弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

宿直勤務-行政官庁の許可は得られている?

1.労働時間規制の適用除外者

 管理監督者には労働時間規制の適用が除外されています(労働基準法41条2号参照)。俗に管理職に残業代が支払われないといわれているのは、この規定があるからです。

 時間外勤務手当等の支払義務が発生するのかどうかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、比較的よく問題になります。多数の公表裁判例が存在することは、このブログでも折に触れて言及してきたとおりです。

 しかし、「2号」という根拠法条からも分かるとおり、労働時間規制の適用が除外されるのは、管理監督者だけではありません。管理監督者(2号前段)以外にも、

農業・畜産及び水産業に従事ずる者(1号)

機密事務取扱者(2号後段)

監視・断続的労働従事者(3号)

という類型があります。

 こうした方々も、管理監督者と同じく労働時間規制の適用は除外されており、時間外勤務手当等の支払い義務は発生しません。

2.監視・断続的労働従事者

 管理監督者以外の適用除外が問題になることは、実務上あまりありません。しかし、稀に監視・断続的労働従事者への該当性が問題になることがあります。

 労働基準法41条3号は、

「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」

を労働時間規制の適用除外者として規定しています。

 「監視・・・に従事する者」とは「原則として、一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないもの」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕256頁)。警備業者が行う警備業務の一部などがこれに該当します(平成5年2月24日基発110号)。

 「断続的労働に従事する者」とは「休憩時間は少ないが手待ち時間が多い者」をいいます(前掲文献同頁)。一定の要件を満たす宿直、日直などがこれに該当します(昭和22年9月13日発基17号)。

 ただ、「監視又は断続的労働に従事する者」であれば無条件に労働時間規制の適用を除外されるわけではありません。労働時間規制の適用除外を受けるためには、「行政官庁の許可」を受ける必要があります。「行政官庁の許可」が得られていない場合には、適用除外を受けることはできません(前掲文献257頁)。

 この「行政官庁の許可」について、受けるのを失念していたと思われる事案をみることがあります。近時公刊された判例集に掲載されている大阪地判令3.2.25労働判例ジャーナル111-22社会福祉法人幸福会事件もその一つです。

3.社会福祉法人幸福会事件

 本件で被告になったのは、特別養護老人ホームの経営等を目的とする社会福祉法人です。特別養護老人ホーム「しあわせの郷」及び「しあわせの郷和卯」を経営していました。

 原告になったのは、被告の従業員であった方です。在職中に適応障害を発症し、私傷病休職した後、休職期間満了により自然退職を通知されました。これに対し、適応障害の発症は業務に起因するため自然退職扱いは無効であるとして地位確認を請求するとともに、時間外勤務手当等を請求する訴えを提起しました。

 時間外勤務手当等の請求の可否、額を議論するうえで、本件では、宿直勤務について被告が「行政官庁の許可」を受けていたといえるのかが問題になりました。被告は「しあわせの郷」で従業員に断続的な宿直勤務を行わせるにあたっては東大阪労働基準監督署長の許可を受けていたものの、「しあわせの郷和卯」での宿直勤務に関しては許可を受けていなかったからです。

 被告は断続的な宿直勤務の許可を受けていたと主張しましたが、原告は

「東大阪労働基準監督署長の許可は、しあわせの郷に対するものであるから、しあわせの郷和卯における宿直勤務には及ばない」

と反論しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を採用しました。

(裁判所の判断)

「被告における宿直勤務は、労働基準法41条3号の断続的労働に当たるところ・・・、そのうち、しあわせの郷における宿直勤務については、東大阪労働基準監督署長の許可を受けていることは認定事実・・・のとおりである。したがって、原告の宿直勤務のうち、別紙裁判所時間シート各『備考』欄記載のしあわせの郷における宿直勤務については、労働基準法の労働時間等の規制が適用されない。他方、原告の宿直勤務のうち、しあわせの郷和卯における宿直勤務については、行政官庁の許可を受けていないため、労働基準法41条3号には該当しない。

4.管理監督者該当性と同じく金額が伸びやすい

 宿直勤務は時間数でみると長時間に及んでいることが少なくありません。これに時間外勤務手当等がつくと、それなりの金額になってきます。

 行政官庁の許可との関係で、イージー・ミスを犯している使用者は一定数います。ひょっとしたら、と思う方は、一度、確認してみても良いのではないかと思います。