弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

アサイン制の労働者-仕事がないのは誰のせい?

1.アサイン制

 特定の上司が特定の部下に対して一方的に業務を付与するという形をとらず、個別のプロジェクトや業務毎に上級職員が部下を選んで業務を依頼するという仕組みをアサイン制といいます。

 アサイン制のもとで働いている労働者は、上級職員から業務の割り当てを受けなければ、暇を持て余すことになります。

 それでは、この業務の割り当てを受けられない状態に責任を持つのは、誰なのでしょうか?

 考え方としては二つの可能性があります。

 一つは、労働者に割り当てを行えるだけの仕事をとってこない会社ないし上級職員に責任があるとする考え方です。こうした考え方によれば、暇を持て余す状態になっているからといって労働者に能力不足の烙印を押すのは酷だということになります。

 もう一つは、上級職員に自分の能力をアピールして仕事をもぎ取ってくることのできない労働者の責任だとする考え方です。こうした考え方によれば、暇を持て余しているのは労働者の能力不足だと帰結されます。

 このように二つの考え方がある中で、近時公刊された判例集に、アサイン制をどのように理解するのかが判示された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、東京高判令3.7.14労働判例1250-58 PwCあらた有限責任監査法人事件です。

2.PwCあらた有限責任監査法人事件

 本件はストーカー行為等を理由とする諭旨免職処分の効力が問題になった事件です。

 原告の方は、同じ職場で働く女性にしてストーカー行為を行ったとして、被告から諭旨免職処分を受けました。その後、降格処分を経て普通解雇されたため、諭旨免職の無効確認、降格の無効確認、労働者としての地位の確認等を求めて出訴しました。

 一審裁判所は諭旨免職の無効確認、労働者としての地位の確認を認める一方、降格が無効であることは否定しました。これを受けて、原告・被告の双方が控訴したのが本件です。控訴審裁判所は、被告敗訴部分を取消し、諭旨免職処分、普通解雇のいずれの効力も認めました。

 アサイン制の理解が問題になったのは、普通解雇の効力との関係です。

 一審被告は、

「クライアントチャージ(担当者の時間単位×時間数をクライアントに請求すること)ができる業務はほとんど行えていなかった」

と主張し、これを職務遂行能力の欠如だと指摘しました。

 これに対し、一審原告は、仕事がなかったのは、業務獲得活動を妨害されたからだとして、一審原告の主張に反論しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、アサイン制のもとで仕事がないことを、職務遂行能力の欠如だと判示しました。

(裁判所の判断)

1審被告においては、基本的にアサイン制度が採用されており、職員は自らの能力や経験等をアピールして上級職員から業務の依頼を得ることが求められていたため、1審原告も、平成28年1月に1審被告に復職した際、社内における1審原告の認知度を高めて他部署との関係を構築し、他部署が行っているクライアント業務に関わっていけるようになるために本件配信業務を担当することを命じられ、毎月3回程度のペースで金融規制に関する重要性が高いニュース等を社内に配信することになたが、1年以上が経過した時点においても、本件配信業務については、D SMから形式な面だけではなく内容面についてまで修正を受ける状態にあり、他部署からの業務の依頼もほとんどなく、平成29年5月末頃から平成30年1月にかけてL部かあ合計11件の下作業の依頼が、同年5月15日までの間に金融機関の財務比率の調査の依頼があったが、それらの依頼が継続することはなく、1審原告自身も積極的に業務の獲得に向けた活動をせずに1年間に443.5時間のアベイラブル登録をしていたのであって、このような状況の中で、1審被告は、令和元年度の目標設定に応ずることをしなかったために、1審原告については、平成30年度に続いて令和元年度においても最低の人事評価になることが見込まれていたというのである。これらによれば、1審原告は、アサイン制度の下で他の部署からの依頼を受けてクライアント業務に関わるという1審被告においてプロフェッショナル職に求められていた基本的な業務の遂行の在り方に即した業務をほとんどすることができておらず、また、上記のような業務の遂行の在り方に即した業務の機会に資することを期待して担当させられた本件配信業務も、一人で問題なく遂行することはできなかったものと認められる。」

(中略)

「これらの事情を総合すれば、1審原告については、前記において判示するとおり有効なものというべき本件降格決定によるアソシエイト・プライマリーの職階及び職位に応じての評価が行われることが求められることを考慮しても、『職務の遂行に必要な能力を欠き、かつ他の職務に転換することができないとき」に該当する事由があったものと認めるのが相当である。」

(中略)

「本件普通解雇については、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないというべきであり、1審被告において解雇権を濫用したものとはいえず有効なものと認められる。」

3.労働契約の解釈によるのだろうが・・・

 アサイン制は法令用語ではありませんし、厳密な定義があるわけでもありません。

 労働者に上級職員へのアピールといった社内営業的なものまで求められているのかは、個々の労働契約の解釈にも依存しているのだと思われます。

 とはいえ、アサイン制のもとで暇を持て余しているのは労働者の自己責任だという論調の高裁裁判例が出たことには、今後、注意しておく必要があるように思われます。