弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

職種が限定されている大学非常勤講師への整理解雇について、解雇回避努力を尽くしたと評価することはできないとされた例

1.職種限定契約と配転の可否

 最二小判令6.4.26労働判例1308-5 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件は、

「上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない」

と判示しました。

 この判例を根拠として、職種限定契約のある労働者を整理解雇を行うにあたっては、配転による解雇回避措置をとる必要がないとする見解があります。配転を命じる権限がないのだから、配転による解雇回避措置はとりようがないのではないかという見解です。

 しかし、職種限定契約といっても合意によって解除したり上書きすることは可能なのであり、この判例を根拠として配転を打診することすら行わずに労働者を整理解雇することが正当化されるというのは適切ではないように思われます。

 近時公刊された判例集にも、職種限定契約のある労働者の整理解雇にあたり、配転等による解雇回避措置を不要とする考え方と整合的でない裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、津地判令6.12.12労働判例ジャーナル159-42 学校法人享栄学園事件です。

2.学校法人享栄学園事件

 本件で被告になったのは、大学・短期大学を設置運営する学校法人です。

 原告になったのは、被告との間で非常勤講師として働くことを内容とする労働契約を締結し、1コマ9600円で授業を担当していた方です。この労働契約は期間を1年とするもので、16年以上に渡り継続していたことから、原告の方は無期転換権を行使しました(労働契約法18条)。

 その後、被告は無期転換権の行使により労働契約が期間の定めのないものに変更された非常勤講師(無期非常勤講師)の雇用を継続しない方針を決定し、授業担当を消滅させ、「雇用契約終了のお知らせ」と題する書面を交付しました。

 これに対し、原告の方が、雇用契約終了の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告は、労働契約の当然終了という考え方のほか、予備的に普通解雇の主張をしました。裁判所は、労働契約の当然終了を否定したほか、次のとおり述べて、普通解雇の主張も排斥しました。

(裁判所の判断)

「使用者による解雇権の行使は、就業規則により定められた解雇事由に該当する場合であっても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効となる(法16条)。そして、客観的合理性及び社会通年上の相当性の有無は、被告における人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性及び解雇手続の相当性等の事情を総合的に考慮した上で判断すべきである。」

「まず、被告においては、留学生の受入方針の変更及び客観的な経営環境の悪化が見込まれること・・・により、令和2年度時点で、次年度以降、留学生を対象とする日本語科目のクラス数を削減し、担当教員を絞り込む必要があったことは一概に否定できない(人員削減の必要性)。」

「次に、被告が原告の雇用を維持すべく努力を尽くしたどうか、また、真に努力を尽くして人員の削減が必要やむを得ないとしても特に原告を解雇するという人選が合理的といえるかどうか、を検討する。殊に本件では、被告が、日本語科目のコマ数を全体として減少させながらも、任期付き専任教員2名を公募により採用し、同人らに原告らの従前の担当科目を交代させたという事情があるから・・・、当該事情を踏まえて慎重に吟味する必要がある。」

「この点について、被告は、授業以外の支援業務も含めて担当できる専任教員を中心としてカリキュラムを改編する必要がある一方、原告ら無期非常勤講師には、日本語授業以外の業務を担務させることができなかったため労働契約を終了したというが、このような理由は合理性に欠ける。すなわち、原告は、有償であれば支援業務を行うことに前向きであり、原告の日本語講師としての実績や被告における勤務歴に鑑みれば、新たに採用された専任教員らと比較しても、支援業務を遂行する能力に欠けることはない・・・。また、契約上、原告らの業務内容は『担当科目の講義及びその他関連する業務』に限定されているものの・・・、その範囲を双方の合意により変更することは何ら妨げられず(法3条1項、8条)、被告が変更を命じることもできるのであるから(就業規則8条)、被告が令和3年度以降に新たに採用した任期付き専任教員に交代させた業務は、支援業務も含めていずれも原告が担当することが可能であったといえる。さらにいえば、支援業務の内容や留学生教育支援教員の位置付けに鑑みると、任期付き教員よりも、無期雇用となった原告らの方が継続的な留学生支援に適しているとも評価し得るのであり、いずれにせよ、原告との労働契約を終了させてまで任期付き専任教員を採用しなければならない合理的理由は見出し難い。」

「それにもかかわらず、被告は、担当コマ数の変更や支援業務の担当希望に関する原告の意向を確認しないまま、単に公募に応募する機会を与えたに過ぎず、解雇回避の努力を尽くしたと評価することはできない。むしろ、クラス数が削減され、非常勤講師の人数が減少した結果、令和3年度の教員別担当コマ数は令和2年度より全体的に増加している状況であるから・・・、一人当たりの担当コマ数の割当てや支援業務等の業務内容について調整を経るなどの措置を講じれば、原告との契約を終了させる必要はなかったといえる。」

「さらに、そもそも被告は、本件労働契約の終了事由の予備的主張として解雇を位置付けているように、当初は労働契約の終了事由を解雇とすることを想定していなかったことが明らかであり、令和3年3月末日までの間に、原告や本件組合に、本件労働契約の終了事由を明確に説明したことはない・・・。その他、普通解雇により本件労働契約を終了させる場合の所要の手続を履践したこともうかがわれず、本件組合との団体交渉等も含めた上記経過に鑑みれば、解雇手続として相当なものであったとは評価できない。」

(中略)

「以上によれば、そもそも被告が原告に対して普通解雇の意思表示をしたとは認め難い。また、人員削減の必要性は一概に否定できないとしても、原告に代わる任期付き専任教員を採用した経緯等を考慮すると、原告の雇用を維持すべく努力を尽くしたとは認められない。加えて、普通解雇としての手続が十分に履践されていない点を加味すれば、結局、仮に普通解雇として検討しても、客観的に合理的な理由を欠くといわざるを得ず、社会通念上相当として是認することができない。したがって、仮に普通解雇であるとしても、無効である。」

3.社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件以降の整理解雇否定例

 以前、

職種限定契約のもとにおいても、整理解雇するには解雇回避努力として配置転換を打診するなどの措置が必要とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

を紹介しました(東京地判令6.9.20労働経済判例速報2579-15 三菱UFJ銀行事件)。

 これは規範のレベルで職種限定契約のもとにおいても整理解雇するには解雇回避努力として配置転換の打診などの措置を要するとしたものですが、結論としては整理解雇の有効性を認めました。

 しかし、本件は、三菱UFJ銀行事件とは異なり、結論においても整理解雇の効力を否定しました。

 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件以降の職種限定契約を締結している労働者の整理解雇の可否に係る事案として、本件は実務上参考になります。