弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

休職者給付は給与なのか?

1.公務員に支給される求職者給付

 国家公務員が公務上の負傷・疾病で休職を命じられた場合、休職期間中の給与は全額が支給されます(一般職の職員の給与に関する法律23条1項)。

 他方、公務外の負傷・疾病により休職命令を受けたときは、1年を限度として俸給等の100分の80が支給されます(一般職の職員の給与に関する法律23条3項)。

 公務上の負傷・疾病なのかどうかに見解の相違がある場合、当面の措置としては俸給等の100分の80の支給を受けることになります。その後、法的措置により、負傷・疾病の公務起因性が認められた場合、100分の20の部分など公務上の負傷・疾病であれば支払われていたはずの給与が遡って支払われることになります。多くの地方公共団体が条例で同様の仕組みを採用しているため、こうした取扱いは地方公務員にも基本的に妥当します。

 それでは、公務外扱いされていた休職が、公務上の負傷・疾病に基づく休職であるとされた場合に支払われる不足額分(休職者給付)は、いわゆる「給与」なのでしょうか?

 給与であるとすれば、

「俸給は、毎月一回、その月の十五日以後の日のうち人事院規則で定める日に、その月の月額の全額を支給する」

と規定する一般職の職員の給与に関する法律9条本文の定めに従い、各給与の支払期から遅延損害金が発生することになります。

 他方、給与ではないとすれば、公務上の負傷・疾病であることが認定された後、公務員の方の請求に基づいて支払えば、遅延損害金の支払いまでは要しないことになります。

 これは一見すると重箱の隅をつつくような問題のように思われるかも知れません。しかし、公務上/外が不明であるときに法的措置をとって白黒つけようと思うと、数年単位の時間がかかることも珍しくありません。そのため、遅延損害金といっても、馬鹿に出来ない金額になるのです。

 この問題を考えるにあたって参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪高判令4.4.15労働判例ジャーナル127-24 京都府事件です。

2.京都府事件

 本件で被告・被控訴人になったのは、京都府です。

 原告・控訴人になったのは、京都府職員の方です。鬱病により平成26年11月22日から平成29年3月31日まで休職とされ、その間、公務外の傷病による休職として、最初の1年間は給与の100分の支給を受けていました。

 その一方、原告・控訴人は、鬱病が公務におり生じたものであるとして、地方公務員災害補償基金に対し、認定請求を行いました。これを受けた地方公務員災害補償基金は、被告・被控訴人の鬱病を酌公務上の災害と認定し、差額精算(休職者給付の精算)を行いました。

 このような経緯のもと、本件では、休職者給付が給与に該当するのかが問題になりました。

 裁判所は、次のとおり述べて、休職者給付は給与に該当すると判示し、被告に対し原告に145万7101円を支払うよう命じました。

(裁判所の判断)

・本件条例2条1項の『給与』について

「地方公務員の『給与』(地方公務員法24条、25条)とは、地方公務員の勤務の対価として地方公共団体から支給される金銭その他一切の有価物をいうと解され、給料のほか各種手当が給与に該当する。」

「地方公務員の給与は、条例で定めることとされ(同法24条5項)、被控訴人においては、昭和26年条例4条2項により、休職者の給与は別に条例で定めるとされ、本件条例2条1項において、職員が、公務上の疾病等により休職にされたときは、その休職の期間中、『給与の全額』を支給する旨規定された。したがって、ここにいう『給与』は、地方公務員法上における『給与』と同義に解すべきである。そして、同条項は『給与の全額』を支給するとのみ定めたものであるから、文理上、ここにいう『給与』は、給料及び各種手当を指すものと解すべきであり、労働基準法11条にいう『賃金』と同意義であると考えられる。」

「このことは、本件条例2条2項ないし5項において、職員が公務上の疾病等以外の事由(結核性疾患、それ以外の心身の故障等)により休職にされた場合について、支給割合及び種目に一定の制限がありつつも、給料及び各種手当を支給する旨定められていること(乙1)や、本件支給について、被控訴人から控訴人に交付された給与支給明細書において、支払項目が、給料及び各種手当と記載されていることとも整合するものといえる。」

