弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

総合職への職種転換の機会を一般職女性から奪ったことが違法とされた例

1.職種変更からの排除

 男女雇用機会均等法6条3号は、「労働者の職種及び雇用形態の変更」について、「労働者の性別を理由として、差別的取扱い」をすることを禁止しています。

 同号に規定されている「職種」とは、「職務や職責の類似性に着目して分類されるもの」をいい、総合職・一般職の別などもこれにあたります。

 そして、一般職から総合職への職種の変更について、その対象を男女のいずれかのみとすることは、同法で禁止されている差別的取扱いに該当すると理解されています(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成 18 年厚生労働省告示第614号)最終改正:平成27年厚生労働省告示458号参照)。

 これは職種変更の場面での男女差別を禁止したものですが、総合職・一般職のコース別雇用管理を隠れ蓑にした男女差別は募集・採用の場面でも同様に禁止されています(男女雇用機会均等法5条、同指針参照)。

 男女雇用機会均等法は昭和60年に成立した古い法律です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2011/10/pdf/004-011.pdf

 施行から既に30年以上が経過していることもあり、総合職・一般職のコース別雇用管理制度に名を借りた露骨な男女差別は、減少しているように思われます。

 しかし、現在においても、男女差別は、決してなくなっているわけではありません。近時公刊された判例集にも、女性を一般職の枠に押し込めて、総合職への職種転換の機会を付与しなかったことの適否が問題になった裁判例が掲載されていました。横浜地判令3.3.23労働判例1243-5 巴機械サービス事件です。

2.巴機械サービス事件

 被告になったのは、親会社が制作した遠心分離機のメンテナンス、設置等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、一般職として勤務していた女性2名です。

 被告では総合職と一般職によるコース別人事制度(本件コース別人事制度)が採用されていました。設立されてから令和5年までの約42年間において被告が採用した一般職は全部で9名であり、その全員が女性でした。また、これまでに被告が採用した総合職は全部で56名であり、その全員が男性でした。

 このような性別構成の人事制度の設置・運用が男女雇用機会均等法に違反するとして、原告らは、被告を相手取り、慰謝料等の支払いを求める訴えを提起しました。

 原告らは複数の観点から被告の人事制度の設置・運用を問題提起しました。その中の一つに、原告ら一般職女性に対し、総合職への職種転換の機会を提供しなかったことの適否がありました。

 この切り口からの問題提起に対し、裁判所は、次のとおり述べて、被告の人事制度の違法性を認めました。

(裁判所の判断)

原告両名以外の一般職の女性が、一般職から総合職への転換を希望したか否かは証拠上明らかではないものの、以上のとおり、少なくとも原告両名は、それぞれ総合職への転換を希望する意思を明確に伝えているものと評価できるのに・・・、総合職への転換ができてないことはもとより、被告が原告両名に、総合職への転換を勧めたり、転換に必要となる具体的基準や手続等を示したりしたことすらなく、かえって原告X1は、I社長から、女性に総合職はない旨の回答を受けている・・・ことからすれば、被告は、原告両名について、女性であることを理由として一般職から総合職への転換の機会を与えていないものと強く推認される。

この点、被告は、これまでに職種転換制度を運用しなかった理由として、適切な人材が現れなかったことを主張し、証人Gは、これに沿う陳述・供述をするが・・・、その内容は抽象的にとどまっていてにわかに信用しがたい上、少なくとも、原告両名について、総合職としての適格性を真摯に検討したことをうかがわせるに足りる的確な証拠はない。また、仮に被告が原告両名の経験や資格、能力等に疑問を持つのであれば、具体的かつ適切な基準を設けて職種転換制度を整備し、当該制度を適用する中で、総合職への転換の可否を判断すれば足りるのであり、制度自体を整備ないし運用しないことについての合理的な理由は、何ら見当たらないから、前記被告の主張を考慮しても、前記推認を覆すには至らない。

そうすると、遅くとも、原告両名が総合職への転換を希望する意向を表明した時期(原告X1については遅くとも平成29年10月ころ、原告X2については遅くとも平成27年4月ころ)以降、被告は、原告両名に対し、総合職への転換の機会を提供せず、これによって総合職を男性、一般職を女性とする現状を固定化するものであるところ、この点について、合理的な理由が認められないのであるから、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁止する雇用機会均等法6条3号に違反し、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とした同法1条の趣旨に鑑み、被告が、原告両名に対し、本件コース別人事制度の運用において、総合職への転換の機会を提供しなかったことは、違法な男女差別に当たるというべきである。

(中略)

「以上によれば、被告は、原告X1との関係においては遅くとも平成29年10月ころ以降、原告X2との関係においては遅くとも平成27年4月ころ以降に、給与規定上予定されている職種転換制度を整えることなく、総合職への転換の機会を提供せず、結果として、原告両名の職種変更の機会を奪ったことが、雇用機会均等法6条3号及び同法1条の趣旨に違反したものと認められ、これについて少なくとも過失が認められる。」

3.未だ過去の問題ではない

 分かりやすい形での男女差別が減っているのは確かだと思います。しかし、露骨な形での男女差別も決してなくなったわけではありません。それは法律相談業務に携わっていて、実際に目にすることもあります。

 差別の立証は必ずしも容易ではありませんが、男女雇用機会均等法やその関連指針など、活用できる法制度の整備は時代と共に着実に進んでいます。理不尽な思いをお抱えの方は、一度、弁護士に相談してみてもいいだろうと思います。もちろん、当事務所で、ご相談をお受けすることも可能です。