弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2名以上の医師の診断に基づかない分限休職処分

1.分限休職と複数名の医師による診断

 地方公務員法28条3項は、

「職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。」

と規定しています。

 この規定を受け、各地方公共団体は、条例で、

「心身の故障のため、長期の休養を要する場合」

に該当する職員に対し、分限休職処分を行うための手続を規定しています。

 分限休職処分を行うにあたり、多くの地方公共団体では、2名以上の医師の診断を擁するとされています。

 しかし、実務上、このルールが厳密に守られていない事例が散見されます。守られない理由は様々ですが、多くはメンタルの不調を抱えた職員による受診拒否であるように思われます。

 それでは、2名以上の医師の診断によらないで分限休職処分がなされている場合、その処分の効力は、どのように理解されるのでしょうか?

 複数名の医師による診断を経なかったことが無効事由(重大かつ明白な瑕疵)に該当するのかが争点となった裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、さいたま地判令3.2.19労働判例ジャーナル111-28 和光市事件です。

2.和光市事件

 本件で被告になったのは、和光市です。

 原告になったのは、被告の職員の方です。心身の故障を理由として、5回に渡り分限休職処分を受けました。結果的に復職はしましたが、この5回の分限休職処分について、いずれも休職事由がなく、手続上も瑕疵があるとして、その無効の確認等を求める訴えを提起しました。

 原告は幾つかの瑕疵を主張しましたが、その中の一つに、二人以上の医師の診断を受けていないという問題がありました。

 和光市職員の分限に関する手続及び効果に関する条例は2条1項で、

「任命権者は、法(注・地公法を指す。)第28条〔略〕第2項第1号の規定に該当するものとして職員を休職する場合においては、医師2名以上を指定してあらかじめ診断を行はせなければならない。」

と規定していました。

 しかし、5回に渡る分限休職処分のうち2名以上の医師の診断を受けていたのは5回目だけで、1、3、4回目の分限休職処分は主治医のみの診断に基づいて行われていました。また、2回目の分限休職処分は、主治医の診断にすら基づいていませんでした。原告はこれを分限処分の瑕疵だと主張しました。

 この問題について、裁判所は、次のとおり述べて、医師2名以上の診断を受けていないことを重大な手続違反だとは認めませんでした。

(裁判所の判断)

「原告は、本件休職処分1から4までは2名以上の医師の診断に基づかずに行われており、条例違反という手続上の瑕疵があると主張する。しかしながら、分限条例が医師2名以上の診断を求める趣旨は、職員に不利益となる分限休職処分を課すに当たり、複数の医師による診断を求めることで慎重な判断を担保するものであると解される。そうすると、被処分者が医師2名の診断を受けることを望んでいんない場合、医師1名の診断のみに基づいてされたからといって、直ちにその処分を無効とするほどの重大な手続違反があるとはいえない。そして、前記認定事実によれば、原告は、前記各処分に先立ち、主治医であるC医師のみの診断で手続を進めてほしいと要望していたのであるから、本件休職処分1から4までの各処分がC医師の診断のみに基づいてされたからといって直ちに重大な瑕疵があるとはいえず、これらの処分が無効とはいえない。

「なお、本件休職処分2については、分限条例2条1項の定めに反し、その処分がなされた時点では、医師の診断に基づかずにされたという手続上の瑕疵があることになる。ただ、前示したとおり、かかる処分の時点では原告に休職事由があったものと認められ、この点は先立つ医師の診断の有無により左右されるものではないし、平成30年1月9日の時点で、C医師により同年2月1日以降は時短勤務による復職が可能、すなわち通常勤務での就労が困難との判断が示されていたこと、C医師は、同月30日に原告を診察した後、本件休職処分2がなされた翌日の同年2月2日、同月1日から休職を継続する必要がある旨を診断したことからすると、前記瑕疵は結論に影響を及ぼさない程度のものであって、重大な手続違背があったとまではいえない。

3.結論に影響を及ぼすのものであることが必要?

 メンタル不調を抱えている本人の意思をどれだけ重視するのかという問題はあるにせよ、本人が希望した場合に主治医のみの診断で分限休職処分を出すのは、分からなくはありません。

 しかし、裁判所は、結論に影響を及ぼす可能性がなかったことを理由に、主治医による診断すら経ていない本件休職処分2にも重大な手続違反があったとまではいえないと判示しました。

 結論に影響がなかったのは、事後的に経過を振り返っての結果論にすぎません。医師の診断を経ることなく行われた分限休職処分について、重大な手続違背と判断しなかったことには疑義があります。とはいえ、これを無効事由とは認めなかった裁判例が出たことは同種事案の処理にあたり、意識しておかなければならないことだと思われます。