・国家公務員に関する給与法の解釈について
「本件条例2条1項は、職員の勤務条件について国の職員との間に権衡を失しないように配慮された結果(地方公務員法24条4項参照)、国家公務員に関する給与法23条1項と同様の定めがされたものと解される。本件条例2条1項の解釈に当たっては、国家公務員に労働基準法の適用がないのに対し、地方公務員には同法の相当部分の適用がある(地方公務員法58条3項)等の両者の違いに留意しつつ、給与法23条の解釈も参考とされるべきである。」

「そこで、給与法23条の解釈についてみると、同条については見出しに(休職者の給与)との記載があるが、予算便宜上はともかく、給与法上、『休職給』というような特別の給与種目があるわけではなく、休職者に支給される給与は、一般の職員(国家公務員)に支給される俸給その他の給与(給与法5条1項参照)と同じものであり、その支給定日、支給方法等については、それぞれの給与種目について定められている規定がそのまま適用されると解されている(甲18、乙4)。地方公務員の給与制度は、国家公務員の給与制度に準ずることが基本とされているところ、被控訴人において、本件条例2条1項に基づく休職者給付につき、上記と異なり、法令上、特別の給与種目があるとは認められず、被控訴人からそのような主張もされていない。本件条例2条1項の文言は、給与法23条1項と同じであり、休職者給付の支給定日、支給方法等について別段の定めがない点も給与法と同様であることからすると、本件条例2条1項に基づく休職者給付についても、他の一般の職員(京都府職員)に支給される給料及び各種手当と同じもの、すなわち賃金であると解するのが相当というべきである。」

・ノーワーク・ノーペイの原則について

「被控訴人は、本件条例2条1項の趣旨は、公務上の疾病等により休職にされた職員について、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金請求権は発生しないものの、当該職員を保護するため被控訴人が特別に給与相当額の支払をすることにしたにすぎず、その法的性質は賃金とは異なる旨主張する。」

「本件条例2条1項が、ノーワーク・ノーペイを原則としつつ、休職者が職員としての身分を継続保有することから、その生活上の配慮の必要性を考慮して休職者給付を認めたものであるということはできるが、その方法として、休職者給付について、特別の給与種目を別に設けるか、一般の職員に支給される給料及び各種手当と同じ賃金を支給することとするかは立法上の問題であって、本件条例2条1項は、公務員としての身分保障を十全なものとするべく、後者の方法をとったものと解することができる。」

「また、職員が公務上の疾病等により休職にされたときについてみると、一般に、労働者の就労不能の原因となった傷病が『業務上』のものというだけでは民法536条2項の『債権者の責めに帰すべき事由』による履行不能とはいえないものの、業務上の傷病が使用者の安全配慮義務違反等の過失により生じたと認められる場合には『債権者の責めに帰すべき事由』によるものといえ、労働者が賃金請求権を失わないと解されていることをも考えれば、ノーワーク・ノーペイを原則としつつも、職員が公務上の疾病等により休職にされたときには賃金の全額を支払うとの立法判断をすることが不合理とはいえない。」

「したがって、ノーワーク・ノーペイの原則があるからといって、本件条例2条1項に基づく休職者給付が賃金でないとの結論が導かれるものとは認められない。」

以によれば、本件条例2条1項に定められた休職者給付である「給与」とは、一般の職員に支給される給料及び各種手当と同じ賃金を意味するものと解するのが相当である。

(中略)

以上によれば、本件条例2条1項に定められた休職者給付である『給与』とは、一般の職員に支給される給料及び各種手当と同じ賃金を意味するものと解するのが相当である。

3.休職者給付は賃金(給与)

 上述したとおり、裁判所は、休職者給付の法的性質を賃金(給与)であると認定し、被告に対して差額の支払いを命じました。

 冒頭で述べたとおり、公務上の負傷・疾病であることの認定には相当な期間が必要になることが少なくありません。公務災害関係の事件を扱う弁護士にとって、本件は重要な裁判例として位置付けられます。