弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

管理監督者性と賃金上の待遇-賃金の多寡は関係ない場合もある?

1.管理監督者

 労働基準法41条2号は、

「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)

には

「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」

は適用されないと規定しています。

 時間外勤務に割増賃金が発生することを定める労働基準法37条は、労働基準法41条と同じ章(上記でいう「この章」)に規定されています。したがって、管理監督者に時間外割増賃金が支払われることはありません。俗に管理職に残業代が支払われないと言われる根拠は、ここにあります。

 ただ、当然のことながら、管理監督者への該当性は名称によって決まるわけではありません。俗にいう名ばかり管理職のようなものは、労働基準法41条2号に規定されている管理監督者には該当しません。

 管理監督者か否かは、

「名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」

とされていて、該当性を判断するにあたっては、

「職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある」

と理解されています。

 また、

管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面においても無視し得ないものであること」

とされています(以上、昭23.9.13発基17、昭63.3.14基発150)。

 それでは、管理監督者への該当性が上記のような考慮要素のもとで判断されるとして、「賃金等の待遇面」はどのような位置づけを持っているのでしょうか。

 総合考慮における考慮要素の一つなのでしょうか、それとも職務内容、責任と権限、勤務態様が主たる考慮要素で、賃金等の待遇面は補強的な考慮要素になるのでしょうか。

 この問題についての理解が示された近時の裁判例に、大阪地判令元.5.30労働判例ジャーナル91-40 KSP・WEST事件があります。

2.KSP・WEST事件

 本件は、警備業務等を業とする被告会社の元従業員の方が、残業代などを請求した事案です。原告の管理監督者性が争点の一つとなりました。

 裁判所は次のとおり述べて、原告の管理監督者性を否定しました。

(裁判所の判断)

「労基法41条2号が、管理監督者について労基法37条1項を適用しないとする趣旨は、自らの労働時間をその裁量で律することができる地位にあり、かつその地位に応じた高い待遇を受ける者については、労働時間の規制を適用することが不適当と考えられる点にある。かかる趣旨に照らせば、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者をいうと解すべきであり、これに該当するか否かについては、〔1〕労務管理に関する指揮監督権限を有し、事業主の経営に関する決定に参画していること、〔2〕労働時間について裁量権を有していること、〔3〕管理監督者としての地位と権限に相応しい賃金上の待遇を受けていることの各要素を総合して判断する必要があると解される。

「原告の業務内容は、求人票において『大阪支社所属警備員の管理及び指導』などと記載されている・・・ものの、実際には、関西労災病院における救急患者の受入業務、電話関連業務・・・や、警備業務・・・であった。原告の労働時間も、シフトによって始業時間及び終業時間が管理されていた・・・。そうすると、原告は、その業務内容からして、〔1〕労務管理に関する指揮監督権限を有するとはいえず、〔2〕労働時間について裁量権を有しているともいえない。
以上によれば、〔3〕原告に対する賃金上の待遇について検討するまでもなく、原告は、労基法41条2号にいう管理監督者には該当しない。

3.待遇は残業代請求の妨げにならない場合もある

 KSP・WEST事件の判示の特徴は、労務管理に関する指揮監督権限・労働時間についての裁量権から管理監督者性を否定し、賃金上の待遇については検討するまでもないとした点です。規範のうえでは各要素を総合考慮すると言いながらも、賃金上の待遇を補強的・補充的な要素として位置付けているように読めます。

 賃金上の待遇が補強的・補充的な要素であるとするならば、指揮監督権限がなく、労働時間についての裁量権もないような働き方をしている場合、賃金は高かろうが低かろうが関係なく時間外割増賃金を請求できることになろうかと思います。

 賃金の高い方の中には、

「これだけ高待遇なのだから、残業代は請求できないのでは・・・」

という思い込みを持っている方が散見されます。

 しかし、その文言からも分かるとおり、賃金が高ければ管理監督者に該当するというわけではありません。管理監督者への該当性にとって本質的なのは、待遇というよりも指揮監督権限・労働時間についての裁量権であろうかと思います。

 KSP・WEST事件の原告の方が被告会社と締結した雇用契約書には、基本給25万円、職務手当3万円の合計28万円が賃金であると記載されていました。絶対値としてもそれほど高額とはいえず、待遇面を考慮したとしても、やはり管理監督者性は否定されていたのではないかと思われます。

 しかし、判決文は「賃金も合計28万円だから検討するまでもない」といった言い方はしていません。「賃金上の待遇」自体を「検討するまでもな」いと判示しています。

 賃金が高いだけで、権限もなければ、労働時間についての裁量もない、そのような方で残業代が支払われていないことに疑問を持つ方がおられましたら、ぜひ、一度ご相談ください。