弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

制服への更衣時間に労働時間性が認められた例

1.更衣時間の労働時間性

 制服や作業服への更衣時間の労働時間該当性については、一般に、次のとおり理解されています。

「労働者が就業を命じられた業務を行う前段階の・・・作業服・作業靴への着替え・履替えなどの業務の準備行為は、労務提供そのものではなく、労務提供の準備行為であるから、基本的にはそれが使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるものでない限り労働時間と解することはできない。」(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕155頁参照)

 つまり、

原則的には労働時間には該当しない、

例外的に、それが使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる場合に限り、労働時間に該当する、

ということです。

 制服への更衣時間は、業務との結びついているイメージを持ちやすいからか、法律相談に来る方の中には、当然、労働時間として認められるはずだと考えている方が少なくありません。

 確かに、更衣時間に労働時間性を認めた公表裁判例は相当数あります。しかし、原則的に労働時間に該当しないとされていることとの関係で、労働時間性が否定されている公表裁判例も相当数あります。要するに、更衣時間の労働時間性の立証のハードルを乗り越えることは、それほど簡単ではありません。

 このような状況の中、近時公刊された判例集に、制服への更衣時間の労働時間性が認められた裁判例が掲載されていました。神戸地判令5.12.22労働経済判例速報2546-16 労働判例ジャーナル147-28 日本郵便事件です。

2.日本郵便事件

 本件で被告になったのは、郵便業務等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の従業員複数名です。被告から着用を義務付けられていた制服の更衣に要する時間が労働基準法樹の労働時間であるとして、割増賃金相当額の支払を求めて提訴したのが本件です。

 本件では更衣時間の労働時間性が争点になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、これを肯定しました。

(裁判所の判断)

「被告では、正社員に適用される『社員就業規則』において、『社員は、制服を貸与され、又は使用することとされている場合には、特に許可があったときを除き、勤務中これを着用しなければならない。』と定められている(36条)ところ、期間雇用社員、アソシエイト社員及び高齢再雇用社員に適用される就業規則でも当該定めが準用されている。」

(中略)

原告従業員らについては、被告での就業に当たって制服を着用することが、就業規則上も、勤務実態としても、義務付けられていたことが認められる。

「次に、制服の更衣を各郵便局内の更衣室で行うべきことが被告によって義務付けられていたかについて検討を加える。」

(中略)

「P5郵便局、P6郵便局、P7郵便局、P8郵便局、P9郵便局、P10郵便局、P11郵便局、P12郵便局、P13郵便局及びP14郵便局には、いずれも更衣室が設置されている(乙5、弁論の全趣旨)。そして、上記・・・のとおり、このうち、P5郵便局、P7郵便局、P8郵便局、P9郵便局、P10郵便局、P11郵便局、P12郵便局及びP13郵便局においては、制服を着用して通勤していることが確認できるのは、調査対象者のうちのごく一部であり、これらの郵便局においては、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っているのが実態であるということができる。」

「また、被告が作成した『郵便業務のコンプライアンス指導教材(2016年1月期〔1〕)』・・・には、『2016年1月1日(金)~31日(日)の間に、対象者(=郵便業務を担当する部署に所属する社員及び総務部に所属し郵便業務に携わる社員)全員に対し、本研修教材を用いて指導してください。』との記載とともに、『勤務時間外のユニフォーム着用・ユニフォーム通勤の禁止』、『お客さまから見た「ユニフォームを着用している社員」は「勤務時間中である」と認識され、ユニフォームを着用したままの飲食店での飲酒等は会社のイメージ低下に繋がるため、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止』、『ユニフォームに郵便物・現金等を隠して事務室から持ち出し、窃取等する犯罪を防止するため、ユニフォーム通勤の禁止』との記載があるところ、これらの記載は、被告として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたということを窺わせるものである。」

「さらに、上記・・・の会計事務マニュアルにおいても、平成29年5月付けで改訂される前の会計事務マニュアルには、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止が明示的に記載され、同月付けの改訂後においても、これを基本的には控えさせる旨が記載されているのであり、このような記載も、被告として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるものといえる。」

「他方、P5郵便局、P6郵便局、P7郵便局、P8郵便局、P9郵便局、P10郵便局、P11郵便局、P12郵便局、P13郵便局及びP14郵便局のそれぞれにおいて、ユニフォームを着用しての通勤が許されている旨が被告から各従業員に対して告知されたことはこれまでないことが認められる・・・。」

以上のとおり、被告がユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせる被告作成の資料があるほか、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っていたという実態がある一方で、被告からユニフォームを着用しての通勤が許される旨の告知がされたことはないのであるから、被告は、P5郵便局、P6郵便局、P7郵便局、P8郵便局、P9郵便局、P10郵便局、P11郵便局、P12郵便局、P13郵便局及びP14郵便局の各郵便局内の更衣室において、制服を更衣するよう義務付けていたものと認めるのが相当である(なお、上記イのとおり、P6郵便局においては制服通勤をしている従業員が多数存在しており、また、P14郵便局においては制服通勤の実態についての上記イに係る調査が実施されていないものであるが、P6郵便局及びP14郵便局において、制服通勤について、同じP4支社内の他の郵便局と異なる命令等がされていたというべき事情は認められないから、P6郵便局及びP14郵便局においても、上記のとおり、郵便局内の更衣室で制服を更衣するよう義務付けされていたものというべきである。)。」

(中略)

「したがって、被告は、原告従業員らに対し、制服の更衣を各郵便局内の更衣室で行うべきよう義務付けていたものと認められる。」

「以上によれば、原告従業員らは、被告から、制服を着用するよう義務付けられ、かつ、その更衣を事業所である各郵便局内の更衣室において行うものと義務付けられていたのであるから、制服の更衣に係る行為は、被告の指揮監督命令下に置かれたものと評価することができる。

「したがって、更衣に要する時間は、労働時間に該当すると認めるのが相当である。」

3.結構高いハードル

 以上のとおり、本件では制服への更衣時間に労働時間性が認められました。

 しかし、裁判所が言及している

制服を着用するように義務付けられていたこと、

かつ、

更衣を事業所の更衣室において行うものと義務付けられていたこと、

という立証のハードルは、それなりに高いように思われます。

 本件は、更衣時間の労働時間性について、立証のハードルを乗り越えることができた事案として、実務上参考になります。