弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

マネジメント契約とは何だろうか?

1.ピンハネされる契約

 ネット上に、

「自分で営業したのに『ピンハネ』される契約、有効なのか? フリー『放送作家』の悩み」

という記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_23/n_10231/

 記事は、

「都内在住のAさんは、あるマネジメント会社との間で、専属のマネジメント契約をむすんで、フリーランスの放送作家として、仕事をしています。基本的には、マネジメント会社から紹介された仕事は、報酬の20%がマネジメント会社の取り分で、残りがAさんの取り分とされています。」

「ただ、自分にあった仕事がほとんど紹介されないので、Aさんはみずから営業活動をおこなって、仕事をとってきています。これは契約上、認められています。また、マネジメント会社のマネージャーは、十分に働いてくれないそうで、制作会社とのギャラ交渉やスケジュール調整も自分でしなければなりません。」

「ところが、このように自分でとってきた仕事でも、報酬の20%がマネジメント会社の取り分となっているというのです。『いますぐに生活に困る』というわけではないのですが、自分でとってきた仕事の割合が増えてきたので、『さすがにどうなのか?』と疑問に思ったというわけです。」

「そこで、マネジメント会社との契約を解消しようと考えたのですが、業界の同僚・先輩たちから、契約を解消したあとも、マネジメント会社経由の仕事からは20%のピンハネがつづくという話を聞いたので、Aさんは現在、とても迷っている状況です。」

との事例をもとに、契約解除の可否を論じています。

 回答している弁護士の方は、

「ピンハネをやめさせたり、その割合を下げてもらうことは可能です。」

「マネジメント会社が交渉に応じない場合や決裂した場合ですが、そもそも一方的に契約を解除できるケースも少なくありません。契約書には、数年単位の契約期間が定められている場合がほとんどですが、マネジメント会社が十分な仕事をしない場合には、その債務不履行を理由に解除することもできます。」

「また、明確な債務不履行がないとしても、民法や労働法を根拠に途中解約できるケースもあります」

と回答しています。

 しかし、「マネジメント契約」という正体の良く分からない契約の解約の可否に関して、「ピンハネをやめさせたり」することが「可能です。」と簡単に言い切ることには、やや躊躇を覚えます。

2.マネジメント契約とは?

 「法律行為でない事務の委託」(民法656条)を目的とする契約を準委任契約といいます。準委任契約には委任契約の規定が準用されます(同条)。

 委任は「各当事者がいつでもその解除をすることができる」とされています(民法651条1項)。ただ、相手方の不利な時期に委任の解除をした場合、やむを得ない場合を除いて損害賠償をする必要があります(同条2項)。

 解除は自由、ただし、場合により損害賠償をする必要があるというのが、委任契約ないし準委任契約のルールです。

 したがって、マネジメント契約が、事務の委託を目的とする契約(準委任契約)と理解できれば、損害賠償の要否は別として、契約の解除はできることになります。

 回答者となっている弁護士の方が、

「そもそも一方的に契約を解除できるケースも少なくありません。」

と述べているのは、マネジメント契約が準委任契約と理解できる場合が少なくないという趣旨だと思います。

 しかし、「マネジメント契約」は、契約内容の個性が強すぎて、表題から法的性質を決定することが難しい契約です。

 例えば、東京地判平13.7.18判例時報1788-64は、以下のように述べて印税収入のピンハネ的要素を含んだ「マネジメント契約」を「委任契約のほか、雇用又は請負契約としての性質が混合した無名契約」であると理解しています。

(裁判所の判断)

「本件マネジメント契約においては、原告は、被告エージーに対し、原告のアーティスト活動について、マネジメント業務を行うことを委託したとされており(一条一項)、その他の条項においても「委託」との用語が使われており(一条二項、三条二項)、本件マネジメント契約が、委任契約としての性質を有していることは、原告が主張するとおりである。」
「しかしながら、本件マネジメント契約においては、他面において、(専属アーティスト)との見出しを付して、原告は、契約期間中、被告エージー以外の第三者に対し、原告のアーティスト活動に関するマネジメント業務を委託することはできないとされ(一条二項)、また、原告がアーティスト活動について第三者と契約を締結したりするには、事前に、被告エージーから書面による承諾を得なければならないとされており(同条三項)、原告は、被告エージーに専属する関係に立つこととされている。また、マネジメント業務に関して、原告の個々のアーティスト活動の選択、決定は、被告エージーが行うものとされ、これについて原告は、正当な理由なく、被告エージーからのアーティスト活動の依頼を拒否することはできないとされており(三条一項)、原告のアーティスト活動については被告エージーが決定権を有し、原告は被告エージーに対し従属する関係にあることとされている。さらに、被告エージーが行ったアーティスト活動に関して発生した著作権、著作隣接権を含む全ての知的財産権は、被告エージー側に帰属するなどとされ(四条)、原告のアーティスト活動等に関わる契約金、出演料その他の報酬ないし対価も全て被告エージーに支払われるとされており(七条一項)、これに対して、原告は、対価として、被告エージーから、給与(当初は月二〇万円)のほか、分配率○・四%の割合による印税報酬を受け取ることとされているにすぎないのである(七条二項。なお、被告エージーは、ソニー・ミュージックから、本件実演家契約に基づき制作された原盤を使用したレコード等に関して、分配率一%の実演家印税の支払を受けていた(前記一(2)ア))。」
「こうしたことからすると、本件マネジメント契約は、原告が、被告エージーの一定の指揮下において、同被告に対しアーティスト活動という労務を供給し、そのこと自体又は完成した仕事に対して、同被告から対価を得るという側面もあると認められ、雇用又は請負契約としての性質もまた有しているというべきである。」
「そうすると、本件マネジメント契約は、委任契約のほか、雇用又は請負契約としての性質が混合した無名契約と解するのが相当というべきである。

3.無名契約の理解の仕方は難しい

 無名契約(民法に規定のない契約)というのは、実務家にとって非常に厄介な存在です。こう言われてしまうと、民法のどの規定がどのように適用されるかが全く分からなくなってしまうからです。

 マネジメント契約も無名契約であると理解される場合、委任以外の法理で解除権の行使が制限される可能性が生じてきます。

 実際、上記の判例も、解除の可否について、

「本件マネジメント契約が、上記・・・で説示したとおりの性質を帯有する無名契約と解されることにかんがみ、民法六五一条(委任)、六二八条(雇用)等の規定の趣旨を踏まえて検討すると、上記やむを得ない事由が認められる本件においては、原告は被告エージーに対し何らの損害賠償を行っていないけれども、本件解除は有効であると判断される。」

と判示しています。

 裁判所が、「やむを得ない事由」の存在を、解除の可否に係るものと理解しているのか、損害賠償の要否に係るものと理解しているのかは今一判然としません。

 しかし、請負人が自由に仕事を放棄するようなことは基本認められていませんし、民法628条は有期雇用契約の解約について「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。」と規定しています。

 こうした民法上のルールに鑑みると、無名契約と理解される場合、マネジメント契約の解除権の行使に一定の制約が加えられる可能性があることは、この種の問題の回答にあたり、きちんと押さえておく必要があると思います。

 事業者間での契約の効力を争うのは決して楽ではありません。また、一見不利な契約が結ばれている場合、裏でそれに見合うメリットが享受されている例も少なくありません。この種相談で解除の可否についての見解を出すにあたっては、相談者の話だけではなく、具体的な条項の確認をして、契約の法的性質を見極めることが不可欠です。