弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

同性パートナーは「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とはいえないとされた例

1.同性パートナーシップ制度

 現在、法律婚は異性婚のみとされていますが、地方自治体レベルでは「同性パートナーシップ制度」の普及がみられます。

 「同性パートナーシップ制度」とは「各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め証明書を発行する制度」を言い、300を超える自治体で導入されています。

パートナーシップ宣誓制度 | 日本LGBTサポート協会

 それでは、この同性パートナーシップ制度によりパートナーと認められた方は、自治体の給与条例上、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と扱ってもらうことはできないのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を取り扱った裁判例が掲載されていました。札幌地判令5.9.11労働経済判例速報2536-20 北海道(同性パートナーの扶養認定不可)事件

2.北海道(同性パートナーの扶養認定不可)事件

 本件で原告になったのは、北海道の職員の方です。札幌市パートナーシップ宣誓制度に基づく宣誓を行い、Aとの同居生活を開始しました。これを理由にAの生活保護は廃止されたところ、原告は、

寒冷地手当について「世帯主(扶養親族あり)」への世帯等の区分の変更の届出を、

扶養手当について扶養親族等の届出を

行いました。

 給与条例上、扶養手当の対象となる「扶養親族」としての配偶者は、

「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)」

と定義されていました。

 同性パートナーは「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に含まれてもおかしくなさそうにも思えますが、北海道や地方職員共済組合は、Aを扶養親族とは認めませんでした。これを受けて、北海道や地方職員共済組合を被告といて、慰謝料や扶養手当、差額寒冷地手当等の支払いを求める訴えを提起しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「給与条例は、扶養手当については、扶養親族のある職員に対し、扶養親族の人数に応じた額を支給することとし、寒冷地手当については、支給対象職員に対して、地域や職員の世帯等の区分(扶養親族のある職員か否かで区分が異なる)に応じた額を支給することとし、その『扶養親族』につき、同条例9条2項1号において『配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)』と定めている。また、共済組合法は、国民健康保険法上の被保険者から除外される『被扶養者』について、『組合員の配偶者』を規定し、同『配偶者』には、『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。』と定めている。」

給与条例や共済組合法は、『配偶者』、『婚姻関係』等について別段の定めを置いていないことから、これらの規定は一般法である民法上の婚姻に関する概念を前提として定められているものと考えられるところ、民法上の婚姻に関する概念を前提とすると、本件各規定は、法律上の婚姻関係と同視し得る関係を有しながら婚姻の届出をしていない者を、『配偶者』と同視し得る者として『扶養親族』ないし『被扶養者』に該当することとするものであって、すなわち、婚姻の届出をできる関係であることが前提となっていると解するのが自然である。

そして、現行の民法において定められている『婚姻』は異性間に限られると解されるところ、給与条例や共済組合法において、民法とは異なって同性間の関係を含むとする明確な規定は見当たらない。

そうすると、本件各規定における『事実上婚姻関係と同様の事情にある者』には、民法上婚姻の届出をすること自体が想定されていない同性間の関係は含まれないと解することは、現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈ということができる。

「原告は、本件各規定の『事実上婚姻関係と同様の事情にある者』とは内縁と同様の関係にある者と考えられるところ、内縁が保護されるためには、①婚姻意思と②夫婦共同生活の実体があることが必要とされるが、同性間の関係であってもこれらの要件を満たす場合があり、その場合、扶養手当の支給及び寒冷地手当の増額支給の目的や、共済組合法の被扶養者に適切な給付を保障する趣旨等は、同性間の関係であっても当てはまるから、被告らは、憲法14条1項の平等原則によって、本件各規定の『事実上婚姻関係と同様の事情にある者』には同性間の関係を含むと解釈すべき職務上の法的義務を負っている旨主張する。」

「この点、原告も指摘するとおり、昨今、同性間の関係に対する法的保障や性的指向・性自認に対する差別禁止に関する社会的な理解が広がってきており、これを踏まえ、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について、立法論を含めて様々な議論がされるに至っているのであって、これらの議論を踏まえ、特に給与条例のような地方公共団体による条例に関して、一部の地方公共団体において、本件各規定と同様の規定ぶりであっても同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることが認められる。」

「しかしながら、本件各規定は、原告主張のような『内縁関係』を要件とするものではなく、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を『配偶者』と同視し得る者として『扶養親族』ないし『被扶養者』に該当することとするものであって、前述のとおり、本件各規定における『事実上婚姻関係と同様の事情にある者』に同性間の関係も含まれないと解するのが現行民法の定める婚姻法秩序と整合する一般的な解釈であり、また、扶養手当の支給及び寒冷地手当の増額支給の目的や、共済組合法の被扶養者に適切な給付を保障する趣旨等が、同性間の関係であっても当てはまる場合があるとしても、扶養手当の支給や寒冷地手当の増額支給が公的財源によって賄われ、また、共済組合法の各種給付も同様に公的財源を基盤としていること・・・からすると、婚姻制度や同性間の関係に対する権利保障の在り方等について様々な議論がされている状況であることや、一部の地方公共団体において、本件各規定と同様の規定ぶりであっても同性間の関係を含み得るとして、柔軟な解釈や運用を試みる例があることを踏まえても、本件各規定における「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性間の関係を含むと解釈しなければならないという職務上の注意義務を個別の公務員に課すことはできないというべきである。」

3.Aの生活保護を外す一方、原告に扶養手当を出さないのは二枚舌ではないのか?

 以上のとおり、裁判所は、同性パートナーを「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と認めませんでした。

 しかし、原告からの扶養を当て込んでAの生活保護を廃止しておきながら、原告に扶養手当等を出さないというのは背理ではないかと思います。自治体においてパートナーシップ宣誓制度が設けられてることも考えると、法律の解釈はともかく、給与条例の理解としては、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性婚の関係にある者が含まれると理解されても良さそうな気がします。

 本裁判例は、同性パートナーシップ制度だけでは救われない事例があることを示したもので、同性婚の必要性を基礎づける立法事実を構成しているといえます。