弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

業務時間外の酒気帯び運転を理由とする懲戒解雇が有効とされた例

1.飲酒運転と懲戒

 悲惨な事故が起きる度に厳罰化が求められ、飲酒運転をした公務員に対しては、懲戒免職などの厳しい処分が科されるようになっています。こうした懲戒処分の量定傾向は、民間にも影響を与えているように思います。近時公刊された判例集にも、業務時間外で物損事故さえ起こしていないにもかかわらず、酒気帯び運転を理由とする懲戒解雇が有効とされた裁判例が掲載されていました。大阪地判令7.9.26労働判例ジャーナル165-16 静岡鐵工所事件です。

2.静岡鐵工所事件

 本件で被告になったのは、工作機械の製造等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、営業業務等に従事していた方です。業務終了後、被告の社用車を運転して友人宅に行き、飲酒した後、同車両(本件車両)を運転したことを理由に懲戒解雇されました。これを受けて、懲戒解雇の無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では運転していたのが社用車であったとはいえ、業務時間後の飲酒運転で物損事故にさえ至っていませんでしたが、裁判所は、次のとおり述べて、懲戒解雇は有効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「原告は、令和5年12月26日、被告の業務を終え、本件車両を運転して一旦自宅に帰宅した後、同日午後7時26分頃に本件車両を運転して友人宅を訪問し、その頃から同月27日午前0時過ぎ頃まで、少なくとも350ミリリットルの発泡酒2本及び350ミリリットルのハイボール3本を飲酒した。原告は、同日午前0時28分頃、友人宅から帰宅するために本件車両の運転を開始したが、道路上を低速で蛇行したり、突然加速したり、停止後少し後退し、再度直進したりするなど異常な運転をしながら、約1.4キロメートル走行し、同日午前0時37分頃、住宅街の狭路に進入し、停車した後、エンジンをかけ、前照灯を点灯したまま居眠りを始めた。同日午前1時31分頃、近隣住民から110番通報を受けた警察官が、上記狭路に臨場し、原告に対する職務質問を開始した。・・・」

「原告は、警察官から降車して呼気検査に応じるよう求められたが、令和5年12月27日午前3時32分頃に道路交通法違反(呼気検査拒否)により現行犯逮捕されるまでの間、呼気検査等を拒否し、警察官に対し、怒鳴りつけたり、『巡査しかできへんのか、お前はショボいから』、『お前は底辺や』などと暴言を吐いたりしたほか、現行犯逮捕の際も、『お前ら覚えとけよ』などと暴言を吐き、本件車両から出た後も警察官を怒鳴りつけるなどした。原告は、同日午前3時40分頃、正常歩行し、直立できたものの、酒臭が強く、顔色は赤く、目は充血した状態であった。・・・」

「警察官は、原告が呼気検査に応じなかったことから、強制採血のための身体検査令状及び鑑定処分許可状の発布を受け、令和5年12月27日午前8時18分、病院において、原告に対する強制採血を実施した。血液鑑定の結果、原告の血液には、1ミリリットル中にエチルアルコール1.5ミリグラムが含まれていた。なお、呼気アルコール濃度は血中アルコール濃度の2000分の1とされているため、上記血中アルコール濃度は、呼気1リットルにつき0.75ミリグラムに相当する。・・・」

(中略)

「本件酒気帯び運転は、長時間にわたり相当量の飲酒をした後に行われたものであり、原告の血中アルコール濃度が本件酒気帯び運転から約8時間経過した時点でも高濃度(呼気1リットルにつき0.75ミリグラムに相当)であったこと・・・、運転中の異常な運転態様及び警察官から職務質問を受けた際の異常な対応・・・に照らせば、運転中のアルコールによる影響は非常に強いものであったというべきであり、交通事故を起こす可能性の高い非常に危険なものであったと評価するのが相当である。」

「本件酒気帯び運転は、被告の業務終了後に行われたものであるものの、社用車を運転するものであり、その運転中に交通事故を起こした場合、被告に自動車損害賠償保障法3条の運行供用者責任等による民事上の損害賠償責任が発生し得るものであったといえるから、単なる私生活上の行為にとどまるものであったとはいえない。」

「加えて、原告は、深夜の住宅街に、エンジンをかけ、前照灯を点灯した状態で本件車両を停車した上、臨場した警察官から呼気検査等を求められたにもかかわらず、これを拒否し、長時間、その場にとどまることとなり、さらに、警察官に対し、怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりしたものである・・・から、近隣住民に与えた不安及び迷惑並びに警察官の職務を遅滞させたことは軽視できない。」

「よって、本件酒気帯び運転後の事情も悪質である。」

(中略)

「以上によれば、本件酒気帯び運転は、非常に危険で悪質なものであったというべきであり、また、単なる私生活上の行為にとどまらず、被告の社会的評価を毀損するおそれがあるものであったと認められる。加えて、昨今の飲酒運転に対する社会的な非難の高さなどに照らせば、原告が本件解雇以外に懲戒処分を受けたことはうかがわれないことなどの原告のために有利な事情を考慮しても、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるというべきである。」

「よって、本件解雇は、懲戒権を濫用したものとは認められない。」

3.飲酒運転は重い

 確かに、社用車である点は企業秩序との関係で無視はできませんし、警察官らに対する言動や態度も適切とはいえません。

 しかし、業務時間外での運転で物損事故にさえ至っていない中、処分歴のない労働者に対する懲戒解雇が有効とされたことからは、処分量定が重くなっている傾向が感じられます。

 昨今、飲酒運転で厳しい懲戒責任が問われるのが公務員だけではなくなっていることには、留意しておく必要があります。