1.弁護士同席のもとでの協議の要望
在職中に勤務先(使用者)と対立的な関係になってしまった時、勤務先との協議に際して、代理人弁護士を同席させたいというニーズがあります。
勤務先が応じれば、労働者から依頼を受けた代理人弁護士が協議の場に立ち会えることに特段の問題はありません。代理人弁護士は、隣席したうえ労働者に対して専門的観点からの助言をすることができますし、勤務先が不適切な言動に及んだ場合に注意を促すこともできます。
問題は、勤務先が代理人弁護士の立会を認めなかった場合です。
このような場合、
一定のリスクがあることを織り込んだうえで協議を行うこと自体を拒否するのか、
異議を留保したうえで労働者単独で協議に応じるのか、
を選択することになります。
いずれであるにせよ、その後、協議事項と関係のある理由で不利益処分が行われた場合、使用者が労働者に対して弁護士の立会を拒否したことは、どのように評価されるのでしょうか?
この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。新潟地判令4.3.28労働判例ジャーナル127-26 学校法人新潟科学技術学園事件です。
2.学校法人新潟科学技術学園事件
本件で被告になったのは、新潟薬科大学を設置・運営する学校法人です。
原告になったのは、被告の「健康・自立総合研究機構」(本件機構)に所属していた准教授の方です。本件機構の運営会議やセミナー会議への欠席を継続したことを理由に「職員としての能力を欠き、職務に適しないと認められた場合」に該当するとして、普通解雇されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
原告が機構セミナー会議に出席しなかった背景には、被告からの論文紹介の指示に対し、弁護士同席の下で協議したいと申し入れたにもかかわらず、被告がこれを拒否したことがありました。原告がこのような措置に及んだのは、自分はハラスメントを受けてるという思いを持っていたからです。
裁判所は結論として解雇を有効だと判示しましたが、被告が弁護士の同席を拒否したことに対しては、次のとおり評価しました。
(裁判所の判断)
「原告と被告においては、既に労働環境等をめぐって争いが生じており、原告は、平成30年9月以降、弁護士を通じて、被告に対して申入れ等を行っていたのであるから、被告において、平成31年4月の弁護士の同席による協議の要望についても対応することが望ましかったとはいい得る。しかし、原告は、弁護士の同席を求めたのは、G及びFによるパワーハラスメント等を前提とするものであったところ、G及びFによるパワーハラスメント等があったとは認めることができないことは上記のとおりであるから、その前提を欠く要求である以上、上記事情も機構セミナー等を欠席したことを正当化するものとはいえない。」
3.弁護士の同席について望ましかったとの価値判断が示された
使用者との協議にあたり、労働者が代理人弁護士の同席を求めることができるのかに関しては、法律上明文の定めがあるわけではありません。
そのため、理屈としては、弁護士の同席を求めることに権利性はないとして、無条件に使用者の判断を肯定することもありえました。
しかし、裁判所は、弁護士同席の申し入れに対し、「対応することが望ましかった」という価値判断を示しました。
また、セミナー欠席を正当化する要素にならないとした理由付けには「パワーハラスメント等があったとは認めることができないこと」が指摘されています。このことは、パワーハラスメント等のハラスメントの存在が事実として認められた場合、別異の判断がありえることを示唆しているといえます。
勤務先との関係が対立的になっている時、労働者の側には代理人弁護士を同席させたいというニーズがあります。本件は労働者側敗訴の事案ではありますが、本裁判例は裁判所が代理人弁護士の同席を積極的に評価していることを示す事例として活用して行くことが考えられます。