弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

経営者がSNSで労働者を揶揄する動画を公開することが不法行為を構成するとされた例

1.経営者による不適切なSNSの利用

 近時、従業員による不適切なSNSの利用が会社に損害を生じさせる事例が目立つようになっています。従業員のSNSの利用をどのようにコントロールするのかは、既に労務管理上の重要な問題として認知されています。

 しかし、SNSの不適切な利用は、何も労働者側に限ったことではありません。SNSへの不適切な投稿は、経営者自身によって行われることもあります。

 近時公刊された判例集にも、経営者による不適切な動画投稿の違法性が問題になった裁判例が掲載されていました。大阪地判令5.10.3労働判例ジャーナル143-36 Isono事件です。

2.Isono事件

 本件で被告になったのは、

内装工事等を行う株式会社(被告会社)と、

その代表取締役(被告B)

です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、内相作業員として働いていた方です。

未払賃金、

預託金、

被告Bによりアップロードされた動画の削除、

動画の違法はアップロードにり生じた損害の賠償

などを求めて被告を提訴したのが本件です。

 裁判所は、次のとおり述べて、被告Bによる動画の公開行為に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告Bは、被告会社の代表者として、TikTokに被告会社のアカウントを開設した。同アカウントの説明文には、職場の裏側をメイキング投稿しておりますとの記載があった。同アカウントには令和4年8月当時約85万7000人のフォロワーがいた。・・・」

「別紙動画目録1記載の動画(以下『本件動画1』といい、その他もこの例により略記する。)は、令和△年△月△日にTikTokに投稿された約40秒の動画であって、その概要は、被告Bが原告に対し『お前、言わなあかんことあるやろ』と切り出し、原告が被告会社提供の住宅のガス契約に関し、500円分のクオカードが当たるキャンペーンに応募していたことを説明すると、被告Bが原告に対し『お前の誠意を俺に伝えてくれ』と告げ、『よーっ』との掛け声を発した後に、原告が『どうもすいませんでした』と述べ、両手を交互に上げ下げし、少し踊っているようにも見える動作をし、被告Bが笑い転げるというものであった。この動画では、顔文字を用いて原告の顔貌を隠す画像加工がされているが、ところどころ画像加工が外されている場面があり、その際には帽子とマスクをつけた原告の横顔が見える状態となっている。」

「本件動画2は、令和△年△月△△日にTikTokに投稿された約37秒の動画であって、その概要は、被告Bが、数個の紙袋を持って被告会社の事務室に入り、『Aくんに飛ばれたから、さすがにお手上げ』と述べながら、従業員に対し、犬が前脚を上げた写真が印刷されている紙袋(高級食パン専門店のもの)を見せ、従業員と笑いあうというものであった。この動画の字幕では『○●●くん』と表記されているが、音声には加工がされておらず、原告の下の名前が聞き取れる状態であった。」

「本件動画3は、令和△年△月△△日にTikTokに投稿された約55秒の動画であって、その概要は、被告Bが、被告会社の応接セットで警察官2名と応答し、警察官に対し、『お金よりも人としての道を教えたい。』、『刑務所に入っといで』などと述べ、字幕で『被害届けを』『出す?』『出さない?』などと表示したものであった。」

「本件動画4は、令和△年△月△△日にTikTokに投稿された約1分12秒の動画であって、その概要は、〔1〕被告Bが、被告会社の応接セットで、被告会社の男性従業員3名に対し、『箝口令敷いてずっと黙ってたけどホモやねん』と切り出し、〔2〕ある従業員が『俺の顔ばっかり見ている』と述べたのに対し、被告Bが『見とれとってん』と返答し、〔3〕被告Bは原告が他の従業員の陰茎をずっと触っていたと述べ、〔4〕別の従業員は原告がその従業員のおしりを触っていたと述べ、〔5〕さらに別の従業員は『自分が目を離したすきに原告が自分の飲みかけのペットボトルのお茶を飲んでいた』と述べ、〔6〕最後に、被告Bが原告に対して『俺を好きになったときには半殺しにすんぞ』『間違えても俺に惚れんなよ』と説明していたことを述べるものであった。本件動画4には、画像編集で原告の顔貌(マスクを着用しているものと着用していないもののいずれも)が短時間挟み込まれていたほか、本件動画2で撮影された犬の写真が印刷された紙袋も応接セットのテーブル上に置かれていた。」

