行為は、非弁行為の禁止に触れないのでしょうか?

 このことが問題になった裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令2.3.26労働判例ジャーナル103-96カシマ事件です。

3.カシマ事件

 本件で被告になったのは、会社とその常務取締役、監査役の三名です。

 被告会社は、建具及びパネル製造販売、印刷加工の業務、コンピュータグラフィック画像の企画等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告会社との間で有期労働契約を締結し、グラフィックデザイナーとして業務に従事していた方です。

 中心的な紛争になったのは、解雇の適否であり、原告は、被告らに対し、無効な解雇をしたことなどを理由に損害賠償を請求する訴訟を提起しました。

 そして、原告が構成した不法行為の中に、コンサルティング会社に解雇通知等をさせたことが弁護士法72条違反にあたるとの主張がありました。

 具体的な主張は、次のとおりです。

(原告の主張)

被告会社が平成29年1月18日及び同月19日に原告に対して退職勧奨するなど原告と被告会社との間には本件労働契約に関する紛争が生じていたところ、訴外会社(コンサルティング会社 括弧内筆者)は被告会社から原告の解雇に係る交渉の委託を受けるなどしたものであり、弁護士法72条に違反する。また、訴外会社の当時の取締役であったi(以下『i』という。)は、同年2月22日、原告に対し、退職勧奨をした際、顧問弁護士や社労士に相談している旨の虚偽の事実を述べた上、解雇理由として『健康状態が通常業務に著しく支障を来す』、『業務遂行能力の低さ』、『デザインスピードが遅い』などと述べて原告の名誉を棄損した。」

「被告会社が訴外会社に対して原告の解雇に係る交渉を委託した行為は、訴外会社及びiの上記違法な行為の教唆又は幇助というべきであるから、不法行為が成立する。」

「また、被告c及び被告dは、被告会社の役員として被告会社の上記違法行為が行われないようにすべき義務に違反したものであり、会社法429条1項により損害賠償責任を負う。」

 これに対し、被告らは、次のとおり述べて弁護士法違反を争いました。

(被告の主張)

被告会社は、原告に対して退職勧奨をするに際してiに立会いを求め、iは単に解雇通知書を読み上げてその説明を行ったのみであるから、弁護士法72条の『法律事務』に当たらないし、被告会社は、訴外会社に対して上記立会いに係る報酬も支払っていないから、訴外会社の行為が弁護士法72条に反するものではない。また、原告に何ら損害は生じていない。」

 こうした当事者の主張を受け、裁判所は次のとおり判示し、弁護士法違反に係る原告の主張を排斥しました(ただし、解雇無効は認め、損害賠償請求は一部認容しています)。

(裁判所の判断)

「被告会社は、被告会社の労務管理等に関する助言を委託していた訴外会社に所属するiに対し、原告に解雇すること及びその理由を説明することなどを依頼し、iは、平成29年2月22日、被告会社の代表者、被告d、被告cと原告との面談に同席し、原告に対し、試用期間満了により本件労働契約が終了する旨、その理由が遅刻が6回あるなどの原告の健康状態や同月6日にA1パネル1枚分のデザイン業務の指示を断ったことなどである旨説明し、自己都合退職をするのであれば賃金3か月分を支払う旨など述べたことが認められる。」

(中略)

訴外会社に所属するiが原告に対して解雇理由を告げるなどしたが、そもそも訴外会社又はiがこれに関して報酬を得たと認めるに足りる証拠はなく、訴外会社又はiの上記行為が直ちに弁護士法72条に反するとは認め難い。また、仮に訴外会社又はiの行為が弁護士法72条に反するとしても、当該行為自体によって原告の権利又は利益が侵害されたということはできないから、原告に対する不法行為を構成するとはいえない。

4.結論として不法行為該当性は否定されたが・・・

 上述のとおり、裁判所は「報酬」要件との関係で非弁行為への該当性を否定しました。しかし、慈善事業で解雇理由や退職に係る交渉をする会社が存在するとは考えにくく、単に「報酬」に係る証拠がないことをもって非弁行為への該当性を否定した判断には疑問が残ります。

 「仮に」と予備的な判断をして批判に備えるくらいであれば、端的に非弁行為には該当することを認めたうえ、損害要件との関係で不法行為への該当性を否定した方が筋論としては正当であるように思われます。

 リストラ代行会社の行為には疑問に感じることも多く、機会があれば私自身も問題提起してみたいと思っています。