1.公務員の給与が決定される仕組み
国家公務員は、勤務成績に基づいて5段階の昇給区分(A~E)が決定され、昇給区分に応じた号俸数昇給するという仕組みがとられています。
この昇給区分を査定することを「昇給区分決定」といいます。
地方公務員の昇給についても、似たような仕組みがとられています。
以前、このブログでこの昇給区分決定の適法性を争うにあたり、公法上の当事者訴訟という訴訟類型を活用できる可能性があることをお話しました。
確認訴訟(公法上の当事者訴訟)の活用方法-特定の「級」と「号給」にあることの確認を求めることは可能か? - 弁護士 師子角允彬のブログ
確認訴訟(公法上の当事者訴訟)の活用方法-昇給幅が不十分であることに違法性は問えるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ
しかし、この昇給区分決定について、不当に低い査定を受けた方が、もっと直接的に争う方法はないのでしょうか? 例えば、適切な認定を求め、昇給区分決定の取消を求めて出訴することはできないのでしょうか?
この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。山形地判令6.3.19労働判例ジャーナル149-60 山形県・山形県人事委員会事件です。
3.山形県・山形県人事委員会事件
本件で被告になったのは、山形県です。
原告になったのは、山形県職員の方です。山形県知事から「E」の昇給区分決定(本件昇給区分決定)を受け、昇給しなかったことから、その取消を求めるとともに、適切な調査の義務付けを求めて提訴したのが本件です。
この事件で、裁判所は、次のとおり述べて、本件昇給区分決定の不利益処分性を否定しました。
(裁判所の判断)
「被告は、本件昇給区分決定は『不利益な処分』(法49条の2第1項、49条1項)に当たらず、審査請求の対象とならないから、本件審査請求を却下した本件裁決に違法はないと主張する。」
「そこで検討すると、山形県職員等の給与に関する条例(以下『本件条例』という。)は、職員を昇給させるか及び昇給させる場合の号給数は、当該職員の勤務成績に応じて、人事委員会規則で定める基準に従い決定するものとする(同条例6条1項、2項)と定めるほか、昇給は予算の範囲内で行わなければならないと定める(同条5項)。また同条2項を受けて定められた本件規則は、昇給の区分について、『勤務成績が極めて良好である職員(A)』、『勤務成績が特に良好である職員(B)』、『勤務成績が良好である職員(C)』、『勤務成績がやや良好でない職員(D)』及び『勤務成績が良好でない職員(E)』という抽象的な要件を定める(同規則40条1項)とともに、職員の昇給の号給数の合計について、各任命権者の職員の定数に応じた上限を定める(同条9項)。このように、職員の昇給は人事委員会規則で定められる基準である本件規則に基づき決定された昇給区分に応じて決められるのであるが,このような建付けから見ると、本件昇給区分決定は、昇給の可否を判断するための根拠にすぎないのであって、本件昇給区分決定自体から、直接的に昇給の効果が発生するものではないことは明らかである。職員に対する昇給発令は、各職員に対する昇給区分決定を受け、その後に、これとは別に行われるものである。」
「このように、本件昇給区分決定それ自体は、直接的に職員の昇給発令の効果を生じさせるものではないから、これが法49条1項に定める『不利益な処分』に該当するということはできない。また、職員の昇給が昇給区分決定を受けて行われるという点に着目したとしても、昇給区分が『E』とされ、昇給発令がされない場合には、具体的な処分自体存在しないのであるから、いずれにしても、不服申立ての対象とはならないというべきである。」
3.処分性否定、審査請求⇒取消訴訟ルートはダメ
上述のとおり、裁判所は昇給区分決定の不利益処分性を否定しました。
審査請求の対象にならないものは取消訴訟の対象にもならないため(第二東京弁護士会労働問題検討委員会編『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、2023年改訂版、令5〕691頁参照)、審査請求⇒取消訴訟ルートでの争い方はできないことになります。
手続についての判断として、公務員関係の事件処理にあたり実務上参考になります。