弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

話合いの記録化の妨害(ノートパソコンの蓋を閉める)が不法行為に該当するとされた例

1.話合いの記録化

 上司や同僚との関係性が話し合われる場で、出席者の発言を記録しようとすると、強く抵抗されることがあります。録音は認めない、メモをとることなども認めない、といったようにです。酷い場合には、メモを取り上げて破り捨てるなど、物理的な手段がとられることもあります。

 それでは、こうした記録化の妨害行為が、法的に問題になることはないのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、部下のノートパソコンの蓋を閉じた行為が不法行為に該当すると判示された裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、東京地判令5.6.8労働判例ジャーナル143-54 ブレア事件です。

2.ブレア事件

 本件で被告になったのは、

通信制学校の生徒及び通信大学の学生の補習教育等を目的とする株式会社(被告会社)

原告の上司である被告会社の通信事業部長(被告c)

の二名です。

 原告になったのは、被告が設置する補習校(本件学校)で勤務していた方です。上司であった被告cからパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメントを受けて適応障害になったと主張し、被告らに対して損害賠償を請求したのが本件です。

 本件の原告は、不法行為の内容の一つとして、

「被告cは、令和3年6月25日、原告と同僚であるd(以下『d』という。)との話合いに同席した際、パソコンでメモを取りながら話をしていた原告に対し、原告のパソコンを叩くとともに、『てめえの態度なんなんだよ。』と怒鳴りつけた」

との事実を主張しました。

 裁判所は、被告cの行為について、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・によれば、

〔1〕原告は令和3年6月の時点で本件学校の同僚であるdとの関係が悪化していたこと、

〔2〕dが上司である被告c及びe課長に原告との関係について相談をしたこと、

〔3〕同月25日に、本件学校内で原告、d、被告c及びe課長の4名による話合いの場が設けられたこと、

〔4〕dらが発言している間、原告はノートパソコンの画面を注視しながら発言内容を記録していたこと、

〔5〕被告cは、原告に対し、人の話を聞く態度ではないといった趣旨の発言をして、自らの手で原告のノートパソコンの蓋を閉じたこと

が認められる。」

一般的に、上司が部下に対して会議への参加態度等について指導を行うことは当然に許容されるが、その手段は、相当な方法で行われる必要がある。上記〔5〕のとおり、被告cは原告のノートパソコンの蓋を自ら閉じているが、ノートパソコンを使用中に上司から突然蓋を閉じられることは、部下に相当の心理的な負荷を生じさせるものであるから、余程の必要性がなければ許容されないというべきである。本件では、被告cが口頭注意ではなくあえてそのような行為をする必要性があったとは認められないから、被告cの当該行為は相当性を欠くものであったということができる。また、このような行為からすれば、当時被告cは感情的になっていたことが推認されるから、その際にされた被告cの発言も、原告が主張するような『てめえの態度なんなんだよ。』といった発言に類する強い口調のものだったと認めることができる。そのような強い口調での発言をする必要性も認められないから、この点でも、被告cの行為は相当性を欠くものだったというべきである。」

「したがって、原告とdとの話合いにおける被告cの言動は原告に対する不法行為となる。」

3.記録妨害に違法性が認められた

 以前、

合理的理由なく業務習熟を妨げない義務-メモの禁止に違法性が認められた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事を書きました。

 不適切な言動をしにくくなるのが嫌であるのか、言動の記録化に忌避感を示す上司は、一定の頻度で目にします。こうした上司から記録化を妨害された時には、それ自体をハラスメント(不法行為)として問題にすることができるかも知れません。