「本件動画5は、令和△年△月△△日にTikTokに投稿された約17秒の動画であって、その概要は、〔1〕『皆様 ご協力ありがとうございます引き続き、お願い申し上げます。』、『会社の備品を持っていなくなりました。』という字幕を原告の顔写真とともに表示し、〔2〕『右腕にタトゥー 情報お願いします』という字幕を原告の右半身の半裸写真とともに表示し、〔3〕『背中に筋彫り 情報お願いします』という字幕を原告の後ろ向きの半裸写真とともに表示し、〔4〕『これ以上被害者を増やさないためにも』『引き続きコメントをお願いします。』との字幕とともに原告の上半身を写した写真や顔写真を複数枚表示しているものであった。本件動画5には『前々回のお巡りさんはそういうこと』、『やりそうな人ですね。探します。』、『めっちゃそっくりの人間がうちの会社の営業携帯持ったまま飛んだんですよ』など22件のコメントが投稿され、被告Bは、これらの投稿の一つに対し、『Aです。』と返信した。また、ツイッターでは、同月△△日に、原告・被告らとは異なる第三者によって、本件動画5を貼り付けて、他の被害者出さないためにも早く見つけないとなどとする投稿もされている。(甲7、10、11、弁論の全趣旨)
(7)本件動画6は、令和△年△月△△日にTikTokに投稿された約38秒の動画であって、その概要は、被告Bが、被告会社の従業員とともに訪れた飲食店において、黒い額縁に入れた原告の写真に向かい、『A、乾杯』と言いながら、従業員とともに乾杯をし、その後同額縁を抱えながらカラオケで歌うなどしているものであった(甲8)。
(8)本件動画7は、令和△年△月△日にTikTokに投稿された約24秒の動画であって、その概要は、被告Bが『嘘つきが治りますように』と言いながら原告の背中に油性ペンで落書きをし、さらに『ちょまって、乳毛プラスしよう』と言いながら、原告の胸部に油性ペンを落書きをした後、原告に対し『お前、乳首もう立ってるやろ』、『感じとんか』、『立ってるやん』と述べ、最後に『いつの日か虚言癖が治ります様に』との字幕が表示されているものであった(甲9)。
(9)TikTokの運営会社は、遅くとも令和4年11月22日までに、被告会社のアカウントを停止したことから、本件各動画はインターネット上では閲覧できない状態となっている(弁論の全趣旨)。

(中略)

前記・・・の認定事実に基づき、本件各動画に接した一般人の普通の注意と受け止め方を基準とすると、本件動画1は原告が使用者から注意を受けたにもかかわらず真摯に謝罪ができない人物との印象を与えるものとして、本件動画2は原告が被告らに無断で仕事を辞めて逃げて被告会社に迷惑をかけた人物であるという印象を与えるものとして、本件動画3及び本件動画5は原告が被告会社の物品を窃取又は横領したという印象を与えるものとして、本件動画4は原告が他の同性の従業員にわいせつな行為等をして迷惑をかけているという印象を与えるものとして、本件動画6は原告が被告Bや他の従業員からいじめを受けるに値する人物であるという印象を与えるものとして、本件動画7は原告が嘘つきであるという印象を与えるものとして、具体的な事実を摘示して原告の社会的評価を低下させたということができるから、本件各動画はいずれも違法に原告の名誉を侵害するものということができる(なお、本件各動画はそれぞれ関連するものとして閲覧されることが推認できるところ、本件動画4、本件動画5及び本件動画6によって原告の顔貌が明らかになっていること、本件動画5のコメント欄で原告の本名の読み仮名が明らかになっていることからすると、本件各動画の被写体や被告Bが言及している人物は原告であると優に認められる。)。

そして、本件各動画の公開が不法行為を構成しないような例外的事情があるともうかがえないから、本件各動画の公開は被告Bによる不法行為に当たるものといえる。また、被告Bは被告会社のアカウントを用いて本件各動画を公開しているから、会社法350条の『その職務を行うについて』の要件を満たし、被告会社は同条に基づき本件各動画の公開によって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。

3.SNSでの不適切な投稿が許容されないのは経営者も同じ

 以上のとおり、裁判所は、労働者を揶揄する動画の投稿に違法性を認めました。

 SNSでの不適切な投稿が許されないのは経営者も同じです。経営者が労働者の名誉を殊更に毀損するような動画を公表した場合、名誉を害された労働者は経営者に対して損害賠償(慰謝料等)を請求することができます。思いあたる方は、一度、弁護士に相談してみても良いのではないかと思います。もちろん、私でご相談に与らせて頂くことも可能です。